帰路を歩き、千晶と共に家に帰る。千晶とは幼馴染みで長年の付き合いがあるが、こうして同じ家に学校から帰るというのは新鮮な体験だ。その事を感じながら家に戻ると妹の瑞穂は既に帰って来ていた。
「おかえりなさい。お兄ちゃん、千晶さん」
「おう、ただいま」
「ただいま、瑞穂ちゃん」
二人して瑞穂に挨拶をして、家の中に入る。やはり新鮮なものがあるな。千晶と一緒にこうして家に帰るというのは。
そんな俺の思いを知ってか知らずか千晶は上機嫌だ。瑞穂がどうしたんだろう、と少し怪訝そうにしていたが、あまり考えない事にしたらしく口を開く。
「今日の夕飯はカレーにしようと思っているんだけど」
「カレーか。いいな」
「それいいね、瑞穂ちゃん」
「うん。千晶さんも作るの手伝ってくれるかな? お客さんにこんな事させるのも何だけど……」
「勿論、手伝う。私もカレーは好きだから」
瑞穂の言葉に二つ返事で頷く千晶。カレーか。それなら文句は無いな。堪能させてもらう事にしよう。
「私はカレーにはジャガイモ入れないんだけど、瑞穂ちゃんはどう?」
「私は入れますね。どうしましょうか」
女二人が夕食づくりの事で話し合っているのを聞きながら俺は自分の部屋に戻る。気になるのは先ほど、帰り道で千晶が言った言葉。
そう。千晶と一緒にお風呂に入る事になってしまったのだ。何とか断ろうと思ったのだが、断り切れなかった。いくら幼馴染みとはいえ、この年で一緒にお風呂に入るなど問題があり過ぎる。瑞穂に知られたら何を言われるか分からない。いや、あいつはあの年でも俺と一緒にお風呂に入るから案外驚かないのかもしれないが。
「どうするかな……」
入るのか、風呂に? 一緒に? 本当に? そんな言葉が頭に浮かんでは消える。なんとか有耶無耶に出来ないだろうか。そう思いつつ、荷物を置き、ベッドでしばし横になる。この体内には今は魔気なるものが溢れていて、それが俺の力となっている。あまり実感はない事だが、千晶が言うのだから間違いはないのだろう。この魔気があれば魔界から来たという魔物たちとも戦えるが、果たしてその上の魔族たちが来たら戦えるのか。その疑問は残る。魔族たちも魔気を使いこなしている事だろう。つい昨夜、初めて魔気を使った俺などより余程使いこなしている事は間違いない。となれば俺に対抗出来るのか大きく疑問は残る。
「とはいえ、千晶を守るしかないんだよな……」
それだけは譲る気はない。千晶の事は守り抜いてみせる。その思いでベッドで横になっていると、うたた寝をしてしまったようだ。体を揺すられ、起こされる。
「ふあ、すまん。ちょっと寝てた……って千晶か!」
「うん。ご飯出来たから呼びに来たんだ。一緒に食べよう。秋吾」
「あ、ああ……」
瑞穂が起こしに来たのかと思っていた。というか、千晶。お前も年頃なんだから男の部屋に無警戒に入るのはやめろよ……。そんな事を思いながら一階に降り、台所の食卓に行く。三人分のカレーが香ばしい香りを立てていた。程よく辛みもありそうだ。ジャガイモは結局、使わない事にしたようだ。
「おお、美味そうだな」
「でしょ、お兄ちゃん」
「新世界で採れた具材を使ったカレー。普通のカレーとは一段も二段も違う」
「……うちの冷蔵庫にあった材料。シンセカイ産だったんだ……」
カレーの出来には感心するが、繰り出した千晶の厨二病に瑞穂が呆れた声を出す。魔族の姫君とか本当だった事もあるようだが、荒唐無稽な事も言うのは間違いないようだった。やはり厨二病か。
「一緒に食べようね。その後は秋吾は私とお風呂ね」
そんな中、いきなり千晶が言い、場が固まる。この場で言うか。どう瑞穂に伝えたものかと悩んでいたのが解消されたのはいいが、瑞穂が硬直してしまっている。
「え、一緒に、お風呂? お兄ちゃんと千晶さんが?」
驚愕に目を丸くして俺と千晶を順に見る。俺は嘆息した。
「だから、千晶。俺にはその気はないって……」
「えー、なんでー、いいじゃない」
「お兄ちゃん、千晶さんとお風呂に入るの?」
「いや、だから、その気は……」
妹にも問い掛けられ、俺は否定の言葉を述べようとするのだが、そうするとこの妹はまたとんでもない事を言った。
「……じゃあ、私も一緒に入る。三人でお風呂に入ろう」
「わあ、いいね」
「……おい」
なんでそうなる。いや、瑞穂と一緒にお風呂に入るのは慣れているのだが、三人でお風呂に入るなどと、どうしてそんな話になるのか。
「別にいいじゃない、お兄ちゃん。いつも一緒に入ってるでしょ」
「それはそうだが」
「それじゃあ、これで決定。カレーを食べた後に三人でお風呂に入ろう」
話は決まったとばかりに千晶が言い切る。いや、マジで入るの? 三人で? 俺が閉口しているのにも構わずカレーの前に二人は着席し、スプーンを手に取る。そして、俺の方を見る。
「どうしたの、お兄ちゃん。食べないの?」
「冷めるよ?」
「食べるけど……」
お前たち二人はどうしてそう平然としているのだ。その思いが込み上げて来たが大人しく席に着き、スプーンを持つ。いただきます、の三人の声が響きカレーを食べる。新世界の具材を使ったらしい(普通にスーパーで買って来た物だろうけど)カレーは、まぁ、美味かった。だが、この先に待ち受けている事を思うと俺の心は穏やかではなかった。
さて、どうなるのやら……。
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