さっきからこのおっさん骸骨は意味ありげなことばかりを言っている気がする。そんなファジルの思いを他所にエディが更に言葉を続けた。
「なので今であれば、私たちが王都に行っても咎められてしまったり、特に目をつけられるような心配をする必要はないと思いますね」
「でも、王都であからさまに魔族について調べるのは不味いだろう。今でこの状況なんだ。王都なんかで呑気に魔族について調べていたら、あっという間に目をつけられちまうんじゃねえのか?」
ガイは渋い顔のままだった。確かにガイの言うことはもっともなような気がする。するとエクセラが得意げに鼻を鳴らしてみせた。
「ふふん。そこは大丈夫よ。ちゃんと考えているんだから。魔法学院は私の母校なのよ。私はそこの優秀な卒業生なんだから。バルディアで被害を受けた魔法の研究とか何とか言って、そこは上手くやるわよ」
そのような取り繕ったような言い訳が通用するのだろうかと思わなくもなかったが、バルディアの惨劇にたまたま居合わせた魔導士が、その魔法を解明したいというのは、ある意味で筋が通っているのかもしれない。それに建前上は魔族についてではなくて、魔法について調べようというのだ。
ファジルはそこまで考えると大きく頷いてみせた。
「よし、王都オルシュタット、そして王立魔法学院に皆で行くぞ」
「ほえー? 王都なんですかー?」
カリンが小首を傾げている。
「ああ、王都だ。俺は行ったことはないけれど、もの凄く大きな街なんだ。珍しいお菓子なんかも沢山あるって話だぞ」
「ほえー?」
カリンは相変わらずに小首を傾げたままだった。いつもであればお菓子の話になると飛びついてくるはずなのだが。ファジルはそんなカリンの様子がふと気になった。
「カリン、どうかしたのか?」
「ほえー? 何でもないんですよー」
カリンが金色の頭を慌てたように左右に振る。
「何か様子がおかしいわね。お腹でも痛いの? 落ちてる物は食べちゃ駄目っていつも言ってるじゃない」
エクセラもファジルと同様にカリンの様子が気になったようだった。
「ほ、ほえー? お腹なんて痛くないんですよー。それに落ちてる物なんて、ぼくは食べないんですよー」
カリンが慌てたように言い返している。
「カリン、いつもの冗談だ。そんなに慌てなくても……」
「ほ、ほえー? ぼくは慌ててなんていないんですよー。そうですか。王都ですか。王都は楽しみなんですよー」
事情は分からないが、何か隠し方も含めて色々とあからさまだった。もっともその事情をカリンに訊いたところで、彼女からまともな返事があるとも思えない。
ファジルは内心で溜息をついた。
普段とは違うカリンの妙な様子もそうだし、何かと思わせぶりなエディの様子も気になる。それに何といっても襲撃者のこと。このまま自分たちが魔族について調べるとなれば、彼らが黙っているはずはないだろう。
周囲に不明瞭なことが多すぎると思う。これらのことは王都に行けば分かってくることなのだろうか。
それにやはり一番の懸念としては、自分の都合だけで皆を危険かもしれない物事に巻き込んでしまっているということだ。危険かもしれないということを分かった上で、それでも皆がそれぞれの理由をつけて自分のためについてきてくれるという。
その気持ちは嬉しくもある。しかしその気持ちに単純に乗っかってしまってもよいものなのか。
もっともこの話を再び持ち出したところで、エクセラたちに一蹴されてしまうだけだろう。自分の中で勇者になりたいという気持ちを諦められないのであれば、エクセラたちに今は甘えるしかないのだろうか。そうなのであれば、そんな彼女たちは必ず自分が守るのだ。
だって自分は勇者になりたいのだから。
自分が思う勇者は皆を守る存在なのだから。
王都に向かうという決意の中で、ファジルは改めてそう思うのだった。
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