「魔法学院は王都の中心にある王城の近くよ。だから宿屋もその近くがいいわよね」
「王都の宿屋か。何だか高そうだな」
そんな言葉は貧乏臭いと自分でも感じるが、ファジルとしては率直な意見だった。どれぐらい王都に留まることになるのかは分からないが、いずれは何かしらの金策をしなければ、自分たちが立ち行かなくなるのは間違いないようだった。
そう思うと、何だかいつもお金の心配をしている気がしてきた。そんなことを考えながらファジルはエクセラ、カリン、ガイ、そしてエディを順に見渡してみた。
……駄目だ。どこからも誰からもお金の気配が全くしてこない。
赤い房が揺れるふざけた仮面をつけた骸骨のエディは、見た目だけで論外だろう。ほえーと可愛らしい口を開けている小動物のようなカリンも同じく論外だ。
筋肉ごりらは鍛錬のことしか考えていないようだし、エクセラは元々が裕福な家の娘だから、お金には明らかに無頓着なところがある。
「何よ、ファジル? 人を見下したような目で皆を見て」
そんなファジルの視線に気がついたのか、エクセラが口を少しだけ尖らせて問いかけてきた。
「い、いや、お金が少し心配かなって。ほら、どれだけ王都にいることになるかも分からないからな」
「そんなことを心配してたの?」
エクセラは少しだけ胸を反らせて鼻息を荒げてみせた。それに合わせて燃えるような赤毛と、たわわな胸が宙で揺れている。何だかとても偉そうだとファジルは思う。
「ここは私たちの故郷みたいな小っさい街じゃなくて、大きな王都なのよ。私たちができる仕事なんて、いくらでもあるんだから。冒険者組合だって凄く大きいのよ」
はあとばかりにファジルは頷いた。大きな王都は分かるが、ここで自分たちの故郷を引き合いに出す必要があるのだろうか。
「そうなんですよー。きっとエクセラの残念おっぱいが、今度こそ大活躍する夜の怪しいお仕事が……」
カリンがそこまで言ったところで、金色の頭がエクセラによって派手に叩かれる。
「ほえー……」
頭をさすっているカリンを見て、少しは元気になってきたのだろうかとファジルは思う。
エクセラも同じ思いだったのかもしれない。少しだけ口元を緩めた後で口を開いた。
「お金のことはきっと大丈夫よ。さあ、宿屋を探すわよ!」
そう声を張り上げたエクセラの背後で、ガイがぽつりと呟くように言った。
「それ……根拠なんか、全くねえだろ?」
ガイの言うことはもっともだった。でも、エクセラがこのように言い出したら止まるはずがない。そんなことは幼馴染みとして、痛いぐらいに分かっているのだ。
よってファジルたちは当座の宿屋を探すことになったのだった。
「いいんじゃない? 綺麗な宿屋で」
部屋に入ったエクセラの第一声がそれだった。確かによい部屋であることは間違いないとファジルも思う。
だが、天井からぶら下がっているやたらに明るくて豪勢なランプは必要なのだろうか。それにいかにも高級そうな寝台と同じく、ひと目で高級品と分かるふかふかな布団……
当然、宿代もそれなりだ。このままでは一か月ほどで魔族のことが分かる前に、自分たち勇者になりたい一行は王都で野宿となってしまいそうだ。
……実際、王都で野宿なんてできるのだろうか。衛兵さんに怒られて捕まる気がしないでもない。
「ちょっと、何? まだお金のことを心配しているわけ?」
浮かない顔をしていたのだろうか。エクセラがファジルに向かって不満げに言う。
「そりゃあ、お金の心配はするさ。そもそも手持ちが多くあるわけじゃない」
「大丈夫なんですよー。エクセラが残念おっぱいを卒業……」
全てを言う前にカリンは金色の頭をエクセラに叩かれている。カリンもめげないらしい。
「まあ、金のことは任せとけとは言えないが俺が明日、冒険者組合に行ってみる。いい儲け話があるかもしれない」
ガイの言葉だった。何だか筋肉ごりらが初めて頼もしく見えてきた。今までは兄弟子をやたらに強調するだけの筋肉ごりらだったのに。
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