「何か、やばい奴が出てきたんだけど……」
ファジルの隣でエクセラが派手に頬を引き攣らせている。その意見にはファジルも激しく同意するところだった。
「やばい奴なのですー」
カリンが意味を分かっているのか、嬉しそうにその隣で飛び跳ねていた。それに合わせて腰まで届く金色の髪が宙で揺れている。
「エクセラ、こいつはやばいぞ。正義の山賊とかって言って真顔だぞ。しかも、一人だけで……」
ファジルは小声で言う。エクセラの片頬がファジルの言葉に合わせて引き攣るのを見ながら、ファジルは更に言葉を続けた。
「山賊って悪い奴だろう? それが正義だって言うのなら、もう山賊じゃないぞ。しかも、一人だし……」
ファジルは尚も一人を強調する。
「ファジルの勇者になるんじゃなくて、勇者になりたいだけだと同じぐらい訳が分からないわね」
エクセラの言葉にその話と一緒にするなとファジルは思う。それは至って明快だろう。
「お前ら、いい加減にしろ。全部、聞こえているんだよ!」
大きな男だった。背も高いのだが、その分厚い胸板や両腕、そして両足にはこれでもかといった程に筋肉がついているように見えた。
「何、この筋肉ごりら。喋れるみたいよ」
エクセラが鼻で笑うように言う。
「てめえ、俺はごりらじゃねえ!」
男が怒気を発した。
それはそうだろうとファジルも思う。だって、ごりらは話せないだろうから。
この男は急に山道の脇から出てきて、正義の山賊を名乗り、これ以上は通るなとファジルたちに言ってきたのだった。正直、訳が分からない。どう考えても、ごりらに似ている頭がおかしい奴だ。
「通るなと言われても困るぞ。俺たちはここを通りたいんだ」
ファジルにとっては当たり前のことを言うと男は更に血相を変えた。
「あ? お前は馬鹿か。通るなって言ってるんだから、通れないんだよ」
「いや、通るなって言われても、俺たちはここを通るから」
「あ? お前、本当に馬鹿だな。だから、通るなって言ってんだよ!」
……馬鹿みたいな奴に馬鹿と言われると、余計に腹が立ってくるのが不思議だ。
「ちょっと、あんたたちは互いに話すのは止めなさい。聞いているこっちの方が恥ずかしくなってくるんだから」
そう言ったエクセラに男が尖った視線を向けた。
「あ? 女は黙ってろ。お前の意見は訊いてねえんだよ!」
この言葉にエクセラの頬がこれ以上はないぐらいに引き攣った。エクセラの怒りの波動に合わせて彼女の赤毛が宙を泳いだ気がする。
「はあ? 女は黙ってろって、このご時世にそんなことを言うわけ」
一体、どのご時世だろうかとファジルは思う。
「あんた、燃やすわよ?」
「何だ、やる気か?」
エクセラと男が一歩ずつ前に進み出る。
「ほえー、喧嘩なのですー。大変なのですー。爆乳魔導士が、ぶち切れなのですー」
カリンが両手をぱたぱたとさせている。
相変わらず可愛らしいカリンを後ろに下がらせて、ファジルはエクセラの前に立った。このままでは死人が出るかもしれないと思ったのだ。もちろん、死ぬのは男の方だ。
「エクセラは下がっていろ。そう、危ないからな」
「ファジルったら……」
何を勘違いしたのか、エクセラは何故か少し頬を赤らめて素直に後ろに下がった。そして、カリンの金色の頭を叩く。きっと、爆乳魔導士と言われたことが聞こえていたのだろう。カリンが涙目で金色の頭を擦っている。
「あ? お前が相手になるのか」
男は背中にあった幅の広い大剣を抜いて構える。それにしても幅といい、長さといい、見たことがないくらいに大きな大剣だった。
いくら体が大きいとはいっても、このように大きな剣をまともに扱えるものなのだろうか。
「舐めるなよ。剣が俺よりもでかいからって、俺より強いわけじゃないからな」
「ファジル……」
獅子王の剣を抜き払ったファジルの背後からエクセラの情けなさそうな声が聞こえてきた。だが、意味がよく分からなかったので無視をすることにする。
「お前、すげえ馬鹿だな!」
その言葉と共に男は上段で構えていた大剣を一気に振り下ろした。
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