「俺も暫くはつい行くぞ。前にも言ったが、魔族に興味も出てきたし、エクセラが言うように危険かもしれないとなれば、弟弟子が余計に心配だからな」
まあ、ガイはそう言うだろうとファジルは思っていた。それに兄弟子だからというつもりはないのだが、筋肉ごりらが近くにいるのは何かと心強いのが本当のところだ。
次いでファジルはふざけた仮面をつけているエディに視線を向けた。
「私もついて行きますよ。家をエクセラさんに燃やされてしまって、住むところもないですしね」
エディの言葉にエクセラが嫌な顔をする。
……皆、暇なのか。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちを誤魔化すかのように、そんな憎まれ口をファジルとしては叩きたくなってくる。でも実際、危険かもしれないというのについてきてくれるのは有り難いし、何よりも頼もしいことなのは間違いがない。
「それはそうと、これからどうするかだな。魔族について調べるっていっても、国境沿いのこの街で分からなければ、どこに行けばいい? まさか魔族の国に行くなんてことは流石に言い出さねえよな?」
ガイの言葉はもっともだったが、正直そのあたりのことは何も考えていないファジルだった。ただガイが言った魔族の国に行くというのは、考え方の一つとしてあるのかもしれないとファジルは思う。
もっともどうやってあの高い城壁を乗り越えられるか分からないし、魔族の国に行ったとしても、そこでどんな危険があるかも分からないのだが。
だが、城壁ならばエクセラの転移魔法で超えられる気がする。それとも魔法では無理なのだろうか。いや、バルディアの惨事はその街自体に、もしくはその近辺に魔族の者がいたからあの規模の魔法を発動することができたのだとエクセラか前に語っていた。
ならば魔族は何らかの方法で城壁を越えて侵入したということなのだ。まさか穴を掘ってということではあるまいし、普通に考えるのであれば転移魔法で、城壁を越えたということなのだろう。
そして、魔族がそれをできたといえのであれば、自分たちだって転移魔法で魔族の国に行けるということだ。
……違うのだろうか。
ファジルはそこまで考えて、それ以上に思考を進めることを止めることにした。何かさっきから考えてばかりで頭が痛くなってきた。
どちらにしても今のところは魔族の国に行くつもりなどはないのだ。ならば、今その行き方を考える必要などないのだ。ファジルはそう自身の中で結論づける。決して考えることが嫌になったからではないと思いながら。
そんなファジルの心情を思いやってということではないのだろうが、エクセラが口を開いた。
「そのことなのだけれど、王都に行くっていうのはどうかしら?」
「王都?」
エクセラの意外な言葉にファジルはそれを繰り返した。エクセラは大きく頷くと再び口を開いた。
「王都にある魔法学院。王国内では最高の学府よ。そこなら魔族について詳しいことも分かるかもしれないじゃない?」
その言葉にガイが渋い顔をして口を開いた。
「それはそうかもしれないが、王都といえば王国のお膝元で、魔法学院っていえば、王国が運営している学校だよな」
あたりまえじゃないといった感じでエクセラが頷いている。
「俺たちに圧力をかけてきたのは、王国の連中なんだろう? そんな敵の懐に飛び込むような真似をして大丈夫なのか?」
「敵の懐って……別に私たちは王国から命を狙われているわけじゃないでしょう。魔族について調べていたら、少し怒られただけじゃない」
エクセラは何事もなかったかのように言う。その過程で人が一人、死んでいるのだ。それを少し怒られたらだけと言い切ってしまってよいものなのだろうか。
「ガイさん、私たちはまだ王国から特別に目をつけられてはいないと思いますよ」
……まだ。
口を挟んできたエディが意味ありげな表現をしている。まだということは、今後はそうなる可能性があるということなのだろうか。
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