ご機嫌となったカリンを横目にしてファジルは改めて周囲を見渡した。街中は活気があるようだった。やはり鉱山の街だからなのだろうか。体つきのよい男たちが多い気がする。
「何か体格のいい人たちが多いわよね」
エクセラもファジルと同じ感想を抱いたようだった。
「まあ、鉱山の街なんてこんなものなのかもしれないな。決してお上品ではないよな」
「ふうん。そんなものなのね」
エクセラは妙に納得した様子で言葉を続けた。
「体格のいいガイの親戚みたいなのがいっぱいいるじゃない。ガイも少し、鉱山で働いてきたら? 旅の路銀も心配だしね。その無駄に大きな剣があれば、きっと鉄ががんがんに掘れるわよ」
「はあ? 何で俺だけがお前たちの路銀を稼がないといけないんだ」
「いいじゃない。仲間みたいな親戚がたくさんいるんだから。きっと皆がガイのことを温かく迎えてくれるわよ」
「ふざけるな。仲間でも親戚でもねえよ。そんなことを言うんだったらエクセラ、お前が働いてこい」
「そうなんですよー。夜の鉱夫さんを相手にエクセラの使いどころがない残念おっぱいが大活躍する時なんですよー」
当然と言うべきか、派手な音を周囲に響かせてカリンの頭がエクセラに叩かれる。
「ほえー」
カリンは涙目で金色の頭を摩っている。
そんな何かと賑やかな彼女たちに苦笑を浮かべながらファジルは宿屋を探して周囲を見渡したのだった。
「探せば大部屋ってあるものなんだな」
借りた宿屋の一室でファジルは周囲を見渡しながら言う。部屋の中には五つの寝台が綺麗に並んでいる。
「鉱山の街だから、長期間を大人数で借りたいって要望が多いんじゃないかしら」
エクセラの言葉にファジルはそんなものなのかと思う。ファジルは寝台の上に腰をかけていて、その横にはエクセラが座っている。
カリンとエディは街を探検してくると言って出かけて行った。この二人、何かと仲がよいようだった。不浄の存在は浄化するとカリンが息巻いていた最初の頃は何だったのだろうかと思わなくもないのだったが。
ガイも鍛錬だといって部屋を出て行った。筋肉ごりらはどんな時でも、どんな場所でも鍛錬をするものらしい。まあ、正義の山賊を名乗っていたぐらいだから、きっとそんなものなのだろうとファジルは思う。
ということで、部屋にはファジルとエクセラだけが残される格好になっていた。
「カリンたちがいないと静かだな」
何かと騒がしい日常をファジルは思い浮かべる。そんなファジルにエクセラも苦笑を浮かべた。
「そうね。いつも騒がしいものね」
その騒がしさの大半はエクセラとカリンなのだがとファジルは思ったが、それを口にはしなかった。エクセラは更に言葉を続けた。
「それにしても、随分と遠くに来たわよね」
そう言ったエクセラに視線を向けると、エクセラはファジルの横で遠い目をしていた。
「そうだな。気づいたら旅の仲間も随分と増えたしな」
「ふふっ。それは多分、ファジルの人徳ね。皆、結局はファジルのことが好きで放っておけないのよね」
「……好きで放っておけないね」
ファジルはエクセラの言葉を繰り返す。何だか頼りがないと言われている気がするのは考えすぎなのだろうか。
「あ、好きってそういう意味じゃないんだからね」
エクセラが慌てたように言う。心持ち顔に赤味がさしているかもしれない。
そんなエクセラの顔を見ながらそういう意味も何も他にどんな意味があるのかとファジルは思う。そして、エクセラはそのような顔のままで話題を変えるように言葉を続けた。
「ファジルは魔族のことをもっとよく知りたいって言っていたわよね」
エクセラの言葉にファジルは頷く。
「そうだな。魔族のことも知りたいし、それだけではなくて勇者のことも知りたい」
「例えばどんなこと?」
エクセラがファジルを促す。
「例えばか……」
ファジルは少しだけ考え込んで口を開く。
「……会ったこともない魔族を俺たちは何で嫌っているのか」
「ファジルって何気に真理を突いてくるのよね」
エクセラが苦笑のようなものを浮かべている。何だろう。馬鹿にされているのだろうか。そんなことを思いながらファジルは言葉を続けた。
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