無事な様子のガイを見て安堵の表情を浮かべていたファジルに対して、ガイは何が気に入らないのか露骨に不満そうな顔をする。
「お前、何でそんなに小綺麗なんだ? 魔法でエクセラかカリンに守ってもらっただろう」
まあその通りだと思ってファジルは無言で頷く。
「こっちは一人で大変だったんだぞ。本当に死ぬかと思った」
それはそうだろうとファジルは思う。あんなに大きな火球が落ちてきたのだ。普通ならば間違いなく無事では済まない。それをほぼ無傷で、しかも死ぬかと思ったで片づけるのもどうなのだろうかとファジルは思う。
「ちなみにガイはどうやって助かったの?」
エクセラが興味深そうに口を挟んでくる。
「ぶった斬った。炎も熱風も衝撃も真正面からぶった斬ってやった」
……ぶった斬る。
常人にそんなことが可能なのだろうか。
そんなファジルの疑問をよそにガイは豪快に笑っている。
「……流石、筋肉ごりらね。危機の切り抜け方が、普通の人には理解できないわね」
エクセラの皮肉めいた言葉も豪快に笑うガイの耳には届いていないようだ。そこでガイはふと気がついたようで、笑うことを止めて不思議そうな顔をする。
「さっきあの勇者たちがいたみたいだが……」
「強大な魔力量の発生に気がついて、転移魔法で移動して来たらしい。勇者のロイドが言うには、魔族があの火球を落としたということだ」
「ほう、転移魔法とは珍しいですね。それにこの惨事が魔族の仕業とは……」
ファジルの言葉を聞いて、それまでは黙っていたエディが急に口を開いた。それもいつもとは違って少しだけ深刻そうな響きを伴っているような気がする。
「エディが言うように転移魔法とは確かに珍しいな。俺も話には聞いたことがあるが、見たことはない。エクセラは転移魔法を使えるのか?」
ガイもそう言ってエクセラに視線を向けた。エクセラはそんなガイを見て赤色の頭を左右に振ってみせた。
「事前に準備をすればね。急には私でも無理よ」
「なるほど。急に転移魔法を使用できるとは流石は勇者一行といったところなんだろうな。それにこいつが魔族の仕業ね。まあ、そうなんだろうな」
ガイが偉そうに納得した様子で頷いている。何に納得しているのか分からないので、そんなガイは放っておいてファジルはエディに顔を向けた。
「転移魔法に魔族。さっきの感じは微妙に引っかかる言い方だったぞ、エディ?」
「そうね。私もファジルと同じことを感じたんだけれど」
エクセラもファジルの言葉に同意している。そのようなファジルとエクセラにエディは両手を広げて振ってみせた。その様子は何だか少しだけ演技がかっている感じがする。
「いえいえ、少し思うところがあっただけですよ。別にファジルさんたちが気にするような話ではないです」
その少し思うところが気になるのだがと思ったファジルだったが、この様子ではそれに対してエディが口を開くつもりはないようだった。それを裏づけるようにエディは急に口調を変えて別の言葉をくちにする。
「さあ、皆さん、カリンさんが今はたった一人で奮闘しているんですよね? では私たちも救出を早く手伝わないといけませんね。でないとカリンさんに怒られてしまいますよ」
おっさん骸骨に場を仕切られるのは不本意である気もするが、確かにエディの言う通りだった。この惨状なのだ。回復魔法等を使えないとしても、自分たちにできることは沢山あるはずだった。
そう思う一方で、転移魔法と魔族。
エディの発したこの言葉が不思議とファジルの中で引っかかっていた。その引っかかりは染みのように黒くなり、その染みは少しずつ確実にファジルの中で大きくなっていくようだった。
それが何によるものであるのか。ファジルは分からないままで漠然とした不安を感じるのだった。
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