「ほ、ほえー! いきなり凶暴な爆乳魔導士がぼくの前に現れたのですー」
即座にカリンの頭がエクセラに叩かれる。
「爆炎よ! それに凶暴ってどういうことよ!」
「ほえー、こんな風に暴力的だから、凶暴なんですよー」
カリンが両腕を広げて、上下にばたばたとさせている。
「あんたたち、人前でそんなことをしてると、本当に捕まるんだから! カリンは見た目だけは、なんちゃっての幼児なんだからね!」
「ぼくはなんちゃってじゃないんですよー」
「はあ? 何がぼくはーなのよ!」
エクセラはカリンの口調を真似ると、ぷりぷりと怒りながらもファジルの横に腰を下ろす。
「まったく、人がいないとすぐにこれなんだから」
ファジルの横でまだエクセラはぶつぶつと呟いている。
「ま、まあ、何だ、エクセラ。えっと……何か分かったことはあったのかな?」
怒るエクセラに何と言えばよいのか分からず、ファジルはそう言葉を紡いでみる。
「はあ?」
一瞬だけ怒りの表情を浮かべたものの、気を取り直したようでエクセラは言葉を続けた。
「バルディアで使われた魔法。エディが言っていたように、召喚系の魔法だったことは間違いないようね。でも、それが何の魔法だったのかって特定するのは難しいのだけれど」
……召喚系の魔法。蔵書室でも思ったことだったが、魔導士ではないファジルにとってみれば今ひとつわからない内容だった。
「で、どういうことなんだ? 魔法以外に分かったことはあったのか?」
「そうね。簡単に言えば、バルディアで使用された魔法は何となく分かってきたけれど、その背景にあるものはまだ何も分からないってところかしらね」
背景とは魔族のことを指しているのだろうとファジルは思う。流石に学院内で魔族について調べていると公言できないことはファジルにも分かるというものだ。
「まだ調べ始めたばかりだから、一概には言えないのだけれども……」
エクセラがそう前置きをする。
「背景の事柄がどの書物からも不自然なほどに抜けている印象なのよね。もっと沢山の、それこそ古い書物も調べてみないと断定なんてできないのだけれど」
……不自然なぐらいに抜けている。
どういうことなのだろうか。意図して隠されているということなのだろうか?
魔族のことを意図して隠している?
そうだとすれば、隠しているその理由が分からない。あの城壁のお陰で昔のように、魔族が大軍を持って人族の地域へ攻め寄せてくることは確かになくなった。だがバルディアのように実際の問題として魔族の脅威はあるのだ。
その原因となる魔族のことを隠す理由なんてどこにもないように思えた。そもそも魔族のことなんて誰でも知っていることなのだから。
「まだ調べ始めたばかりよ。結論を出すのは早いんだから」
エクセラはファジルの顔を見て、にこりと笑う。その性格はともかくとして、やはり思わず見とれてしまう魅力的な笑顔だった。
その笑顔を見ながら、不満げなものが自分の顔には出ていたのだろうかとファジルは思った。
それはそうとばかりにエクセラはカリンに視線を向けて立ち上がると、ファジルの右隣に座っていたカリンの前で仁王立ちになる。
「まったく、あんたは人が見ていないと、すぐにファジルと引っつくんだから!」
引っつくって一体何だよとファジルは思う。
「ほ、ほえーっ?」
眼前にエクセラの仁王立ちを見て、カリンが腕を慌てたように上下に振っている。だが、急にその動きを止めると、何かを思い出したかのように、可愛らしい顔に不敵な笑みを浮かべてカリンが立ち上がった。
カリンの真正面には仁王立ちのエクセラがいる。
「ふっふっふ、よく聞きなさい、爆乳魔導士!」
「爆炎よ!」
エクセラが怒鳴るように叫ぶ。
「いつまでもぼくの頭を簡単に叩けると思っていたら、凶暴爆乳魔導士の大きな間違いなんですよー」
「はあ? 急に何を言い出すのよ、このなんちゃって幼児が。別に凶暴じゃないし、それに爆炎なんだからね!」
カリンもしつこいがエクセラもしつこい。一つひとつを言い返さないと気がすまないようだ。
しかしそれまでとは違うカリンの不敵な様子に、エクセラは少しだけ不思議そうな顔をしているようだった。
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