ガイは更に言葉を続けた。
「ファジルとエクセラ、そしてエディは魔法学院で魔族について調べてくれ。俺は調べ物なんて柄じゃないからな。ファジルは念のために、エクセラたちと同行した方がいいだろう。またあいつらに襲われないとも限らない」
「ほえー? ぼくはどうするんですかー?」
カリンはガイの言葉に小首を傾げている。
「カリンは俺と一緒に冒険者組合だ。食い詰めた親子の設定なら、いい仕事を回してもらえるかもしれない」
そう言って、ガイは悪徳金貸し商人のような顔をしている。言っては悪いのだが、とても正義の山賊を標榜していた人物には見えない。
「はーい。ぼく、頑張るんですよー。頑張って貧乏親子の演技をするんですよー!」
カリンが片手を挙げてぴょんぴょんと飛び跳ねた。そんな様子のカリンにガイは視線を向ける。
「カリン、やる気だな? まずは服を汚してだな……」
「ほえー?」
カリンが小首を傾げている。ガイが悪徳金貸し商人というよりも、単なる詐欺師そのものに見えてくる。
それでも何となくの役回りは決まったようだった。
お金と魔族の問題。相反するというよりも全く異なる属性の物事だったが、これで少しは光明が見えてきたような気がするファジルだった。
ファジル自身には懸念があったものの、魔法学院には簡単に入ることができた。予想外にすんなりと門を通れたことで、ファジルは拍子抜けしたような気分になる。
学院の門前には、どこかの王宮のように物々しい雰囲気を纏った警備の人間がいた。だが、警備の者たちにエクセラが名前と要件を伝えると、何かを確認されることもなく敷地内に入ることができてしまった。
何を考えているのか理解に苦しむところだが、どこか道化師じみた奇妙な仮面をつけた者がいるのだ。最悪、エディは同行できないかもしれないと思っていたが、エディも同様に問題なく敷地内に入ることができてしまった。
それだけ学院ではエクセラの存在が凄いということなのか。主席で卒業するということは、自分が思っている以上に学院内では影響力があることなのかもしれない。そんなことをファジルは考えていた。
まあ、問題なく学院内に入れるのならば、それで十分なのだけれども。
鈍く光を反射する床。廊下の角には豪奢な壺が並び、壁には一枚一枚手の込んだ絵画が飾られている。
やたらと豪奢な廊下だった。貴族なども含めた有力者たちの子弟が入学してくるのだ。ならばこれぐらいの豪勢さは建前上も必要なのかもしれない。
そんな思いで見ていると、すれ違う生徒たちも自分とは違う人種できらきらとして見えてくる。エクセラも学院に通っていた時はこんな感じだったのだろうか。
やはりエクセラは、なんちゃって勇者一行と同行していてもいいような人物ではないのかもしれない。そう考えるのは自分を卑下しすぎなのだろうか。
そんなことを感じながらファジルは先頭で得意げに歩いているエクセラに声をかけた。心持ちエクセラの細い顎も上を向いている気がする。
「で、これからどうするんだ?」
「そうね。取り敢えずは講師がいるところに行きましょうか」
「講師って、魔法の先生ってことか?」
「……まあ、簡単に言えばそういうことよね」
何故だろう。エクセラの頬が大きく引き攣っている。ファジルとしては理由がよく分からないので、それは放っておくことにする。
「やっぱり難しいですよね。講師の方々に真正面からは、あれを訊けないですから」
エディがふざけた房を頭頂部で揺らしながら言う。この赤い房、動作に合わせて揺れているようで、実はエディが故意に揺らしているのではないだろうか。
そんな疑問が苛立ちと共にファジルの中で生まれる。
単にふざけているとしか思えてこない。やはり二つにしてしまおうか。不死者だし、どうせ死者なのだから叩き斬ったところで大した問題にはならない気がする。
ファジルがそんな物騒なことを考えていると、エクセラが鼻息を荒げて口を開く。
「そこは大丈夫よ。ちゃんと考えているんだから。それに私は主席で卒業したのよ。何かと気に入られているんだから。後、あなたたちの役割なんだけど……」
「役割?」
思いがけない言葉が出てきてファジルはそれを繰り返す。
「当たり前じゃない。友達を連れて来ましたーって感じで、王立の魔法学院に入れるわけがないじゃない」
エクセラが呆れたように言う。
簡単に入れたと思ってはいたのだが、言われてしまえばそんな気もしないではない。
「ファジルは私の護衛。エディは助手だからね」
エクセラがさらに念を押してきた。
「……護衛」
「……助手ですか」
ファジルとエディが同時にエクセラの言葉を繰り返す。
「はあ? 文句があるわけ? 使用人の方がよかった?」
いやあ、それはそれでどうなのだとファジルは思う。
使用人となれば人目があるところでは、エクセラに顎で使われることになりそうだ。そうなると相手はこのエクセラだ。何を言われるか分かったものではない。
納得できたわけではないが、護衛という肩書きが一番しっくりくるとファジルは自分に言い聞かせた。エディに関しては、頭がおかしい男とは言えないだろうから、やはり助手としか言いようがないのかもしれない。
納得できない部分はあるものの、護衛という肩書きが最も現実的だとファジルは思うのだった。
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