「おい、不味いぞ」
黒竜が眼前に展開した金色に光る魔法陣を見て、流石にガイも顔を引き攣らせている。
「エクセラ!」
「分かってるわよ!」
ファジルの言葉にエクセラもすぐに反応して、両手を上空の黒竜に向けて翳す。
それとほぼ同時だった。黄金色に輝く稲妻が黒竜の眼前に展開された魔法陣から放たれた。
魔法陣から放たれた稲妻がファジルたちを一直線に襲う。しかし、その稲妻はファジルたちに直撃することはなかった。エクセラが魔法で展開した障壁によって、黒竜から発せられた稲妻は轟音と共に四方に霧散する。
「ほえー、凄いのですー」
カリンが口をあんぐりと開けている。
「ふん、舐めないでよ。稲妻より爆炎の方が強いんだから!」
……そうなのか?
……それに今、爆炎は関係なかったような。
「お前、凄えんだな」
ガイが感心したようにエクセラの顔を見る。
当たり前じゃないとばかりにエクセラは荒い鼻息を吐き出している。ファジルはそれを横目で見ながらガイに顔を向けた。
「村人たちの避難はどうなってるんだ?」
「大丈夫だ。仲間が村中を駆け回っている。家の中への避難は済んでいるはずだ」
それを聞いてファジルは少しだけ安堵する。後は村に被害を出さないようにしながら黒竜を追い払うだけだ。
だが……。
……追い払う。そんなことができるのだろうか。
……いや、やるしかない。
ファジルは心の中で呟くと、エクセラに茶色の瞳を向ける。
「エクセラ、黒竜を上空に貼りつけたままで撃退するしかない。となると、エクセラとカリンの魔法だけが頼りだ」
「分かってるわよ。カリン、障壁の展開は任せるわよ」
「はーい、了解なんですよー」
カリンが片手を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「エクセラ、俺とガイが黒竜に向けて斬撃を飛ばす。俺たちの斬撃程度では傷をつけられないだろうが、牽制ぐらいはできると思う。その間に上級魔法を発動できないか?」
「余裕よ。吹っ飛ばしてあげるわよ。雷撃より爆炎の方が上だというのを見せてあげるんだから」
いや、そんな物に上も下もないだろうと思うファジルだったが、今はそんなことを言っている場合ではないようだった。
「ガイ、斬撃は飛ばせるんだろう?」
「当たり前だ。俺はお前の兄弟子なんだぜ?」
……当たり前。兄弟子。
意味が分からない。エクセラにしてもガイにしても、こんな時に何を言っているんだと溜息をつきたくなってくる。
そんな諸々を飲み込んで、ファジルは上空の黒竜に顔を向けた。実際、ファジルが竜を見るのは初めてだった。
でかい。そして、顔がもの凄く怖い。
それがまずは最初の印象だった。こんなに大きな竜が村に降り立って暴れてしまえば、瞬時にこの村などは壊滅してしまうだろう。そうなった際の人的な被害がどれほどになってしまうのか。
「ファジル、行くぞ」
隣で大剣を上段に構えたガイが声をかけてくる。ファジルも頷くと、ガイと同じく上段に長剣を構える。
「ジアス流一刀断ち、斬!」
「斬!」
それらの言葉と共にファジルとガイが上段に構えた剣を振り下ろす。それによって放たれた斬撃が黒竜の顔に直撃する。
「ほえー? 無傷なのですー」
カリンが言うように、黒竜が今の斬撃で痛手を負った様子はなかった。不快であるかのように一つだけ身震いをすると、再び大口を開けてその前に魔法陣を展開する。
「ほえー! さっきよりもでっかい魔法陣なのですー。黒竜が怒ったのですー」
カリンが両腕を上下にばたばたと振る。
「カリン、頼んだわよ!」
エクセラからそんなカリンに向かって叱咤の声が飛ぶ。
「わ、分かったのですー。ぼく、頑張るのですー」
カリンが口を真一文字に結んで黒竜に向けて両手を翳すと同時に、黒竜の眼前に展開された魔法陣から稲妻が再び放たれた。
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