「なあ、カリン……」
ファジルがそう言うとカリンが、ほえーといった感じでファジルに上目遣いで青色の瞳を向ける。その姿が何とも可愛らしい。
それを口にしようと思ったファジルだったが、またエクセラとガイから怒られそうな気がしたのでそれは黙っていることにする。
「何で他の天使族は、人族や魔族なんかと一緒に地上で生活しないんだ?」
「ほえー?」
カリンは首を傾げている。
「そんな難しいことは、そこのほえほえ天使に訊いたって分かるわけないでしょう」
カリンの代わりではないだろうが、エクセラが悪意に満ちた言い方で口を開いて言葉を続けた。
「天使族はそもそもの絶対数が少ないから当然、私たちが目にする機会は減るわよね」
「何でそもそもの数が少ないんだ? 天使族は長生きなんだろう?」
「どうなのかな。でも、天使族が子供を産むことは珍しいみたいよ。それに天使族は何百年も生きるのよ。その天使族が人族並みに子供をぽこぽこと作っていたら、地上なんてあっという間に、ほえほえ天使で溢れちゃうじゃない。そんな世の中なんてほぼ世紀末なんだから」
いやいや、天使の全てがカリンのような感じではないだろうとファジルは思う。
「ほえー?」
カリンは相変わらずに小首を傾げている。
「それに天使族は天上って言われているところから積極的には出ようとしないしね。理由は知らないけど」
「天上って空に浮いている大きな島のことだよな」
エクセラはファジルの言葉に軽く頷く。もちろんこの目で見たことはないのだが、空の彼方には天使族が棲んでいる大きな島があるとの話だった。
「そうね。地上に来るときは空にある島から、天から来るから天使族って名づけられたらしいわよ」
「ほえー?」
カリンは尚も小首を傾げている。その姿を見ている限りでは、どうやらカリン以上にエクセラの方が天使族に対して詳しそうであった。
「天使族は人族や魔族のことをどう思っているんだ?」
「さあ、どうなのかな。流石にそれは、そこのほえほえ天使に訊かないと分からないわよね」
エクセラはそう言って深緑色の瞳をカリンに向けた。
「で、どうなのよ。カリン?」
「えっと、好きでも、嫌いでもないですよー。そもそも天使族は他の種族に興味を持たないんですよー」
「ふうん。その割にはカリンってば、人族のファジルにご執着じゃない」
「ファジルは特別なんですよー。ぼくを助けてくれたんですから」
「はあ? だから私も一緒に助けたんたって!」
「そんなのぼくは知らないんですよー」
カリンは両頬を膨らませて、そっぽを向く。
「はあ? 何なのよ。その態度は?」
……今のことに関してはどっちもどっちのような気がする。
どちらかと言えば、先にほえほえ天使とかいってカリンを馬鹿にしたエクセラが悪いのか。
もっともファジルとしてはどちらの味方にもなれない。どちらか一方に肩入れをすれば、更に話がややこしくなることがこれまでの経験上、大いに分かっていることだった。
「仲がいいんだか、悪いんだか……」
二人の様子を見てガイが呆れたように先程と同じ言葉を呟いている。
「ほ、ほら、エクセラ! 町が見えて来たぞ。今度の街は大きいからな。宿屋だって綺麗だろうし、お風呂だってきっと立派だぞ」
「ふんっ! 歩いていれば町にだって着くわよね。どこかに着かなきゃ困るんだから!」
身も蓋もないようなことを言いながらも、エクセラは少しだけ機嫌が直ったように見えた。
よし。後はカリンだけだ。
「カリン、街だぞ。大きいぞ。大きな街だから多分、美味しいお菓子もいっぱい売っているんだぞ。買ってやるぞ!」
「わあーい。お菓子なんですよー」
カリンが喜びの声を上げながら、とてとてと駆け出して行く。こちらは単純で何かと扱いやすいのかもしれない。
「こらっ、先に行かない! 魔獣でも出て来たらどうするのよ」
エクセラがそんなことを言いながらカリンの後を慌てて追って行く。何だかんだ言っても、結局のところエクセラは面倒見がいいのだ。
やれやれだな。取り敢えずは丸く収まった。何だか疲れた気もするのだが。そう思っていたファジルはガイが向けている視線に気がついて、ガイに茶色の瞳を向けた。
「いや、何かお前も大変だな……」
ガイはそんなファジルを労るように声をかけたのだった。
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