そんな時だった。門の向こう側にある大きな木の扉がゆっくりと開いた。そして、黒い頭巾を被った者が姿を現す。
……あ、骸骨。
ファジルは心の中で呟く。頭巾の中にある顔はいわゆる白い骸骨そのものだった。両目は空洞となっていたが、その中心には小さな赤い光芒がある。
「なあ、エクセラ。不死者って初めて見るんだが、みんなあんな感じなのか?」
「あんな感じってどんな感じよ? って言いたいところだけど、私も初めてだし、よく知らないわよ……個体によるんじゃない?」
個体による。何か結構、いい加減な答えだなとファジルは思う。
……それにしても骸骨だと不気味だし気持ち悪い。相手には悪いのだが。
なので、何もしていないという話しだったが、周囲の住民から薄気味悪いといった声が上がるのも無理はないことなのだろうとファジルも思う。人としてどうしても生理的嫌悪感が生まれてくるのだ。
「むっきーっ! 不死者は浄化なんですよー」
会ってそうそうに何かがあってはいけないということで、カリンはガイに羽交い絞めにされて宙に持ち上げられている。それでもカリンは物騒なことを口走りながら、宙に浮いた足をばたばたとさせている。
「……外が騒がしいと思ったのですが、浄化とはまた物騒な言葉を。そこのお嬢さんは天使族ですかな」
現れた不死者は重々しい口調で言う。
「す、すいません。この子ったら口の利き方がまだ分からなくって……」
エクセラはガイに羽交い絞めにされているカリンの口を両手で塞ぐ。口を塞がれたカリンは目を見開いて、ガイの腕の中で更に暴れ始める。
その絵面はどう見ても幼児を虐待している大人だった。
「ま、まあ、この子はともかく、俺たちは冒険者組合からの依頼で来たんだ」
「ほう。冒険者組合ですか……」
そうファジルに言葉を返した不死者の声には、少しだけ興味がありそうな響きがある。
「そうなんだ。おたく、その姿だろう? 付近の人たちが何かと気味悪がっていてな……」
ファジルのその言葉にガイが呆れたような声を出した。
「お前……馬鹿だろう。直球じゃねえか……」
「へ? い、いや、悪気があるわけじゃないんだぞ。ただ、ここに住んでいる目的は何なのかなって……」
ガイに諭されてファジルは慌てて言い直す。
「ほう。気味が悪いですか。そう言われてましても、私はこの姿でなければ生きていけないわけで……」
いやいや。不死者って死んでいるんじゃなかったのでは……。
ファジルの疑問を他所に不死者は更に言葉を続けた。
「それに、私が墓を掘り起こして屍鬼などの下僕を増やしているのならばともかく、私は周辺の方々が怖がるようなことは何もしていませんよ。ですので、気味が悪いということだけで私を排除するのはいかがなものかと……」
まあ、下僕をやたらに増やされても困るのだがとファジルは思いつつ、こいつは面倒くさい奴だとの感想を抱いていた。
正論を正面から言って切り込んでくる奴に、ろくな奴はいないというのがファジルの持論なのだ。
もっともそれは正論なので、決して間違ってはいないのだけれども。
「まあ、そうは言ってもさ、周りが気味悪がっているのは事実だし、何でここに居着いたのかぐらいの説明をしてもいいんじゃないのか?」
「ほう。あなたは私が不死者だから差別をしようと言うのですね。真っ当な説明と理由がなければ、不死者は姿形が気味悪いから人目につかない山奥ででも暮らしていろと?」
「いや、そこまでは言わないけどさ。説明ぐらいしてもさ……」
「何も悪いことをしていないのにですか?」
やっぱりこいつ、面倒だ……。
ファジルは救いを求めてエクセラに視線を向けた。エクセラはと言えば、男の言葉に早くも苛々としているようだった。片頬を微妙に引き攣らせている。
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