「馬っ鹿じゃない? ファジルがあんなことを言うからよ!」
燃える家屋の炎に煽られるようにして逃げる村人たち。逃げ惑う彼らに巻き込まれないようにしながら、エクセラが赤毛を振り乱して金切り声を上げていた。
「ファジルは昔からそうなのよ。予言めいたことを言うと、必ず逆になるんだから!」
……それは俺のせいなのか?
反論したいところだったが、頭を叩かれそうなのでファジルは口を閉ざす。
何にしても村人たちの避難がまずは優先だろうと思う。ファジルは茶色の瞳をカリンに向けた。
「カリン、上空から火蜥蜴の正確な位置を教えてくれて。それと、逃げ遅れた村人がいないかの確認も頼む」
「はーい。ぼく、ファジルのために頑張るんですよー」
カリンは元気に返事をすると、白色の翼を広げて上空に飛び立つ。ほどなくして上空からカリンの声が響き渡った。
「火蜥蜴は西から村の中心に向かっているんですよー。火をがーがー吐いてますー」
火はがーがー吐くものなのか?
生まれた疑問を飲み込んでファジルは声を張り上げる。
「火蜥蜴は西から中心に向かっているぞ。南風に煽られている火にも気をつけろ。逃げるなら南か東だ!」
村人たちはファジルたちの声に従って右往左往しながらも次々と避難していく。
さて、どうしたものかとファジルは思う。やはり自分たちも村人たちと避難するのが正解なのだろうか。
エクセラやカリンの魔法には期待はできないようだった。しかし、この剣だけて火蜥蜴を退治できるのだろうか。
正直、流石に無理かとの思いもある。だが、エクセラやカリンの魔法で防御系の補助魔法を駆使すれば、何とかなりそうな気もする。
……エクセラとカリンがどの程度、補助魔法を使えるのか知らないのだったが。
「ほえー? 火蜥蜴が、がーがー火を吐きながら、こっちに向かって来るんですよー。蜥蜴のくせに凄く早いんですよー」
蜥蜴のくせに。
その理由が分からないが、カリンがそれなりに切羽詰まった顔をしてファジルの横に降り立った。同様にエクセラもファジルの横に立つ。
エクセラの横顔が引き攣ってみえるのは気のせいではないだろうとファジルは思う。その横顔を一瞬だけ見て、ファジルは顔を正面に向ける。
両手には既にエクセラから手渡された獅子王の剣を握っている。
周囲の熱気が一段と強くなったように感じられた瞬間、火蜥蜴が視界に現れた。
大きい。想像していたよりも遥かに大きい魔獣だった。牛四頭分を合わせても。それを軽く凌駕しているだろう。
ぎょろっとした両目に深緑色のぬめり感がある皮膚。大きな口の両端からは今も真紅の炎が揺れていた。
「ほえー。気持ち悪い顔と体なのですー」
カリンの言葉にエクセラが無言で頷いた。確かに火蜥蜴は人が生理的嫌悪感を覚える姿だった。カリンが更に言葉を続けた。
「爆乳魔導士、早く氷系の魔法を使うんですよー」
同時にカリンの頭がエクセラに叩かれる。
「爆炎よ! 大体、何であんたが仕切っているのよ。それに氷系は得意じゃないのよ!」
そうは言いながらもエクセラは両手を火蜥蜴に向けた。呪文の詠唱が終わると掲げた手の平から氷の礫が火蜥蜴に向かって飛んでいく。
「ほえー? 小さい礫なのですー。小石ぐらいの大きさしかないのですー。火蜥蜴に届く前に、全部蒸発したのですー」
「だ、たから氷系は得意じゃないって言ったでしょう!」
エクセラはカリンの感想に顔を赤らめている。
「カリンだって天使なんだから、神聖魔法が使えるでしょう? 攻撃魔法だってあるじゃない。そんなに言うんだったら、カリンが何とかしなさいよ! それとも、やっぱり何ちゃって魔法しか使えないわけ?」
「ほ、ほえー? 何ちゃってじゃないんですよー。ぼ、ぼくだって攻撃魔法は使えるんですよー」
カリンが可愛らしい両手を前方に突き出す。
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