「今までにこのことを不思議に思った人はいないのかな」
ファジルとしても気がついたばかりと言えば確かにそうなのだが、それゆえに単純な疑問でもあった。
「そうね。そう考えたことがない私が言うのもおかしいけれど、きっといるでしょうね。だってファジルが気づくことなんだから」
そう言ってエクセラが悪ふざけをするような笑みを浮かべた。
何だよ。やっぱり馬鹿にしているんじゃないか。悪ふざけをするかのようなエクセラの顔を見て、ファジルがそう思っているとエクセラは更に言葉を続けた。
「でも、それに気がついた人の声が大きくなることがなかった。ということじゃないかな」
……今ひとつエクセラの言うことが分からない。
ファジルが黙ってしまうと、エクセラが再び口を開いた。
「いずれにしても、魔族の国と隣接している地域に行けば、分かってくることもあるわよ。そういったところであれば、歴史的に魔族と関わってきたでしょうから魔族の情報も多いと思うのよね。。今は情報が少なくて、仮定の上に仮定を積み上げているようなものだもの」
「まあ、そうかもしれないな」
頷くファジルにエクセラがふと気がついたような顔をした。
「でもファジルは本当に魔族のことを知りたいのね」
「そりゃあ知りたいだろう。さっきも言ったように、俺は勇者になりたいと思っているんだから。もちろん、なれないことなんて分かっているんだぞ」
一応、しつこいようだが最後の言葉をファジルは付け加えた。しかし、エクセラは微妙な笑顔をいつものように浮かべただけだった。
「ま、まあその話はやっぱりよく分からないから、置いといていいんだけど……」
よく分からないなんてことはないし、置いておいていいわけではないだろうとファジルは思う。そんなファジルの思いをよそにエクセラは言葉を続ける。
「勇者と言えば敵は魔族だものね」
ファジルはエクセラの言葉に大きく頷く。物語の中に出てくる架空の勇者は別にして、現実にいる勇者の敵は魔族と決まっているのだ。
「そもそも何で人族の敵が魔族なのかが分からなくなってきた。だから、勇者の敵が魔族ということも分からない」
それはファジルの中で生まれたごく自然な疑問だった。そんなファジルにエクセラが軽く頷いた。
「ファジルの言うことは何となく分かるわよ。魔族が敵だというのがきっと当たり前すぎたのよね。考えてもみなかったけど、やっぱり魔族について私たちが知っていることって少なすぎるのだと思う。言ったように魔族の国と隣接している地域に行けば、きっと分かることもあるのだろうけど……」
ファジルもエクセラの言葉に軽く頷く。その後も勇者や魔族についてエクセラと他愛もない会話をしていると、カリンがエディを伴って宿屋の部屋に帰ってきた。
部屋に入ってきたカリンはその顔に満面の笑みを浮かべていた。
「エディにでっかい飴を買ってもらったんですよー」
そういったカリンの片手には棒の先に大人の顔ぐらいはある飴を握っていた。飛び跳ねんばかりに喜んでいるカリンは可愛らしいのだが、そんな大きな飴をどうやって食べるのかとファジルは疑問に思う。
そんなことを考えながらカリンを見ていたファジルにエディが口を開いた。
「あれー? 何か深刻なお話をされていたようですけど」
エディは何故か上半身を少しだけ左に傾けている。この骸骨、初めて会った時とは違って相変わらず言葉は軽いし、その態度は他人を馬鹿にしているようにしか思えない。
そんなファジルの思いも知らずにエディは言葉を続けた。
「二人だけで深刻な話だとすれば、他には言えないような話なのでしょうか?」
エディがこてっといった感じで小首を傾げた。
何だろうか。やはりこの骸骨、動作の一つひとつを見ていると異様に苛立ちを覚えてくる。
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