「今までは考えたこともなかったけど、何だかおかしくないか?」
「魔族はこれまでに何度も人族の領土に攻め寄せてきた。その度に当代の勇者を中心にして私たち人族はそれを退けてきたの。だから領土に攻め寄せてくるような魔族は悪い者として私たちは認識してるし、小さな頃からそう教えられて私たちは育ってきたわ」
エクセラの言葉にファジルは頷く。確かにエクセラが言うようにファジルもそう教えられて育ってきた。
だから当たり前のようにファジル自身も魔族は悪い存在だと思ってきたし、その思いは今だって別に変わってはいない。ただ、何か少しだけおかしくないかと思うだけだ。
「だけど、最後に魔族が人族の地を攻めてきたのは俺たちが生まれるずっと前の話だ」
「そうね。でも、私たちが知らないだけで当代の勇者一行が魔族のからの脅威を防いでくれているのかもしれない」
「……あの人数でか?」
ファジルはロイドたち勇者一行を思い浮かべた。勇者は確かに強い。きっと誰よりも強いのだろうとファジルは思う。しかし、いくら強いからと言っても勇者だけで魔族の脅威から人族を守れるとは思えなかった。
「まあ……そうよね」
懐疑的なファジルの言葉にエクセラは同意を示すように苦笑する。
「俺は勇者になりたい。なれるなんて思ってないけど、勇者になりたいと思っている。だから勇者が退けるべき敵である魔族。その魔族のことをもっと知りたいんだ」
「前半はよく分からないけど、魔族のことを知りたいって気持ちはよく分かるわよ。私も興味が出てきたから」
「例えば、何で魔族が人族に敵対しているのか。そもそも、それがよく分からない。小さい頃から魔族は人族にとって悪いことをするから敵だって教えられてきた。では何故、魔族は人族に悪いことをするのか。エクセラ、答えられるか?」
「魔族は魔王と呼ばれる魔族の王を中心にして、人族の領内に攻め入ってくるのよね。遥か昔から魔族はそれを繰り返している。基本的にはその事実を私たちは悪いこととしているわけよね。だって、私たち人族の領域に攻め寄せてくるのだから人族にとっては悪いことだもの。でも何故、魔族が人族の領内に攻め入ってくるのか。その具体的な理由を私たちが知らないのは確かよね」
エクセラは少しだけ考える素振りをみせた後、再び口を開いた。
「ファジルって本当に何気に真理を突いてくるのよね」
また同じ言葉を言われた。だが、何だろうか。やはり馬鹿にされている気もする。そんなことを考えながらファジルは別のことを口にした。
「大体、見たこともない魔族。詳しくも知らない魔族。それを何の疑問も持たないで嫌っているのは、少しおかしくないか?」
「さっきも言ったように、魔族は人族にとっての敵。そう小さな頃から私たちは教えられてきたわけよね。だから、それを盲目的に信じるのも無理はないわよ。現に私もファジルに言われるまで疑問に思ったことなんてないわけだしね」
「さっきエクセラが言った魔族が人族の領内に攻めてくるって言ったことだってそうだ。少なくとも俺が生まれてからそんな話は聞いたことがない」
「……確かにそうよね。でも、それを今も現在進行形で防いでくれているのが、勇者一行なのかもしれないわよ」
「あの人数で?」
ファジルは再び懐疑的な声で言う。
「まあ、そうよね。魔族の人口なんて知らないけど、それなりの国でそれなりの軍隊があるのでしょうからね。もちろん、今までだって勇者を先頭にして人族の軍隊が魔族の軍隊を退けてきたわけだけど……」
「実際に俺たちは勇者が、王国が魔族とどのように争っているのかも具体的には何も知らないんだ。こうして考えてみると何だか全部がおかしくないか?」
「全部がおかしいとまでは言わないけれど、確かに私たちには何も知らされていないということに近いかもしれないわね。知らされているのは魔族が人族にとって悪い存在だということだけ」
「何でなんだろう」
ファジルは小首を傾げる。
「何でなのか。今はまだ分からないわよ。でも、それがもしも意図的に隠されているのなら……」
エクセラがいつになく厳しそうな顔で言う。
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