山間の街、バルディア。
鉄鉱石が採掘されることで大きくなった街だった。ここにある鉄鉱山は王国内でも有数なようで、街の名はファジルにも聞き覚えがあるほどに有名であった。
「聞いていたよりも、随分と大きな街なのね」
エクセラが左右を見渡しながら言う。
「そうですね。山間にあるといってもバルディアは大きな街なんですよね。それにここは鉄鉱山で栄えた街ですからね。住民の大半は鉱夫をはじめとして鉱山にかかわって生計を立てている人たちなんですよ」
エディがもっともらしく説明している。そのエディの顔には奇妙な仮面がつけられていて、両手にも肘まである革手袋をしている。
要は骸骨姿のままでは街に入ると何かと問題があるだろうということで、街に入る前にエクセラとカリンがエディのために仮面と革手袋を買ってきたのだった。
最初は仮面や革手袋を身につけることを嫌がったエディだったが、その様子に業を煮やしたエクセラの手に浮かんだ火球を見て渋々ながらも納得したようだった。
エディの言動から察するに、彼には彼なりにその姿には不死者としての矜恃があるらしかった。骸骨姿の矜恃って何なんだよと思わないわけでもなかったが、話がややこしくなりそうだったので、ファジルはそれを口にはしなかった。
そのような中で先頭を歩いていたガイが背後を振り返って口を開いた。
「さて、宿屋を探さないとな。エクセラ、もう高い宿屋には泊まらないからな」
ガイの言葉にエクセラは口を尖らせただけで反論はしなかった。それを横目で見ていたカリンが片手を上げる。
「はい、はーい。お菓子は買ってもいいんですかー?」
そのカリンの顔はなかなかに真剣だったりする。
「まあ、高いものでなけりゃ少しはいいんじゃねえか」
ガイが同意を求めてなのだろう。ファジルに視線を向けてきた。その視線にファジルは無言で頷く。
「わーい!」
ファジルの返事を受けてカリンが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「はあ? カリンだけずるいんじゃない」
エクセラがここは黙っていられないとばかりに口を開いた。
「いや、ずるいって、子供相手にさ……」
そう言ったファジルにエクセラが深緑色の瞳を向けた。その瞳の奥には既に怒りの炎が宿っているかのようだった。
「だから、見た目が子供なだけなんだって。きっと百歳は軽く超えているんだからね!」
「エクセラはそんなことばかりを言って。だから嫌いなんですよー」
カリンが両頬を膨らませている。その姿も相変わらず可愛らしいとファジルは思う。
「お前ら、口を開けば喧嘩をするんだな。歳が近い小さな子供の姉妹だって、そんなに喧嘩はしねえぞ」
ガイの呆れたような声にエクセラは怒りがこもった瞳を今度はガイへと向ける。
「はあ? 喧嘩なんてしてないわよ。ずるいって言ったら、この何ちゃって幼児が私に絡んできたんじゃない」
「あー! またエクセラがぼくの悪口を言ったんですよー」
「悪口じゃないわよ。本当のことじゃない」
カリンの言葉にエクセラが即座に反論する。
「むっきー」
杖を振り回そうとするカリンを背後からガイが羽交い締めにする。どうやらカリンを止めるのはガイの役目になったらしい。ガイにとってはいい迷惑な話なのだろうけど。
ファジルがそんなことを思っていると、不死者のエディが羽交い締めにされているカリンの前に立った。
「ほらほら、カリンさん、そんなに怒ると可愛らしい顔が台無しですよ。実は私、とてもいいものを持っているんですよ」
「ほえー? 何なんですかー?」
「はい、こちらです」
そう言ってエディが懐から取り出したのは棒の先に大きな飴がついているお菓子だった。
「ほえー、大きな飴なのです!」
ガイの羽交い締めから脱したカリンはエディからお菓子を貰って、たちまちご機嫌となる。どうやらエディが一番、この中ではカリンの扱い方を分かっているようだった。
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