「薄気味悪い骸骨が、さっきから何を偉そうなことばかり言ってるのよ。薄気味悪い骸骨なんだから、何もしていなくても周りから嫌われるのは当たり前じゃない。それが嫌だったら最初から薄気味悪い骸骨になんてならなければよかったのよ」
薄気味悪いを連呼する身も蓋もないようなエクセラの痛烈な言葉だった。人としてどうなのだろうと思わなくもないのだが……。
「これはこれは中々の暴言で……」
不死者の言葉にエクセラの片眉が跳ね上がった。
「それに、あんたの話し方がさっきから勘に触るのよね。骸骨のくせに何様のつもりなのかしら」
あー、エクセラさん、完全に喧嘩を売っている。
まだ何もしていない不死者が、何だか少しだけ可哀想になってきた。
「いやいや、骸骨だからと非難されても……私は不死者ですので……」
「はあ? 不死者が全部、薄気味悪い骸骨になるわけじゃないでしょう。吸血鬼だって、それこそ屍鬼だっているじゃない」
「いや、血を吸うのはちょっと……屍鬼は腐っていて匂いますしね」
不死者の言葉にファジルそういう問題なのだろうかと思う。いずれにしても、周囲に住む人々が納得するような理由を言わせなければならないとファジルは思っていた。
普通に考えて、今まで悪いことはしていないからでは住民も納得できないだろう。それを骸骨が言っているのだから、尚更だとファジルは思う。
「まあ、ここは面倒だろうけど、周辺住民のところに出向いて、自分には害がないって直接伝える他にないんじゃねえか」
ガイがカリンを羽交い絞めにしたままで言う。それまでと同じくカリンの口はエクセラによって塞がれている。
「……嫌、ですね。私がどこに居を構えようと、私の自由ですからね。先程も言ったように、誰に迷惑をかけてるわけでもないですし」
「はあ? いい加減にしなさいよ。さっきから子供みたいなことを言って。迷惑はかけませーん。宜しくお願いしまーす。とかって言っておけばいいだけじゃない。それで丸く収まるってもんでしょう?」
進展しない話にとうとうエクセラが郷を煮やしたようだった。いや、先程から既に怒っていたか。
「何故、私が人族ごときに頭を下げねばならない?」
「はあ? 本音が出てきたみたいね。こっちに言わせれば、薄気味悪い骸骨がなにを上から目線で私たちに物を言っているのよって話なんだからね!」
「人族の分際でこれ以上、私を骸骨呼ばわりするのは許さんぞ!」
……いや、骸骨なのは間違っていないだろう。
ファジルが心の中で呟いた時だった。ガイの両手からするりと抜け出したカリンが不死者の前で仁王立ちとなった。そして、可愛らしい両手を不死者に向ける。
「不浄の存在は、ぼくが許さないのですよー。消滅!」
両手から黄金色に輝く帯のような光が、不死者に向かって発せられた。光に包まれた不死者は……。
……あれ? 消えかかってる?
……不味くないか?
「お、おい、カリンを止めろ!」
ファジルの言葉にガイが慌てて再びカリンを羽交い絞めにする。
「ほえー? 離すんですよー。不浄の者はぼくが浄化するんですよー!」
ガイに羽交い絞めにされて再び宙に浮いてしまった両足をカリンは激しくばたばたと動かしている。
カリンが魔法の発動を止めたことで急速に薄れて霧散した金色の帯の中から不死者が姿を現した。そして、ファジルに顔を向ける。
「……私、いま消えかかりましたよね?」
「……いや」
ファジルは何となく視線を逸らした。確かに消えかかっていたのを見た気がする。いや、間違いなく薄くなっていたかと……。
「いやいや、間違いなく消えかかりましたよ。薄くなっていましたよ。川の向こうで死んだ両親が笑顔で手を振っていましたもん!」
……振っていましたもんって……いや、いや、もう死んでいるんだから、その表現はおかしいだろう。
ファジルは心の中で呟いた。
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