勇者になりたくて 〜誰が勇者を殺すのか〜

勇者の根源とは……では、誰が勇者を殺すのか
yaasan y
yaasan

外しちゃったみたい

公開日時: 2023年10月17日(火) 09:23
文字数:1,508

 カリンが展開した防御壁と稲妻が宙で激突する。防御壁に弾かれた稲妻が周囲に飛散して視界が黄金色に染まる。

 

「ひょえー。さっきの稲妻よりも凄いのですー」

 

 カリンが涙声になりながら更に言葉を続ける。

 

「エクセラ、上級魔法の発動まで、どれくらいなんですかー?」

 

「後、三百を数えて!」

 

 目を閉じて伸ばした両手を黒竜に向けたままでエクセラが無慈悲に言い放つ。エクセラの前には真紅の巨大な魔法陣が出現している。

 

「三百? 無理なんですよー」

 

 カリンは既に涙目になっている。黒竜は自身が放つ雷撃が防がれてしまっていることに気がついたのか、雷撃を放出しながらも少しだけ体を震わせた。

 

「不味いな」

 

 ファジルの横でガイが呟く。黒竜の眼前に展開された魔法陣。さらにその左右に一つずつ新たな魔法陣が出現した。これで黒竜の眼前にある魔法陣は三つとなる。

 

「ひょえー。何か魔法陣が増えたのですー。駄目なのですー!」

 

 カリンが叫び声を上げる。ファジルはガイに視線を向けた。

 

「斬るぞ」

 

「お前、本気か? 流石に斬れねえだろう」

 

 ガイは呆れた表情をする。

 

「斬れないと思えば斬れない。斬れると思えば斬れる」

 

「……お前、本当に馬鹿だろう?」

 

「何だ、兄弟子なのに知らないのか? 師匠の受け売りだ」

 

 ガイにも思い当たる節があるのだろう。その言葉にガイは口の端を曲げて少しだけ笑ってみせた後、大剣を上段に構える。

 

 いずれにしても新たに出現した二つの魔法陣から雷撃が発せられれば、カリンだけでは防ぎきれないだろう。エクセラの上級魔法が発動されるまでは、まだ時を要するのは明らかだった。

 

 となれば、雷撃を斬る以外にはないのだ。ファジルもガイに合わせて長剣を上段に構える。

 

 黒竜の咆哮と共に新たに出現した魔法陣から雷撃が放たれた。

 

 ……斬れると思えば斬れる。

 

「ジアス一刀断ち、斬!」

 

「斬!」

 

 ファジルとガイから放たれた斬撃が雷撃と宙で衝突する。

 

「ほえー、凄いのです。斬ったのですー。流石、ファジルなのです。ぼくの勇者なのですー」

 

 カリンが満面の笑顔を浮かべている。

 黒竜から放たれた雷撃はファジルとガイの斬撃によって、斬り裂かれて宙で霧散する。

 

「凄いけど、別にカリンの勇者じゃないんだからね」

 

 背後からエクセラのそんな言葉が聞こえてきた。

 いや、そんなことより早く上級魔法を発動してくれとファジルは思う。

 

「エクセラ、魔法は?」

 

「準備完了よ。特大の爆炎魔法をお見舞いするわよ。雷撃より爆炎なんだから!」

 

 エクセラは深緑色の瞳を睨みつけるようにして黒竜に向ける。相変わらず何で張り合っているのかが分からない。

 

「神炎!」

 

 その言葉と共にエクセラが展開した魔法陣から赤黒い炎が渦を巻いた奔流となって放出された。

 

「神々の世界にしかないって言われてる炎なんだから。吹き飛ばされて、飛んで行っちゃいなさい」

 

 奔流となった赤黒い炎が黒竜を襲う。それを見て黒竜が咆哮を上げる。

 

「へ?」

 

「あっ!」

 

「ほえー?」

 

「おいっ!」

 

 それぞれが、それぞれの言葉を発して口をあんぐりと開ける。上空で咆哮を上げていた黒竜の遥か上空を通過して、エクセラから放たれた赤黒い炎の奔流は空の彼方に消えていった。

 

「お、おい、エクセラ……」

 

「えへっ。外しちゃったみたい」

 

 ファジルの言葉にエクセラはぺろりと舌を出す。

 

 いやいや、外しちゃったみたいではないだろうとファジルは思う。

 

 黒竜は再び咆哮を上げながらこちらに向かってくる。どうやら今の魔法を見て魔法等の撃ち合いは不利だと判断し、地上に降り立って戦うつもりらしかった。

 

「ひょえー、こっちにくるのですー。怖い顔なのですー。黒竜が激おこなのですー」

 

 カリンが両腕を上下にばたばたとさせている。流石にガイもその顔を大きく歪めていた。

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