村長とスタークの隊長らしき人と作戦会議を始めた。
「コホン、このような埃っぽい倉庫で話し合うのもアレだが──私はエイデン・イグニア様の私設武装組織"スターク"の隊長であるダートです。お見知りおきを」
短髪で前髪を立てた中年の男はそう名乗り、ロイと村長とソフィアに礼をする。
「ワシは影の村の長、シュテンじゃ、よろしく頼む」
爺さん、じゃなくシュテンも同じ様に一礼して、着席。
「俺は影の一族のロイ、後ろのメンバーのリーダーを務めてる。よろしく」
こうして本題へと入っていく。最初に口を開いたのはダートだった。
「向かわせた斥候の話しによると、ここグレンツェに到着するのはかなり先とのこと。その間、態勢を立て直した駐在軍が再度仕掛けてくる可能性があるため、この倉庫にあるハッチから下水道へ、そして街外れにある廃れた砦、グレンツァート砦で迎え撃つべきだろうと考えている」
「国境を無理矢理突破できないのか?」
「王国軍を引き連れてゾロゾロと帝国へ向かうのは国際問題になる。敵の態勢を崩し、一時的に撤退に追い込んでから向かえばなんとかなる」
「なんとか?」
「ああ、ソフィア様が居れば顔パスだからだ」
ロイはソフィアへ視線を向けると彼女も頷き、その言が正しいと肯定された。ダートの話しによれば、ソフィアはイグニア家に引き取られてひたすら槍を振るい"イグニアの槍"として武芸大会で名を挙げ、聖槍ロンギヌスを賜ったとか。以後、聖槍の担い手としてある程度の権力を持つため顔パスも頷けるというものだ。
そして村長シュテンが手を上げた。
「我々もソフィアちゃんが来るまでの間、この街で多少は訓練を積んでおる。全盛期には程遠いが、十分戦えるぞい!」
シュテンが一族の士気を上げてそれぞれ気合いの入った声が聞こえてきた。
「ではロイ殿のパーティは殿を、私とシュテン殿はグレンツァート砦までの案内をします」
何故か仕切られてるが、敵は後ろから来る確率が高いので正しい判断だ。倉庫にあるハッチを開けて下水道へと降り、静かな空間に足音が木霊する。
ちなみに、街で戦わない理由は何も知らない一般人を戦火に巻き込むわけにはいかないのと、ノーマークな砦の方が守りに適しているからだ。
そして、ツカツカと歩いていると、サリナがシュテンの後ろで手を伸ばそうとしたり、諦めたりしている。
ソフィアに警戒を任せてロイはシュテンの肩を叩いた。
「なんじゃロイか、どうかしたのか?」
「爺さん、この子が話したがってるからさ。歩きながらでも聞いてやってくれないか?」
シュテンはサリナをマジマジと見るが、首をかしげて疑問の表情を浮かべている。
「ワシに何か用か?お主のような、別嬪さんから話したいと言われるなんぞ嬉しい限りじゃ」
気付かないのも無理はない。あの頃は髪が金に近い茶髪で、肩ぐらいの長さだった。今は黒髪に戻り、ポニーテールにしている、はっきり言って別人と言っても過言じゃない。
「あ、アタシは……その、サリナ、と言います」
シュテンの眉が僅かに上がった。それだけじゃない、周囲の視線もサリナに向けられてる気がした。
「そ、その……アタシ……」
シュテンはサリナの肩を叩き、周囲の同族を見渡し、そして暖かな目をして言った。
「ずっと、罪悪感に苦しんだのじゃろ?」
シュテンはサリナの頭を撫でる。周囲も暖かく見守っている。心なしか、サリナの目尻に雫が見えた気がした。
「君らはまだ子供じゃ、きっと色々な理由があったんじゃろ。今の嬢ちゃんを見ればわかる、人生の大先輩じゃからな。もう間違えない、間違えたくない、その気持ちが大事なんじゃよ」
「ご、ごめんなさい……ぅぅ、ごめんなさい──」
サリナは声を押し殺すように泣く、生き残った一族は次々と慰めの言葉を送っていた。
その傍で、マナブは完全に出遅れてしまい、伸ばした手は空を彷徨ったままその件は終わってしまうのだった。
☆☆☆
~王国軍サイド~
アルカンジュは隣に並走する直属の騎士に尋ねた。
「反逆者が潜伏してるって聞いてるけど、あなたは何か知ってるの?」
「ハッ!どうやら影の一族が裏切り行為を行った上に亡命を謀ってると聞いております」
「ふ~ん、その裏切りって何?」
「オーパーツの引き渡しを拒否し、勇者に攻撃を加えたと聞き及んでおります」
古の盟約により、王家の森の奥にオーパーツが安置されていた。その森に何人足りとも通さないようにするのが王家側の責務。
そして万が一その監視を突破してその森に立ち入った輩を始末するのが影の一族の責務。互いに不可侵も王家の書物には記載されていた。
「う~ん、つまり破ってるのはこちらの方、か……」
「どうかされましたか?」
「ううん、なんでもない。あ、私の親衛隊で家族がいる人は帰還してちょうだい」
「ハッ!わかりました!」
"王とは、民のために存在する"私は教師にそう教えられた。初代王レグルスの言葉だ。私もそれが素晴らしいと信じて生きてきた。
結局、私は箱庭の中で生きてきただけだと知り、そして今回、王に同行するように言われた意図も理解できた。
慣れさせるため、なのでしょう?────お父様。
遥か前方を馬で走るハルトを見て溜め息を吐く。
「あなたはいつまで傀儡でいるのかしら?」
剣姫と謳われた孤高の姫君は、ハルトの事を少しだけ憐れんだのだった。
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