ファジルは苛立つ気持ちやそれらの言葉を飲み込みながら口を開いた。
「勇者と魔族について、エクセラと少し話していただけだ」
「勇者と魔族……ですか」
何だろうか。このおっさん骸骨が今、気になる言い方をしたような。ファジルがそう思っていると、エクセラも同じことを感じたようでエディに深緑色の瞳を向ける。
「エディは魔族について知っていることはないの?」
「どうでしたか……」
何かもったいぶっている感じが苛つくとファジルは思う。そんなファジルにエクセラが続けて口を開く。
「エディは不死者として長く存在しているんでしょう?」
「まあ、そうですね。この世の全てに知らないことはないぐらいとは言いませんが……それなりに長く存在していますよ」
「だったら、魔族に関して知っていることも多いんじゃない?」
エクセラの言葉にエディは少しだけ黙り込んだ後、口を開いた。
「長く存在しているといえば、そこのお嬢さんも同じかと」
エディが向けた視線の先には巨大な飴を食べようと悪戦苦闘しているカリンの姿があった。飴を相手に悪戦苦闘していたカリンだったが、皆の視線が自分に集中していることに気づいたようだ。
「ほえー?」
そこに浮かべている他意のなさそうな笑顔を見る限り、カリンが魔族のことについて何かを知っているようには思えない。
というよりもこの子は魔族に限らず、世の中にある事柄で知っていることはさして多くないだろうとファジルは思う。しかし、一応は訊いておこうとファジルはカリンに質問を投げかけた。
「カリンは魔族について何か知っているのか?」
カリンは小首を傾げる。相変わらずその姿は抱きしめたくなるぐらいに可愛らしい。
「ほえー? 魔族と人族は仲が悪いんですよー」
……ほう、それで?
そう思ったファジルだったが、どうやらそれ以上の言葉はカリンから出てこないようだった。
「あんたねえ、何百年も生きていて、魔族について知っていることがたったそれだけなわけ? 普通に一般常識じゃない」
エクセラが呆れたような声を出す。
「ほ、ほえー? だって魔族と人族はもの凄く仲が悪いんですよ。そ、それに、ぼくは何百年も生きていないんですよー!」
カリンが両腕を上下にばたばたとさせる。
「またそんな分かりきった嘘を……」
「ほ、本当なんですよー」
涙目になるカリンが何だか可哀想に思えてきた。
「まあ、いいじゃないか、エクセラ。そんなことでカリンを責めなくても」
「ふんっ! そんなことって何なのよ? 本当のことじゃない。大体、ファジルはいつもカリンに甘いし、カリンの味方なんだから!」
鼻息を荒げるエクセラをまあまあとファジルは宥める。そもそも、どちらの味方なんてことがあるはずがないのだ。単純に子供を余り虐めるなと言いたいだけなのだから。
涙目になっているカリンの頭にファジルは片手をおいて、その金色の頭を軽く撫でる。
「ほら、カリンもそんな顔をするな。エクセラだって悪気があったわけじゃないんだからな」
悪気しかなかった気もするが、慰めるためにファジルはそう口にした。すると、エクセラとエディが自分に微妙な視線を向けていることにファジルは気がつく。
「……何だよ、その視線は?」
「ファジル、何だか嫌らしいし、気持ち悪いんだけど……」
エクセラは派手に頬を引き攣らせている。
いやいや、頭を撫でて普通に子供をあやして慰めていただけだろうとファジルは思う。そのような状況でエディがファジルを庇うつもりなのか口を開いた。
「まあまあエクセラさん、大目に見てあげて下さい」
大目って何だよとファジルは思う。大目も何も他人から非難されるようなことをしているつもりはないのだ。更にエディは言葉を続ける。
「ファジルさんは少しだけ変態さんなようですから。でも少しだけのようですからね。犯罪をしてしまうようなことはないのですよ。つまり、衛兵さんに捕まるほどの変態さんではないので大丈夫です」
……少しだけ。
……変態さん。
それに……何が大丈夫だと言うのだろうか。
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