「大体、天上から落ちてきて、地面に突き刺さるはずがないでしょう! 普通に考えておかしいわよ。誰かに埋められたに決まっているじゃないの? しかも、こんなところで逆さまに埋められるなんて、訳ありよ。胡散臭さの塊りよ!」
「ふえー」
泣き声を上げて再びファジルに抱きつこうとするカリンの襟首をエクセラが素早く掴む。
「だから、いい加減にしなさいって言ってんの!」
「ぼく、恐いのですー」
エクセラに襟首を掴まれて宙に浮いてしまった両足をカリンはばたつかせている。
「ほら、本当のことをいいなさい。でないと、頭から燃やすわよ。ほら、ほらっ!」
「ふえー」
エクセラは手の平に炎の玉を出現させて、それをカリンに近づけている。
……単に子供を虐めている恐ろしく非道な人にしか見えない。
「エクセラ、少しは落ち着けって。取り敢えず、事情を訊こう。どこを見ても子供を虐めているようにしか見えないぞ」
ファジルの言葉にエクセラも不承不承ながらも納得したようだった。カリンの襟首から手を離す。
「で、どうして地面なんかに埋まっていたんだい?」
ファジルは地面に片膝をつけてカリンと顔の位置を合わせる。
「ほえー」
カリンが小首を傾げた。大きな青い瞳と金色の腰まで伸ばされた髪。白い肌や髪の毛はところどころにまだ泥がついているが、やはりその美貌を損なうものではなかった。
……可愛い。と言うか美しい。
「ファジル、何で顔が赤いのよ!」
エクセラに灰色の頭を叩かれる。その頭を摩りながら、ファジルは再び同じ言葉を口にした。
「えっと、何で地面なんかに埋まっていたのかな?」
「ほえー? 上から覗いていたら……」
「あんたねえ!」
カリンの言葉とエクセラの怒声が重なったのだった。
「で、いつまでこの天使はついてくるのよ?」
エクセラが不満を口にする。
「ファジルに助けてもらったから、ぼくは恩返しをするんですよー。だから、ついて行くんですよー。それに天使じゃなくて、ぼくはカリンなんですよー」
「はあ? だから、私も助けたのよ!」
エクセラの言葉など気にしていない様子で、カリンは屈託のない笑顔を浮かべている。その背には小さな白い羽が生えていてカリンが歩く度に、ぴょこぴょこぴょこと揺れている。
何か無茶苦茶可愛いとファジルは思う。思わず涙が出そうだ。その涙を堪えてファジルは口を開いた。
「まあ、いいじゃないか。目的がある旅じゃないし、旅は人が多い方が楽しいだろう?」
「どれだけ能天気なことを言っているのよ。あんなところに埋められていた天使なんて胡散臭さの塊りでしょう。変なことに巻き込まれても私は知らないんだから」
エクセラの言葉にカリンが、はーい、はーいとばかりに片手を挙げてみせた。
「ぼくは天使だから、胡散臭くないんですよー。だから、変なことになんて巻き込まれないんですよー」
「ちょっと何を言ってるのか分からないんだけど。答えになってないのだけど?」
エクセラが頬を派手に引き攣らせている。
「それに、ぼくは天使だから、癒しの魔法が使えるのですよー。もの凄い神聖魔法なんですよー」
カリンがそう言って軽く胸を張る。
「神聖魔法ね……そりゃあ、旅先で何があるか分からないから、癒しの魔法はありがたいけど……」
エクセラはそう言って、じとっとした目でカリンを見る。
「本当に神聖魔法なんて使えるの? あんな所に埋められている天使が使える魔法って言ってもどうなんだか。どうせ、なんちゃって魔法が使えるぐらいなんでしょう?」
何だよ、なんちゃって魔法って……。
ファジルは心の中で呟きながら、カリンに視線を向けた。
「ぼくは天使なんだもん。だから、ちゃんとした神聖魔法が使えるんだもん」
カリンは青色の瞳に涙を浮かべて両頬を膨らませている。
「エクセラ、あまりカリンを虐めるな」
「ふん! ファジルはカリンの味方なのね!」
エクセラが声と共に吐き出す鼻息も荒げる。味方って、そういう話ではないだろうとファジルは思う。
しかし、そんなことを口にすればエクセラが益々、怒り出すだろうことは目に見えていた。
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