そうなのだ。付き合いだけは長い。エクセラはファジルの表情を窺うようにしながら言葉を続ける。
「黒ずくめだから正直、よくは分からないけどね」
エクセラはそう前置きをする。
「そういう目で見れば、確かに背格好なんかの外見は似ているかもしれないわよね」
エクセラの言う通りで、そういった目で見なければ、似ているとは思わないのだろうとファジルも思う。背格好が似ているだけで、特定の人物と似ているといった感想を人はまず持たないはずだ。
ただエクセラが気づいたとは思えなかったが、あの短剣の構え方……それ自体に大きな特徴があるわけではない。しかし、何度となくその姿と対峙してきたファジルにしみれば気がついて当然のことなのかもしれない。ファジルは大きなため息をつく。
「ちょっと、止めてよ。その顔は……ファジルがどう思ったって現実が変わるわけではないのよ」
それはそうなのだがとファジルは思う。それに自分はどんな顔をしているのだろうと再びファジルは思う。
「……ねえ、ファジル、人を傷つけたり、斬ったりしたことはある?」
それまでの話題を急に変えるかのようなエクセラの言葉に、ファジルは灰色の髪を左右に振った。
「斬ったことはいよ。傷つけたことは……まあ、子供の時にした喧嘩ぐらいだな。精々、顔が腫れたり、唇を切ったり、鼻血がでたりって程度だよ」
「そうよね……」
エクセラは両肩を竦めて言葉を続けた。
「私もこう見えて人に魔法を放ったことなんてないもの……」
エクセラがこんなことを口にしたのはボリスの一件があってのことなのだろう。実際、ファジルにとってもあれは衝撃だった。
しかし一方では、でも……とファジルは思う。
「でも、俺は自分が傷つけられそうになったら躊躇わすに剣を抜くよ。それは仲間が、エクセラが傷つけられそうになっても同じだ。そこに躊躇するつもりはないかな」
「え……私?」
急に名前を出されたからなのか、エクセラの顔が上気している。何でエクセラが顔を赤らめているのか、ファジルには今ひとつ分からない。
「……なあ、エクセラ。エクセラはこの辺りで村に帰ってもいいんじゃないか?」
その言葉にエクセラの顔がそれまでとは変わって途端に表情を失くす。ファジルとしては別に悪気があったわけではない。ただ正確な理由はまだ分からないが、こうして危険な雰囲気が出てきた旅に幼馴染みだからといってエクセラが同行する理由はないし、何よりも単純に危ないからと思ったのだ。
一瞬、表情を失くしたエクセラの顔だったが、瞬時にそれが怒りの表情へと変わる。
「はあ? 何でよ!」
「い、いや、危ないからさ……」
「危ないと何で私が仲間外れにされるのよ!」
……い、いや、仲間外れって、子供じゃないのだからとファジルは思う。それに危ないというのは正当な理由だと思うのだが。
「いや、だからエクセラのことを心配してだな……」
詰め寄ってくるエクセラにファジルがそう言った時、カリンがエディを伴って部屋に戻ってくる。
「ほえー? お化けおっぱいがファジルを虐めてるのですー」
エクセラはそんな言葉と共に戻ってきたカリンを指差した。
「ほらっ! こんな頭の緩いなんちゃって幼児は連れて行くくせに、私は仲間外れにするわけ?」
何がほらっなのだとファジルは思う。
「ほ、ほえー? 帰って来たら、何故かいきなり悪口を言われたのです。ぼくは頭も緩くないし、なんちゃってでもないんですよー!」
カリンは両腕を広げて上下に激しくばたばたと振る。
「はあ? その様子、どっからどう見ても言葉の通りじゃない!」
「違うったら、違うんですよー。エクセラだってゆるゆる残念おっぱいじゃないですかー」
「はあ? どこがゆるゆるで残念なのよ! ぴーんって張りがあるし、使いどころはこれからなんだから!」
最早、何の話をしているのか分からなくなってきた。いつもとは違う想定外の角度で二人の喧嘩が始まったような気がする。
「ま、まあ、お二人とも落ち着いて下さい」
エディが見兼ねたのか、いつもの不毛な二人の喧嘩に割って入る。
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