楽勝なはずの乙女ゲームの世界に聖女候補として転生しましたが、攻略に失敗してみんなに嫌われたので、生きていくためにカレー屋で頂点目指します!

林 真帆
林 真帆

オヨビデナイヤツ

公開日時: 2021年8月13日(金) 22:26
文字数:962

「グレイス様、お客様がお見えになっています」


 朝食が済んで、例のごとく私室のベッドの上でゴロゴロしている私に、エマさんが客人の来訪を告げた。


「お客さん? 私に?」


 私には全く見当がつかなかった。この世界に、わざわざ私を訪ねて来てくれるような親しい人はいない。


 攻略法が全部上手く行っていたら、毎日誰かが代わる代わる来てくれて、デートに誘われていたんだけどねっ! ま、今さらこんなことを言ってもどうにもならないけど。


 あ、でも、こっちの世界の親戚とか、パパかママの弁護士さんかもね。この世界に弁護士という職業があればの話だけど。


 しかし、誰が来ようとも、私には会うつもりはない。でも、一応、誰が来たか聞いてみる。


「ギルバート様がいらっしゃっています」


「ギルバートって、あのギルバート?」


 私は思わずドアを開け、身を乗り出していた。


「はい……あの、支援者のギルバート様です」




 最悪だ。最も来て欲しくないヤツが来てしまった。しかも、支援者だから無下にできない。


(あ~、ユウウツだわ~)


 私がこんなにユウウツになっているのには、ちゃんと理由がある。


 私は、ギルバートが大っ嫌いなのだ。


 ギルバートは、生まれも育ちも貴族で、品行方正なアーサー様と正反対で、ハードな人生を送ってき過ぎたせいか、裏社会にお知り合いがたくさんいる。性格もよく言えばワイルド……。要は、デリカシーがないのだ。


 それに、あの見た目! 本人はカッコいいと思ってやっているのかも知れないけど、汚らしい無精ひげとか本当に勘弁して欲しい……。


 あんまりにも嫌いすぎて、ギルバートのルートでの恋愛エンドは一度も見たことがないし、ギルバートと接触するのは、必要最低限。だから親密度はいつも最低。


 だからこっちの世界に来てからも、一度もギルバートのところへは行っていない。




「ねー、エマさん。あいつ何の用事で来たって言ってた?」


 ギルバートが待つ部屋に行く途中、私はエマさんに尋ねた


「! グレイス様、『あいつ』というのはいくら何でも……」


「……いや、そんなに畏まる相手でもないでしょ」


 と私は吐き捨てるように言った。


「一応、支援者様なのですから、それなりに敬意を見せなくては」


 エマさんは、年上らしく私を窘める。本当は私の方がずっと年上なんだけど。


 そうこうしている内に、私たちはギルバートの待つ部屋の前まで来ていた。

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