その時だった。エディと名乗った不死者と対峙していたファジルたちとの間に黒い影が踊り出た。
黒い影はガイの羽交い絞めから再び脱したカリンだった。
「不死者はぼくが許さないんですよー。ひょえー」
よく分からない奇声を上げながらカリンが手にしていた木の杖を振り上げた。そして、そのまま不死者の側頭部に杖を叩き込む。
聞いたことがないような凄い音がした。いや、どちらかと言えば聞いてはいけないような音といった方が正解なのかもしれない。
その音と共に不死者が地面とほぼ平行になって吹っ飛んでいく。これもまた聞いたことがないような音と共に、吹っ飛ばされた不死者が右手にあった大木に頭から激突した。
その衝撃で大木がばりばりと音を立てて倒れた。
周囲の砂埃が収まった視界にあったのは、根本近くで折れてしまった大木とぴくりとも動かない不死者だった。
……死んだな。
もう死んでいるから表現がおかしいのかな……?
それにしてもカリンさん、杖の使い方を間違えているような……。
……エクセラが魔法をぶっ放し、カリンが杖を振り回した。
……不死者は魔王っぽい言葉を発しただけで、まだ何もやっていない気がする。これは流石に不味くないか? 傍若無人にも限度がある気がする。
表現はともかく、やはり死んでしまったのだろうか。ファジルは取り敢えず、不死者に駆け寄った。
「おーい、生きてるかー?」
倒れたままでぴくりとも動かない不死者に駆け寄ったファジルは、上から覗き込むようにして声をかける。あの頭蓋骨がぐちゃぐちゃになっていたら、ちょっと気持ち悪いなと思いながら。
ファジルが声をかけると不死者がぴくりと反応した。表現はともかくとしてどうやら生きているらしかった。続いて、小刻みに震えながら頭をもたげた。
「ひ、酷くないですか? 何もしていないのに配下の者を火だるまにして、私を杖でなぐるなんて……私が頑丈でよかったですよ。頭が粉々になるところでしたからね」
頑丈とかそういった問題なのだろうか。だが、酷いか酷くないかで言えば、確かに酷いなとファジルも思う。不死者は更に言葉を続けた。
「ほら、火だるまになった屍鬼が屋敷に逃げこんだから、屋敷も燃え始めているじゃないですか……」
さっきから焦げ臭いと思っていたが、屍鬼が燃えた臭いだけではなくて、屋敷が燃えていたのか。ファジルの中で合点がいく。
だが、屋敷が燃えて……。
何か物凄く不味くないか。
小刻みに震えながら頭をもたげている不死者にカリンが近づいてきた。
「カリン、もう手を出すなよ」
ファジルは一応、そう言っておく。
「はーい」
分かっているのか、いないのか。カリンは返事をしながらも杖を振り上げた。そして、杖の頭で不死者の頭をぽくぽくと叩き始めた。
「悪いことをする不死者はお仕置きなんですよー」
いや、初めて会った時から今まで何も悪いことはしていないような……。
そう思いながらファジルは続いて近づいてきたエクセラとガイに顔を向けた。そんなファジルを見てガイが口を開いた。
「不死者の骸骨って頑丈なんだな。あの衝撃で折れないとは……」
筋肉ごりらはどうでもいいような感想を口にしてる。
「えへっ、少しだけやり過ぎちゃったかしら?」
エクセラは可愛らしい舌をぺろりと出している。
……いや、きっと少しどころじゃないだろう。
その間もカリンは不死者の頭を杖でぽくぽくと叩き続けていたようだった。
「ごめんなさい。もう勘弁して下さい。この地からは出ていくので、許して下さい……」
何もしていない不死者のエディは観念したのか既に泣き声混じりだ。流石に少しだけ可哀想になってくる。
……これで解決したのか?
何も悪くない不死者を相手にして、家まで燃やしてしまったが、これは解決なのだろうか。冒険者組合は解決ということでお金を払ってくれるのだろうか。
ファジルは一抹の不安を覚えるのだった。
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