「一体、何ていう人たちなのだ。断りもなく押しかけてきて、問答無用で消してしまおうとするとは!」
……大まかな流れはそうなのだが、何だか細部が微妙に違っている気がする。
そんなファジルの思いなど知るはずもなく、不死者は更に言葉を続けた。
「荒事は好きではないのですが、仕方がないですね。飛んで来る火の粉は振り払わなければ、自身が燃えてしまいますので」
何だか今度は不死者が物騒なことを言い始めた。
喧嘩をしにきたわけではないから、何とか宥めなければいけない。ファジルは場を取りなしてくれないかとばかりに、ガイとエクセラ、そしてカリンに視線を送った。
ガイは無表情だった。その横顔からは何を考えているのか分からない。きっと筋肉ごりらだから何も考えていないのかもしれない。
エクセラはといえば、不死者に対して挑発的とも不敵とも見えるような笑みを浮かべていた。その顔を見る限りでは、不死者を宥めようなどとは微塵も考えていないようだ。物騒なことこの上なかった。
カリンは無表情のガイに羽交い絞めにされながらも、やる気満々で目をぐるぐるとまわしながら、ほえほえと叫んでいる。
……多分、こいつらは駄目だ……。
ファジルは内心で溜息をつく。
「ま、まあ、ちょっと落ち着いて……」
引き攣ったような愛想笑いを不死者に向けてみたが、そんなファジルの言葉を不死者の冷たい言葉が切り裂いた。
「私は落ち着いていますよ。取り敢えずはお引き取りを願いましょうか」
不死者が片手を上げる。すると、扉が開いて五体の屍鬼が姿を現した。
「大丈夫です。危害を加えるつもりはありません。ただ、帰って頂けないのであれば、多少の手荒な真似をしてしまうかもしれませんがね……」
不死者はそう言って踵を返した。しかし次の瞬間、不死者の動きが止まった。
不死者の動きが急に止まった理由。ファジルとしては頭を抱えたい気分だった。
姿を現した屍鬼たちは足下から紅蓮の炎に包まれていた。炎と言えば間違いなくエクセラだ。何かと手が出るのが早いとの認識はあったのだが、どうやら魔法の発動も早いらしい。
瞬く間に文字通り五体の屍鬼が消し炭となってしまう。不死者はゆっくりと背後のファジルたちに体を向けた。骸骨だから表情からは何を考えているのかがまるで分からない。
「これはこれは乱暴な。そこのお嬢さんですかな? 屍鬼とはいえ、元は人間。それを問答無用で焼きつくしてしまうとは……」
不死者の言葉にエクセラは壮大に鼻を鳴らしてみせた。
「さっきからその口の利き方が気に入らないって言っているわよね。慇懃無礼って知っているのかしら」
心持ちエクセラの顎が少しだけ上向いている。エクセラが喧嘩を仕掛ける時の姿勢だった。
いや、魔法を既に放っているのだから喧嘩はもう売ってしまっているのか。
「ま、まあ、二人とも落ち着けって。燃やしはしたけど、彼女にも悪気があったわけじゃないから……」
だが、ファジルの言葉を不死者は大きく否定した。
「いえいえ、悪気しかないですよね。人をいきなり消そうとしたり、私の配下をいきなり燃やしてしまったり……」
もしかしてかなり怒っているのだろうか。表情がないのでよく分からない。ファジルはカリンを羽交い絞めにしているガイに茶色の瞳を向けた。
「……怒ってる?」
そんなファジルにガイは呆れたように溜息をついてみせた。
「そりゃそうだろう。いきなりあんなことをされればな。普通は怒るだろう」
ガイの言葉に続けて不死者が明らかに怒りのこもった声を張り上げた。
「人族ごときがつけ上がりおって。あの世で後悔するがいい。我が名は不死者エディ。我が名において……」
何だかどこかの魔王あたりがいいそうな台詞だとファジルは思う。魔王になんて会ったことはないから知らないのだけれども。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!