神龍転生

神龍に転生した僕の甘々甘やかされ生活
くーねるでぶる
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001 転生ドラゴン

公開日時: 2022年6月26日(日) 17:13
文字数:3,209

 ハッと気が付くと、僕は暗く狭い空間に閉じ込められていた。辺りを見渡そうとすると、コツコツと頭をぶつけてしまうほどの狭さだ。ここはどこだろう?たしか、僕は……大きなトラックに轢かれて……。


『あなた!今、音が!』

『ああ!たしかに聞こえたね』


 熱に浮かされたようにボーっとする頭に、人の話し声が響く。女と男の声だ。僕は助けを求めて声を上げる。


「クァ……」


 しかし、口から出たのは掠れたような音だ。口が思うように回らず、意味のある言葉が紡げない。


 困った僕は、何かに突き動かされるように、壁を叩く。ここから出たくて、2人に気付いてほしくて。


 腕は、まるで自分の腕ではないかのように動きが鈍く重い。それでも一生懸命に目の前の壁を叩く。


『がんばれ!』

『がんばって!』


 いやいや、気付いてるなら助けてよ。


 ピシリ。


 若干の苛立ちを籠めて目の前の壁を殴ると、壁にヒビが入った。ヒビから微かに光が漏れている。この壁、硬いけど薄くて脆い?


 外に出られるかもしれない。


『『がーんばれ!がーんばれ!がーんばれ!』』


 リズミカルに応援し始めた2人の声援を受けて、僕は反応の鈍い手足を総動員して、まるで駄々をこねる子どもみたいに暴れる。壁に頭突きまでする始末だ。


 ピシピシ。


 だけど、その甲斐あってか、壁のヒビはどんどんと広がって、大きくなっていく。あともうちょっと。そんな予感があった。


 パキン!


 思いっきり頭突きしたら、ついに壁を突き破った。眩い光に包まれて、一瞬目が眩む。僕は反射的に目を瞑ってしまった。


『おお!』

『かわいい!』


 2人の声に目を開けると……。


「ぴぎゃぁあああああ!」


 目の前に、とても大きな白銀の恐竜の顔が二つもあった。怖い。


 何これ?夢?ハハハ、夢だね。夢に決まってる……。



 ◇



 夢じゃありませんでした。


 あれからもう3日は経つのかな?寝たり起きたりを頻繁に繰り返してるから日付感覚が曖昧だけど、たぶん3日は経ってると思う。その間に僕は、4つのことに気が付いた。


 1つ目。

 たぶん僕は、死んで生まれ変わったんだと思う。夢にしては感覚がリアル過ぎるし、一向に目が覚める気配が無い。


 2つ目。

 僕がこの世界で初めて見た白銀の恐竜。どうやら僕のパパとママらしい。僕は白銀の恐竜の子どもに生まれ変わったようだ。最初に閉じ込められていた暗く狭い空間。アレは卵だった。


 3つ目。

 たぶん、この世界。僕の知ってる世界じゃない。異世界だ。パパとママ、アレはどうみてもドラゴンだ。僕知る限り、あんな立派な体躯に大きな翼の生えた恐竜なんて居ない。

 見た目は、西洋で考えられていた、よくファンタジー作品に登場するドラゴンに近い。ガッシリとした手足に、白銀に輝く立派な体。尻尾が長いからか、でっぷりというよりも、スマートな印象を受ける。控え目に言ってもカッコイイ!僕も成長したら、ああなれるのかと思うとテンションが上がる。

 しかも、飛べる。パパもママも優雅にお空を飛んでいる。物理的に飛べるとは思えないのだが、実際に飛んでいるのだから仕方がない。もしかしたら、物理法則が違うのかもしれないな。異世界だし。


 4つ目。

 この世界、どうやらある程度の文明があるようだ。僕たち親子が住処にしている大きな洞穴があるのだけど、その中は、まるで白亜の神殿のような荘厳な造りになっている。柱の一本一本、天井から床に至るまで真っ白な石でできており、柱や天井には、シンプルながら綺麗な模様が刻まれている。天井にはシャンデリアのような物までぶらさがっていて、洞穴の中を照らしていた。

 そしてその奥には、精巧な金銀財宝が無造作に山と積まれていた。金銀くらいなら分かるけど、中には虹色に輝く不思議な金属だったり、瑞々しい花や木の枝だったり、七色に光る宝石だったり、まるで海を思わせる青い金属だったり、正体の分からない物がいっぱいある。ドラゴンの居る世界だ。もしかしたら、ファンタジーな宝物かもしれない。ミスリルとか。

 その中でも特に注目したいのが、服や装飾品があることだ。どちらもドラゴン用ではなく、人間用の物に見える。少なくとも、人間あるいはそれに近い格好の知的生命体が居るみたいだ。もしかしたらエルフやドワーフなんてファンタジーな種族も居るかもしれない。




 僕が気付けたのは、このくらいかな。あと、これは確定ではないんだけど、どうやら僕たちドラゴンは、祀られているようだ。洞穴の中に在った宝物の中には、明らかにドラゴン用の物があった。今、僕の目の前に置かれている大きな器や杯なんかがそうだ。


 まぁドラゴンなんて居たら、祀っちゃう気持ちも分かる。願わくば、僕のパパとママが生贄とか要求するタイプの悪いドラゴンじゃないことを祈るばかりだ。

 ドラゴンは強いというのが定番だけど、同じくらい英雄によって倒されるのも定番だからね。


 ぐぎゅるー!


 考え事してたらお腹空いてきたな……。


 僕は今、洞穴から出たすぐの所にある草原で座っている。時折吹き抜けていく風が気持ち良い。空気も澄んでいて、美味しい気がするけど、空気じゃお腹は膨らまない。


 今日は天気が良いので、洞穴から出てお外でご飯を食べるらしい。目の前に置かれた大きな器や杯は、僕用の食器だ。銀色に輝く食器には、見事な細工が施されている。たぶん銀製だと思うけど……いくら位するんだろうな…?この大きさだと、軽く億とかいきそうだ。使うのがちょっと畏れ多い。


『ルシウス、ただいま帰りましたよ』


 直接頭に響くような女性の声に上を向けば、上空に舞う白銀のドラゴンの姿が2体見えた。2体とも口に何かを咥えている。パパドラゴンとママドラゴンが帰って来たらしい。生まれたばかりの赤ちゃんドラゴンを置いて二人で出かけるのはどうかと思うけど、たぶんこれがドラゴン流の子育てなのだろう。ちなみにルシウスというのが、僕の名前らしい。


 2体のドラゴンは、音も立てずにふわりと着地すると、僕の前にそれぞれドサリと口に咥えていた物を落とした。ツノの生えたイノシシと、トリケラトプスみたいな恐竜だ。どちらもすごく大きい。


『良い子で待ってましたね。偉いですよ、ルシウス』


 まるで見ていたかのように語るママドラゴン。ママドラゴンは、ひょいっとイノシシを咥えると、上空へ空高くぶん投げた。どんな首の力してるんだよ!?


 ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 空高く舞い上がったイノシシに向けて、ママドラゴンが口から火を噴く。これがあの有名なドラゴンブレスってやつかもしれない。すごい迫力だ。


 僕の目の前に置かれた器へとドサリと落ちてくるイノシシ。毛むくじゃらだった体毛は消え失せ、表面がこんがりと焼かれたイノシシの丸焼きの完成だ。プスプスと脂が弾け、とても食欲を誘う良い匂いがする。相変わらずワイルドすぎる調理方法だ。


『さあ、召し上がれ』


 僕は早速イノシシに齧り付こうとすると……。


『まぁ待ちなさい、ルシウス。こっちの肉も美味しいぞお』


 そう言って、トリケラトプスの肉を噛み千切り、僕の器に盛りつけていくパパドラゴン。


 たしかに、トリケラトプスの肉から良い匂いがするけど、生肉はちょっとまだ抵抗が……。僕は焼かれたイノシシ肉へと齧り付いた。


 齧ると、表面がパリッと弾け、濃厚な美味しい脂の味が口いっぱい広がる。普通なら噛み千切るのに苦労しそうなものだが、ドラゴンの体のおかげか、まるでバターのように噛み千切れた。柔らかい肉を噛むと、口の中で肉汁がジュワリと溢れ出す。美味しい。塩コショウもしていない肉だというのに、こんなに美味しく感じるのは、ドラゴンの体だからだろうか?いくらでも食べれそうなくらい美味しい。


『またわたくしの勝ちね』


 イノシシを狩ってきたママドラゴンが勝ち誇ったように言う。


『こっちも美味しいと思うんだがなぁ……』


 そう言うパパドラゴンは少し寂しそうだった。今度はパパドラゴンの狩ってきた物を食べてあげようかな。焼いてくれたらね。

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