影魔術師と勇者の彼女

~勇者に故郷を襲われたので勇者の彼女を人質に旅に出ました~
サクヤ
サクヤ

第76話 貧困は人を間違った道へ歩ませる……

公開日時: 2020年12月20日(日) 08:00
文字数:2,026

 ウォーレンの身体は今、呪力による筋が血管のように走っている。


「私には……リディア殿しか……ない、んだ……ぁぁぁ……」


 このような状態になってるのは"誓約魔術ゲッシュ"の取り決めに抗って喋ろうとしないためである。


 ソフィアはウォーレンの抗う様を見て、口許に手を当てながら悲愴な表情を浮かべている。


「ウォーレン殿、わたくしはソフィアと申します。せめて、どう言った経緯でここにいるのかだけでも話してはいかがですか?」


「……くっ! ……私の領地は……イグニアの領地よりも貧困……だからだ。そちらには特産品がある……こちらには、ちっぽけな……鉱山しか……ないっ!」


 今の会話で一応話したことになるのでウォーレンの身体に走る激痛は多少は和らいだはずだ。

 どうしても話さない、そんな相手が目の前で激痛に苦しみ続ける……その光景はその場にいるほとんどが目を背けたくなる程だった。


「ボス、どうして領地にしなかったんですか?」


「正直いうとかなり迷った。だが俺達はエイデンを捜しにここに来たんだ。現状、情報が限りなく少ないからこれで良いって思ったんだが……まさかここまで頑なになるとはな」


 今わかってるのはリディアがガナルキンの位を継承し、自分の領地に他の貴族を招いているという事だ。


「ロイと言ったか……恥を忍んで頼み事がある……聞いてくれたら、話せる範囲で話す……」


 つまり、肝心なところは言えないがリディアの狙いに支障がない範囲で話す、暗にウォーレンはそう言っていた。


「……聞こう」


「私の領地にある戦力はここにいる者で全てだ。領民も村2つ分、驚くだろうがそれ程なんだ。だからポーンの招集に参加した……帝都を落とし、ここに新たな帝都を作るためだ。──ゲホッ!」


 ウォーレンが咳き込むと同時に、地面に血がばら蒔かれた。


「ロイ、君がその短剣を持っていると言うことは、イグニアに何かあったんだろ? 奴なら多分蜂起に反対するだろうな、だとすれば……北東にあるソレイユ砦に監禁されてるかもしれん……はぁはぁ、言えるのはここまでだ」


「反対した貴族はそこにいるのか?」


「ああ、上手くいってる貴族は戦火を恐れて反対するのは当然だろ?」


「そうだな──では、頼みとやらを話せ」


「残された騎士と、私の領民の身の安全を約束して欲しい」


「──承知した」


 ロイの言葉にウォーレンは安堵して目を閉じた。そして、降伏した配下の騎士は横たわるウォーレンを取り囲む。


「……山賊のような真似をさせてすまなかったな」


「いえ! お仕えできたこと、誇りに思っております……」


 騎士達が次々と最期の言葉を主君に伝えていく。ロイ達は邪魔をしないように、それを少し離れたところから眺めていた。


 騎士達の言葉全部が聞こえたかはわからない。最後の配下が語り終えた頃には彼は安らかな眠りに就いていた。


 全てが終わったあと、ヴォルガ王はテスティードから降車して騎士長の元へ向かった。


「あなたはヴォルガ王!?」


「いかにも、ワシはヴォルガ王その人じゃ。訳あって、このように魔術師のような格好をしておるがな」


「──遺された我らにはウォーレン様の領民を守る使命があります。どうか、命だけは……何卒」


「ウォーレンには子がいると聞いた……宝剣を子に引き継がせ、1からやり直すがよかろう。おお、そうじゃ、忘れるところじゃったワイ。罪には罰を──ほれ、受けとれ」


 ヴォルガ王は騎士に何かが入った袋を渡した。


「……これは?」


「エイデンは貴族なクセに研究ばかりしておっての、それは冬トマトを他の土地でも栽培できるように改良された試作品じゃ。罰として、それを領地で栽培して年一回は経過を帝都へ報告するんじゃ」


 食糧が比較的に少ない帝国において、これは起死回生の1手となりうる貴重な種、それを受け取った騎士は地面の雪を涙で溶かしつつ、他の騎士をまとめて領地へ帰っていった。


「知らなかったとはいえ、あれは反逆に値するんじゃないのか?」


「良いんじゃよ。それに、山賊紛いの強奪を行っていた割には、ここらの山賊被害は何故か減少傾向にあると報告を受けていた。どうしてだと思う?」


「まさか、ウォーレンは賊の積み荷しか狙ってなかったってのか?」


「その通りじゃな。大方、賊がキングストンの邪魔をせんようにここで見張りをしていたのじゃろう」


「……ん? ってことは、俺達は賊に見えたと言うことか?」


「鉄でガッチガチに固めた馬なし馬車が普通の行商に見えるのか? ワシでも絶対1度は止めるじゃろうな」


 よく考えればその通りかもしれない、通常の行商人を襲えば確実に賊認定されて俺達が到着する前にギルドによる討伐クエストが発行されていた筈だから。だが、今回の件でテスティードの無骨なデザインも割りと問題があることがわかった。


「……マナブに任せっぱなしってのも考えものだな。後でアンジュに相談してみるか」


「──ではソレイユ砦に向かうとするかの」


 こうして、少しだけ後味の悪い戦闘を終えたロイ達は北東のソレイユ砦へと向かったのだった。

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