魔狩

〜まかり〜
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8 草猿2

公開日時: 2021年6月3日(木) 12:00
更新日時: 2021年6月3日(木) 13:22
文字数:7,777

俺の相棒は色々と無防備すぎる。もしも俺が、欲望を抑制できないくそ野郎だったらどうする気なんだ。まあ、もし俺が手当たり次第に女を襲うような奴だったら、あそこまで信頼を置いてもくれないだろうけど。


「はぁ‥ちょっと当たり強かったか?」


少し自己嫌悪の感が出てくる。あいつはただ、頭を撫でてほしいだけだ。それは分かってる。けど、いくら何でもあんな物言いされて、意識するなっていう方が無理な話だ。いくら見た目が幼いからって、あいつは立派な女なんだと分からせられる。

森の中を歩きながら考え事なんて、本当ならよろしくないことだ。考え事がある時は、大人しく帰って心のつっかえを取るべきと師匠に教わったけど、そんなところにまで思考が及ばない。


「今日中に謝らないとな。これ、時間かけるほど気まずくなる気がする」


俺と菅良ももう半年ぐらいの付き合いになる。ベテラン二人によるザ・速成教育みたいな指導を二人で受けて、薬草採取に行ったら大型の魔物倒したり、今では二人分かれて魔物を掃討できる実力にはなった。炊事も家事も全部できて、性格もよくて、顔もいい。見た目が幼い以外は完璧な女子にあんな物言いされて、気まずくならない男がいるだろうか。性欲の権化みたいなクズ相手なら、あそこで押し倒されててもおかしくない。ヤンキーは貧乳が好みじゃなくても関係ないし。


「‥‥顔見れっかな」


いざあいつの笑顔を思い浮かべてみると、もうこの時点で気まずい。本人がいないのに顔を逸らしたくなる。おかしいな、俺にはロリコンの気はないはずなんだが。そんな本人に言ったら激怒されそうなことを考えながら、木の幹に頭を叩きつける。


「血も出ねぇ‥」


血も出なければ、痛みもない。ただ当たった感触があるだけで、一切煩悩を振り払えた気がしない。何で死んでるのにこんな、性に関する感情があるんだ。生殖本能は生者の特権のはずだろ。


「‥‥スゥ‥こんなことしてる場合じゃない」


危険な魔物がのさばる森で何やってるんだ俺は。いくら女子に惑わされたからって、命を賭してまでやることじゃない。さっさと見回りぐらい終わらせて―――


「っ!!」


甲高い音が響く。近くで鳥が飛び立つ。森中に響いていくが小さくなっていくと、遠くで何かが砕けるような音が、ホントに少しだけ聞こえた。


「響貝‥ってことは、あいつのとこか!」


菅良の元に何かがいる。さっきまで考えていたことも全部吹き飛んで走り出す。途中で銃声も響き渡り、戦闘に入っていることが離れていても分かった。こういう時、菅良が銃でよかったと思える。銃声が響いている限り交戦していることが分かるし、音で位置も割りだせるからだ。

だけどすぐに銃声が聞こえなくなる。木が倒れたりしてるから、戦闘は継続していると思うんだが―――何かがこっちに飛んできた。


「っと!これは‥菅良のナイフ‥!?あっちには銃か!?」


もしかして、もうやられた後なのかと思ったが、木々の隙間から何かが見える。何やら倒れこんだ人型の何かと、黄色の体毛を持つ何か。

「なんだあいつ、見たことないぞ。あいつが森の異常か」


あんな奴は見たことないし、西川さんからも聞いたことがない。この島にいる魔物は一通り聞いてるし、特徴も頭に入ってる。けど黄色の体毛なんて聞いたことがなかった。よく見ようと草をかき分けると、未知の魔物が何かを踏みつけている。


「あれは‥菅良!くそ、ヤバいぞこれ!!」


菅良の体に何か緑色のものが巻き付いていて、踏みつけられても抵抗できないみたいだった。走っても間に合わない距離にいる俺は咄嗟に銃を持ち、うろ覚えの知識でマガジンを開く。


「弾はある。確かあいつ、こんな操作で‥!」


弾丸が残っていることを確認して、不慣れな銃のコッキングレバーを引く。確かこうすると弾倉に弾丸が装填されるはずだ。何が装填されてるかは分からないけど、この際どっちの弾丸でも構わない。最悪、こっちに気が引ければいい。

確か、上についてるこの楕円形の中に棒が立っているこれがサイトだったはず。間違っても菅良に当たらないよう、棒の先端を魔物に合わせる。幸い体格はあるから、俺でも狙いを合わせるのは簡単だった。


「これでもくらえ!!」


銃声が鳴り響く。弾丸は発射されたけど、着弾は確認することができなかった。

思ったより反動がある。銃ってこんなに反動が強いのかと、倒れそうになる体を支える。反動で上に上がった銃を下ろして、どうにか菅良の安否だけでも確認しようと向こう側を見やる―――ぽたり、と一滴の赤い液体が落ちた。

当たった。よかった、菅良に当たらないかだけが心配だったけど、俺の腕でも動かない魔物には当てられるらしい。


「‥‥‥‥?」


不思議そうに目を開く菅良。見た感じ生きてはいる―――もう死んでるけど、生きてはいるらしい。思わず安堵の息を吐く。


「GUUUU‥‥!!」


「菅良!!逃げろ!!」


「能登谷くぅん‥!!」


菅良の目から涙が零れる。もしかしたらどこか痛むのかもしれないし、怖かっただけかもしれない。後者であることを祈りつつ、菅良のものであろうナイフと銃を控える。

痛みに呻く魔物は憎々しそうに俺を睨むと、球体を一つ、腕の体毛の中から投げ飛ばしてきた。。


「能登谷君!それは受けちゃダメ!!」


「おう!!」


銃を下げながらもう片腕で抜刀し、頭を低くして球体を下げる。俺の上を通り過ぎていった球体は木に当たった瞬間弾け、幹を覆いながら巻き付いた。

見れば、菅良の体にも同じものが巻き付いている。あれに縛られて逃げられなかったのかと、理解と同時に脅威の念を抱いた。


「ほらこっちだ!あっちには行くんじゃねえぞ!!」


菅良のナイフと銃を向こう側に投げ、そのままの勢いで肉薄する。銃は拾えなくても、ナイフぐらいなら拾って拘束を解くことができるだろう。何とか時間だけでも稼ぐのが、今の俺の仕事だ。


「っらァ!!!」


両手で懐に入ろうと試みるけど、振るった刀は宙を斬る。このバカでかい怪物は、巨体の重さを全く感じさせないほどのスピードで俺の刀を避け、しかも隙あらば剛腕を振るってくる。


「ズァぁ!!」


相手の攻撃に合わせ、刃を添えるように斬りつける。黄色の体毛が宙を舞い、しかしそれだけだということを認識して、突きや薙ぎも織り交ぜて攻撃していく。

こいつ、引く気配がない。負傷しているとは思えないほどの速度で攻撃してくるせいで、むしろこっちが防戦一方になっていく。


「速‥!!っのォ!!」


振るわれた腕に合わせても、それを見て避けてくる。事前に察知してるでもなく、見て避けてくるあたり、まだあいつには余裕があるんだろう。こっちは持てる技能を全部つぎ込んで肉薄してるのに、野生の魔物との力の差を感じる。


「相手に合わせるだけじゃ駄目か!なら‥!!」


振るわれた腕が、胸を大きく開く。そこに合わせるように突くよう見せかけて、刀を一瞬放す。右手で持っていた刀を、体を捻りつつ左手で取り、刃を体で隠しながら回転斬り。それも回避しようとしたみたいだが、流石に何も見えないところからの剣技は反応しきれなかったらしい。僅かに胸を斬りつけて、薄っすらと血が毛に滲んでくる。


「UUUUUU‥!!!!」


低く唸った奴は敵意を剥き出しにしながら睨んでくる。だが負傷している側が不利とみたのか、俺を一瞥した後に腕で薙ぎ払い、それを後退して回避した隙に枝へと蔓を伸ばす。そしてそのまま木の上に昇り、もう一度こっちを一瞥した後、どこかへと去っていった。


「た、助かった‥?」


「ああ。大丈夫か?どっか怪我とか」


「ううん、大丈夫。ちょっと踏まれたりしたけど、多分無傷だよ‥っつ‥!」


「お、おい!やっぱどっか怪我してるんじゃ」


両脇で腕を縛られてるからか、ナイフを拾っても蔓を解くことはできていなかった菅良。縛られた美少女とか、これはこれで背徳的で目に悪い状態だ。けどそんなことを言っている訳にもいかない。ナイフを受け取って後ろでザクザク刃を入れると、一瞬痛みに呻くような声を漏らす。


「‥‥お腹がちょっと痛いかも。あと、蔓が擦れて痛い。ぅぅん~!!っはぁ、ありがと。助かったよ」


腹を擦りながら、赤くなった手首を揉んでいる。巻き付かれていた蔓と同じ太さの痕が残っていて、傷ついてる訳じゃないのに妙に痛々しく見えた。けど傷らしい傷はないらしく、大きく伸びをしてから微笑みかけてくる。

さっきまで結構悩んでたけど、いざ対面すると意外と話せるな。やっぱ俺はロリコンじゃないらしい、よかった。


「よかった。アイツの事、なんか覚えあるか?」


「ううん。見たことも聞いたこともない」


半年とはいえ、俺たちもこの冥界で生活してきた。頭の中を探っても、やっぱりあんな奴の知識はない。


「新種‥とか?」


「外来種ってのも考えられるな。俺たちが知ってるの、ほとんどが島に生息してる奴だけだしな」


なんにしても、これは報告する必要がある。組合から派遣されてきたあの下馬場って人、俺も菅良もあんま得意じゃないんだが仕方ない。回収する物を回収して、俺たちも一度村へと帰ることにした。




帰り道、というより帰り航路。狩猟小屋からボートで村に戻ったぼくは、ボートの上で能登谷君と話をした。ボートの上なら大型の魔物も近寄ってこられないし、海の音以外聞こえないから静かに話せる。

怒らせてしまったこと、ぼくも男女関係を築く上での配慮が足りなかったこと。そういったことを謝ると、能登谷君は快く許してくれた。というより、最初から怒ってたんじゃなくて、恥ずかしくて強く当たってしまっただけらしい。それを聞いてほっとした。ぼくが男の子だったら、絶対勘違いしてたと思うし、女から見てもあれはぼくに非がある。それなのに謝って来てくれたあたり、やっぱり能登谷君は優しかった。

村に到着すると、能登谷君に念の為医者にかかれと言われた。医者といっても、村にいるのは癒魂草を薬にしたり、鎮痛剤をぼくたちに供給してくれたり、心の薬お酒を作ったりもしている千代田ちよだ 良子よしこっていうお婆さんなんだけど。

能登谷君は先に組合に報告しに行ってくれるらしく、心配してくれる能登谷君と途中で別れて診療所へと向かう。


「こんにちはー」


「ああ?ああ、帰ったのかい。で、今日はいくつ使ったんだい?」


「補給もそうなんですけど、ちょっと診てもらいたくて」


そう言ってお腹を擦ると、お婆さんはぼくに椅子を勧めてくれた。椅子に座って防具を外し、お腹を出す。青あざができてたりとか、そういうことはないけども、千代田さんにお腹を押されると、思わず呻いてしまう程度の痛みが走る。


「外からは目立たないけど、内部がちょっとやられてるねえ。ま、この程度なら薬湯にでも浸かれば治るよ」


そう言って立ち上がり、棚の中から一袋の粉を投げ渡してくる。


「そいつを湯船に混ぜて使いな。30分も使って寝れば、明日にはよくなるよ」


「本当ですか!?助かります」


「用が済んだら行きな。お互い仕事が残ってるだろう?」


しっしっと追い払う動作をするあたり、ちょっと不器用なところが垣間見える。

死者になっても、ご飯を食べるしお風呂も入る。衛生的な観点から見れば入る必要はないんだけど、お風呂は心の洗濯というように、お風呂は汚れを落とすとともに心を癒してくれる。自殺して逃げるという手段が存在しないぼくたち死者にとって、精神安定の手段はとても大切だった。何より、汚れたままだと嫌だし。

そんなお風呂に入れるだけで怪我まで治るなんて、なんて素敵な文化なんだろう。千代田さんにお辞儀してから診療所を出て、そのままの足で組合へ向かう。一応ぼくも当事者だし、情報があるなら知っておきたかった。


「下馬場さん、あんまり得意じゃないんだけど‥」


というか、正直苦手まである。

冥能村支部の従業員である下馬場さんは、何というか、同性愛気質なところがある。あれを同性愛と言っていいのか疑問だけど、とにかくぼくに対する執着が半端じゃない。村のみんなはぼくのことを孫か娘のように可愛がってくれるけど、あの人だけ可愛がり方が何というか、ペットや玩具を愛でるそれに近い。

無意識に溜息を吐きつつ歩いていると、いつの間にか組合へと辿り着いていた。


「‥‥‥すぅ‥」


何か聞こえる―――


「志緒ちゅわあああああんああああああ!!!?」


入り口を一歩横にずれると、まるで狙ったかのようなタイミングで人が飛び出してくる。


「はぁ‥!はぁ‥!こ、この私が抱擁を外すとは‥私もまだまだね」


涎を垂らしながら起き上がる。その姿を見るだけで、思わず背筋に寒気が走った。だけどそれすら彼女にとってはご褒美なのか、ドン引きしたぼくの姿を見て自身の体を抱きしめ、愛おしそうにぼくを見つめてくる。

更に足音がすると思えば、能登谷君と西川さん、それに工房の栞さんが呆れ顔で出てきた。


「ああ、来たのね志緒ちゃん。こいつが担当で本当に災難ね。担当を変えてもらうよう、この問題行動は逐一組合に報告してるところだから」


「そんな!?こんなにも私は業務に尽くしているというのに‥!!」


「特定の魔狩に入れ込むことなかれ、それが組合の規則のはずよ。見なさいよ可哀想に、完全に引いてるじゃない」


「そんな姿の菅良さんもまた!一興‥!!」


ダメだビョーキだこの人。

話を聞くに、どうやら栞さんと下馬場さんはおおよそ同年代らしく、こうしてタメで注意してくれる。可愛がり方もとても優しくて抱擁感があって、全体的に栞さんの方がぼくは好きだった。


「女の子はいい!笑う姿、怒る姿、悲しむ姿‥苦しむ姿から真剣な姿!淫らな姿まで‥!!いついかなる場合においても女の子は!美しいッ!!!こんな存在は現世も冥界も含めて一つ!人間の女の子のみ!!そんな女の子を愛し、慈しむことの何がいけないというのです!!?」


「慈しむのはいいけど、慈しみ方が問題なのよ。ホントに嫌われるわよ?」


「嫌われるのは嫌です‥!特定の姿しか見せてくれなくなるから‥ですが、例え嫌われてしまったとしても、私は女の子を愛し続けます!!」


思わず能登谷君の後ろに隠れる。やっぱこの人は苦手すぎる。本当にダメだよ。仮に裸を見せる事があるとしたら、この人より能登谷君を選ぶぐらいには受け入れ難い。それぐらいぼくはこの人に関わりたくなかった。


「志緒ちゃん、こいつは私に任せなさい。いい加減、あいつにはお灸をすえてやらないとね」


「私とやる気ですか?いいでしょう、あなたも愛する女の子の一員です!可愛がってあげましょう!!」


下馬場さん栞さんのような構図。できれば虎の方に勝っていただきたいと祈りつつ、ぼくは能登谷君の裾を引っ張る。


「ぼく、あの人やだ」


「奇遇だな、俺も見たくない」


能登谷君と心を通わせる。同じ人間なのに、どうして趣味嗜好でここまで脅威を与えられなければならないんだろう。

能登谷君が西川さんがいた場所へ顔を向ける。ぼくもそっちを見てみれば、逃げ道を示すように手招きをしていた。ぼくは極力彼女に関わりたくないので、いの一番に歩き出した能登谷君の後ろへ着いていく。

建物内に入ったぼくたちが案内されたのは、大量の本が積み上げられた机だった。その中で数冊開かれた本があり、遠目に見ると何だか見たような写真が掲載されている気がする。


「ぼくも薄っすらとしか覚えていなくて、能登谷さんの情報を元に調べてみたんです」


「覚えているってことは、新種ではないってことですか?」


「ええ。ですが、まさかこの島にまだ奴がいるとは‥」


【まだ】と言ったように聞こえる。


草猿そうえん‥霊長目猩々しょうじょう亜目架猿かえん上科草猿科」


「そんな細々とした情報はいいです。俺たちには役立てられなさそうなので」


「冷たいですねぇ」


やれやれと言いたげに首を振る。生物分類学なんて知っても役立てられなさそうなので、ぼくとしては生態とか、特徴とか、そういうのが知りたいんだけど。


「草猿とは、かつてこの島を荒らしに荒らした外来種です」


西川さんが記録を片手に語りだす。

ぼくたちが遭遇した魔物の名前は草猿。かつてこの島に村を興す時、船にこっそり忍び込んでいた草猿の幼体が複数頭ほど島に侵入し、成長した成体の草猿が島の生態系を滅ぼしかけたらしい。


「そんなに強い魔物なんですか‥!?」


「二人も出会ったなら対峙したと思います。草猿は非常に強靭な肉体を持ち、ソウエンハジケバナと相利共生の関係を築くことにより、行動手段を大幅に拡張しています」


あの蔓が飛び出てきた球体は、ソウエンハジケバナという植物の球根らしい。あの球根は衝撃を受けると弾けるように蔓のような根が飛び出し、近くのものに巻き付く性質があるらしい。草猿は戦闘力の増強、ソウエンハジケバナは生息域の拡大という利益が合致している為、互いに利点のある関係を築いている。これが相利共生という関係。

ぼくも縛られて痛めつけられた。草猿の直接的な戦闘能力の高さに、移動や拘束の手段が合わさってしまって、草猿は元来以上の危険度を持つ魔物らしい。


「島の自然を破壊すれば、我々も暮らせなくなってしまう。昔はクンケルと掃討作戦を展開したな」


「村長」


あの100歳越えが織りなす地獄のキャットファイトを尻目に、村長が建物へと入ってくる。癒魂草の効果が出てきたのか、欠損していた部分が少し伸びていて、あと数か月もすれば完治するだろうというところまで来ている村長が、本にそっと手を添えた。


「あの時、島から完全に絶滅させたと思ったが‥まさか生き残りがいたとは」


「今までまったく姿を見せませんでしたよね。どうして今更‥」


「分からん。だが、この島はあまり広くない。今まで姿を現さなかったということは、あまり個体数も多くはない」


島の大半が魔物の生存圏。生存競争は日々行われていて、森にぼくたち人間も踏み入ってはその生態を見て来たけど、その姿は一切見られなかった。個体数が多くない以上、いずれは親近で絶滅するだろうけど、そのいずれがいつになるのかが分からない。ぼくたち人間の生存圏が脅かされるかもしれないし、何なら他の魔物が追いやられていて、現段階で間接的に脅かされている。


「村に入ってくる以上、俺たちも迎撃せざるを得ないけど‥」


「それで数が減りすぎたら問題だよね」


島に住む人間は、嫌でも自然と共存せざるを得ない。魔物も、理由もなく人間を優先的に襲ってきたりしないし、手近なところに餌がある限りこっちに来ることもない。けど特定の魔物の数が減りすぎたら、この狭い島のバランスすべてが崩れかねない。


「村長として正式に魔狩へ依頼しよう。草猿を討伐せよ」


『はい』


引き受けざるを得ないんだけど、どうしよう。ぼくのAIMを鍛えるのもそうだけど、前衛の能登谷君が追いつけない。一撃か二撃与えるのが精いっぱいだったし、かといって単騎で行くのはそれはそれで危険性が高い。


「それでしたら、私に妙案があります!!!」


「うわ出たっ!?」


「化け物みたいな扱い‥いいですねぇ‥!!」


服だけズタボロになった下馬場さんが、無傷の栞さんを引き剥がして入ってきた。思わず能登谷君の後ろに隠れてしまったぼくは、決して悪くない。呆れ顔の栞さんには見もくれず、受付の本から一つのページを提示してきた。


「島の外に行きましょう!!」


その本に記載されていたのは、島の外が対象の討伐依頼書だった。

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