「エクセラに文句を言っても仕方がねえだろう」
見かねたのだろうか。顔を顰めながら口を開いたのはガイだった。その言葉にファジルは灰色の頭を左右に振った。
「別に文句は言ってない。でもここの警備隊にしてもそうだが、バルディアであれだけの人たちが犠牲になったのにまるで他人事だ」
「そりゃまあ、あのおっさんたちには関係ない話だからな。おっさんたちはここをこの街を守るのが仕事だろ」
ガイの言っていることはファジルも分かるのだったが、危機感といったものが皆無なのがどうにも納得ができない。
「でも不思議だな。こんな城壁があってどうやって魔族がこの国に入ってこれるんだ? どうしてバルディアであんなことが起こったんだ?」
「確かなことは分からないけど、転移魔法で少数の魔族が侵入したんでしょうね。そして、大魔法を発動させた……って考えるのが自然じゃないかしら」
そんなことができるものなのだろうか。でもエクセラが言いているのであれば多分、そういうことなのだろうとファジルは思う。だけれども、それでも細かい疑問は残る。
「……何故、そんな大魔法を王都などの大きな王国の拠点ではなくて、バルディアのような街で発動させたのかということですかね」
ファジルの疑問を代弁するかのようにエディが言う。先程からエディはいつもの様子とは違って、いたって真面目な雰囲気だった。ファジルはそれに無言で頷く。
魔族が人族に対して具体的に何をしようとしているのかは分からない。だが、普通に考えるのであれば、魔族にとっては不倶戴天の敵である人族を排除しようとしているのだろう。それこそ人族と同じように。
そうだとして王国内のどこかにある街を壊滅させることが人族の排除に繋がるのだろうか。ならば今後はバルディアのような街の惨劇が王国各地で頻繁するのだろうか。
だけれども、そんなことはそもそもが可能なのだろうか。
黙ってしまったファジルにエクセラが声をかける。
「ファジル、考えても分からないわよ。情報が少なすぎるのだから。今、分かっていることは国境に接したこの街では、もう長いこと魔族の脅威にさらされてはいないってことね。あんまり考えすぎると、ファジルは考えることになれていないのだから、頭から煙が出てくるわよ」
何だよ、馬鹿にして。そう思わないわけでもなかったが、情報が少ないというのは確かに事実だった。
「国境に接しているこの街で魔族の脅威がないとなれば、他の国境に接している街も似たような状況なんだろうな」
そう言ったガイがそこで何かに気がついたような顔をして、再び口を開いた。
「……なあ、俺たちは何で魔族を嫌っているんだ? 嫌うのならその原因があるはず」
いや、だから自分がそれを前から言ってるだろう。そう思ったファジルは、不思議そうな顔で今更のように首を捻っている筋肉ごりらは放っておくことにする。
「でも、魔族の脅威があるのは事実だ。実際、バルディアの街は酷い惨劇だった」
ファジルの言葉にエクセラが頷く。
「そうね。それはそうなんだけれど、何故かその脅威が限定的なのよね……」
エクセラはそこで言葉を切る。そして、少しの沈黙の後で再び口を開いた。
「何にしても考えれば考えるほど、おかしな部分が出てくることに気がつくのよね。もちろん情報が少ないこともあるのだけれども……」
エクセラが言い淀むと続けてエディが口を開いた。
「まあ、ここで考えていても仕方がありませんね。取り敢えずは宿屋に行きましょうか。休憩も必要かと」
「わあーい、お菓子を食べるんですよー」
カリンが両手を上げて、満面の笑みでぴょんぴょんと飛び跳ねている。
いつもふざけているおっさん骸骨に仕切られるのに不満を感じるが、確かにここで考えたところで何かが前進することわけではないのだ。それにしてもエディはここのところ何かと真面目な気がする。何か変な物でも食べたのだろうか。
「そうだな。しばらくはこの街に滞在しようか。明日は冒険者組合に行ってみよう。何か魔族について分かるかもしれない。お金を稼ぐ必要もあるしな」
そんなファジルの言葉にエクセラたちは頷いたのだった。
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