影魔術師と勇者の彼女

~勇者に故郷を襲われたので勇者の彼女を人質に旅に出ました~
サクヤ
サクヤ

第59話 ガナルキンとの攻防戦

公開日時: 2020年12月3日(木) 10:55
文字数:1,982

 誓約には互いに賭けるものが必要。エイデンが賭けたものは鉱山の所有権全て、ガナルキンが賭けたものは鉱山からガナルキン側に約100kmの領地割譲である。


 一見、ガナルキン側のリスクが大きすぎるかのように見えるが、引き渡される領地は痩せた土地で彼にとっては痛くも痒くもない。


 ──2人の領主が離れた。


 敵は傭兵と騎士の混合部隊で数は30程、ロイ側は約20名……不利に思えるが、聖剣、魔杖、聖槍と遺物持ちが3人もいる。状況的にはこちらが有利だ。


 そしてエイデンがダートに指示を出す。


「ダート、君は1度後退して迂回ルートで鉱山に裏から入ってくれ」


「そんな! 私もご一緒に──」


「駄目だ。ガナルキンは僕らが到着したとき、中で何かしていた可能性がある。それを探ってほしい」


「……私がロイ殿に劣るからですか?」


 ダートはロイ達をそう聞いたが、エイデンは首を振って答えた。


「直接戦闘では確かに君が劣るだろう、だが君はロイ君よりも土地勘ある上、鉱山内部も詳しいだろう? 適材適所だよ」


 エイデンの言っていることは正しかった。ロイ達に迂回しろといってもこの地に来たばかりのロイでは時間がかかる上に、鉱山内部が普段とどこが違うかなどわかりようがなかった。


 だがそれでもダートは食い下がった。


「何も、私でなくとも……私の部下では駄目なのですか?」


「僕は君に頼んでるんだ。君ならこなせると信じている」


「ダート、お願い……指揮はわたくしが受け持つから」


 エイデンとソフィアの懇願に、ダートは苦々しい表情を浮かべて敬礼をした。


「──ハッ! ご命令、謹んでお受けします!」


 そしてダートは走り去っていった。


 ☆☆☆


 両者睨み合いの中、先に動いたのはガナルキンサイドだった。


 ──騎士が山なりに矢を掃射する。


「任せて下さい! "祝福盾・大盾ブレスシールド・ラージアンブレラ"!!」


 ユキノが出した祝福盾ブレスシールドはロイ達の頭上に横向きに移動して即座に大きくなった。

 グレンツァート砦攻防戦において成長した結果、ユキノは盾を大きくしたり、ブーメランのように飛ばしたり出来るようになった。


 役割としては盾で殴りながら継続回復フェオ・リジェネレイトをばら蒔くヒーラーだ。ただ、盾を広げすぎると割れる可能性があるのが難点だった。


 カンッ! カンッ!


 故に、山なりで放たれた弓矢では貫通出来るわけもなく、接近することに成功した。


「よくやったユキノ、これで接近戦に持ち込める!」


 ユキノは頷き、そして範囲回復魔術を使った。


「"ウル・リジェネレイト"──皆さん、頑張って下さい!」


 ユキノの使ったウル系のリジェネレイトは範囲特化型でフェオ系に比べたら量は少ないが、バフとして手早く周囲に配れるのが大きな強みだ。


 騎士は剣やら槍に持ち替え、ロイ達と接近戦を繰り広げた。


 ロイは手っ取り早くガナルキンへ攻撃を加えようとするが、重騎士3人のブロッキングを受けてしまった。


 恐らく、ソフィアの槍と似た白銀の装飾が目についたのだろう。明らかに聖武器であることを考慮された配置だった。


「──ッ! 目立つ剣を持つのも考えものだなっと!」


 重騎士の大槌を避けてすぐに斬り込むが、視界に大剣が見えたロイはしゃがんでそれを避ける。


 ブンッ!


「うおっ! 王国の精鋭より連携が取れてるな……ちと手間取りそうだ」


 続く大斧を避けながら仲間へ視線を向けると、そこにはロイと同じく重騎士を相手にするソフィアの姿が見えた。


 ロイのように避けたあと槍を地面に突き立て回転蹴りをしたり、受け流し後に石突きで兜を強打したり、回避と攻撃をほぼ同時に行っていた。


 そのためか、体力が激減した大槍使いはロイの見てる間に脇腹を貫かれて地に伏した。


「ふ~ん、勉強になるな。だが槍と剣じゃ同じ戦いは出来ない──ならッ!」


 振り下ろされた大剣を半身で避けたあと、その大剣の上に乗って騎士へ致命の一撃を入れる。

 当然ながら妨害の大槌が来たので、聖剣を射出して防御行動を取らせる。


 手元に再召喚してたら大剣騎士は持ち直してしまう。そう考えたロイは、フラガラッハの短剣を脇腹付近の鎧の隙間に差し込んで、おもいっきり蹴りあげた。


「──ゴフッ!」


 重騎士は兜から血を流しながら倒れた。


 魔方陣の刺繍技術の発展により、服も鎧並みの防御力を有している。そのためか昨今は軽装化が加速しており、ガチガチの鎧を着込むのは重騎士かカイロぐらいなものであった。


 ロイの短剣攻撃も軽装であったなら、体を反らす事で避けることが出来たかもしれない。いや、武器を手放せば重装でも避けることが出来た……それをしなかったのは、重騎士特有のプライドが邪魔したからだ。


 2人の重騎士は後退りながらそれぞれ武器を構えた。


「残り2人か……大振りの武器で手数減るのは痛手だったなぁ」


 短剣を忘れずに回収したロイはゆらりと立ち上がり、重騎士達へ聖剣を向けて威圧する。


「じゃあ2合目、覚悟しろよ」


 地を蹴り疾走したロイに対し、重騎士達は生唾を飲んで対峙するのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート