……何だか人数が増えた。
分かっていたことだと言えばそうなのだったが、ファジルは改めてそう思った。
勇者になりたいと書き置きを残して家を出た時は間違いなく一人だった。
村を出たら幼馴染みのエクセラが半ば強引についてきた。
地面に埋まっていた天使のカリンを助けたら、これもまた一緒についてきた。
正義の山賊を名乗る痛い奴と知り合ったら、兄弟子だ何だと言いながら、これもまた勝手についてきた。
そうなのだ。皆、あからさまに自分の意思を無視してとまでは言わないが、半ば強引についてきているのである。何だかよく分からない。皆、何で自分についてくるのだろうとファジルは単純に思っている。
「なあ、皆は何で俺について来るんだ?」
ついて来られるのが迷惑とかそういった負の感情があるのではなくて、ファジルとしては単純な疑問だった。
「何よそれ? だから言ったじゃない」
ファジルの問いかけに、エクセラは何を今更言い出すのだといった顔をしている。
……だから言ったじゃない。
ファジルは心の中で彼女の言葉を繰り返す。
何か自分はエクセラに言われたのだろうか。ファジルはそう自問したが、残念ながら答えは出てこなかった。
ファジルはもう一度、エクセラに茶色の瞳を向けた。エクセラは無言で何故だか分からないが、ファジルのことを睨みつけるようにして見ている。
エクセラがこういう顔をしている時は、それに対して深掘りをしてしまうと彼女は怒り出すことか多い。ファジルはそれを経験値として、それこそ幼い頃から知っていた。
なので、ファジルは横でちょこちょこと歩いているカリンに視線を向けた。少しだけ口を尖らせながら皆に遅れまいとして、ちょこちょこと歩いているカリンは相変わらず可愛らしい。
「なあ、カリンはどうして俺についてくるんだ?」
ファジルは先程と同じ言葉を口にする。
「ほえー?」
カリンが少しだけ首を傾げた。
「ぼくはファジルが勇者になる応援をするんですよー」
そうか。そうなのか。この子はそうだったな。
何故か嬉しそうな顔をしているカリンを見ながらファジルは一人で頷く。次いでファジルは自称正義の山賊だったガイに茶色の瞳を向けた。
「ガイは何でついてきたんだ?」
「あ? 言っただろう。弟弟子のお前が心配だからな。それにあの勇者って奴にも少しだけ興味がでてきたしな」
そうか。そうか。弟弟子が心配だからか。
……で、エクセラはとファジルはもう一度、彼女に視線を向けた。
「何なのよ、その顔は? 言ったじゃない。幼馴染みが心配だからよ。それに私はファジルのお嫁……」
後半はごにょごにょと言っていてよく分からなかった。
だが、何となく皆がファジルの旅についてきた理由は分かった。
応援するため。
弟弟子が心配だから。
幼馴染みが心配だから。
……全てがあてもないような旅に同行する理由になっていない気がする。
人はそんな理由で他人の旅について行くものなのだろうか。
「……お前たち、暇なのか?」
言った瞬間、ファジルはエクセラに頭を叩かれた。
……普通に痛い。
「はあ? 人が心配だからって言ってるのに、暇って何なのよ!」
「いや、だって普通はそんな理由で他人の旅についてくるのかなって思ってさ」
ファジルは叩かれた頭をさすりながら言う。そんなファジルにガイは呆れたような表情を浮かべているようだった。
「普通って何よ。普通って? 他人って何よ、他人って!」
いや、普通は普通たろう。それに、他人には違いがないだろうと思ったが、エクセラが怒っているのでファジルはそれを口にしない。
「普通って言えば、この旅の目的が普通じゃないでしょう? 勇者になるんじゃなくて勇者になりたい旅って何なのよ。意味が分からないわよ」
「勇者になりたいってことだ。意味は分かるだろう」
今更、何を言っているのだとばかりにファジルは反論する。それに、意味が分からないなどと言うのなら、そんな意味が分からない旅などについて来なければいいのではとファジルは単純に思う。
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