【完結】厨二病を患う幼馴染みの自称・魔族の姫君は真実でした

ダーク・ガーディアンとかに任命されたけどこれ厨二病の造語なのか本当にある役職なのか?
和美 一
和美 一

第15話:雨の日の襲撃者

公開日時: 2021年5月10日(月) 21:09
文字数:2,871


 その日は雨の降っている日だった。学校を終えて帰る途中、今日も何事も起こらなければいいのだが。そんな風に祈りながらの傘をさしての帰路だったが、虚しい事に俺の願いは天に届かなかった。雨の降りしきる中、傘もささずに一人の男、いや、少年が道の真ん中に立っている。こちらの道を阻むかのように。その少年が敵だと分かったのは傘の代わりに右手に持った一本のごっつい斧のせいであった。時代錯誤な斧を片手に持つ少年。間違いなく魔族。千晶を狙って来た刺客に違いなかった。

 俺は千晶を見て、千晶も頷く。お互い傘を捨て、臨戦態勢に入る。俺は魔炎剣イシュタリを出して構え、千晶も両手をフリーにしいつでも魔法を唱えられるようにする。その少年は俺たちを見て言った。


「あー、お前さんがチアキ姫で会ってるよなぁ? まぁ、魔力の質で分かるんだが」


 ニヤリ、と獰猛な笑みを浮かべて少年は俺を、いや、千晶を見据える。千晶は鋭い表情で少年を見返す。


「名乗りもしないってのは性に合わないんでね。オレの名はクザートだ。チアキ姫……と、その護衛?」

「秋吾だ」

「そうか。シュウゴ。悪いがお前たちにはここで死んでもらう。悪く思うな」


 そう言い、手にした巨大な片手斧を構える。過剰なまでの自信が伺える。この少年は強い。そう感じさせるには充分だった。


「誰が! 俺も千晶もやらせるものか!」


 俺も剣を構える。千晶は指先を少年に向け、炎弾を放つ。自身に迫り来る炎弾を少年……クザートはなんてこともなさげに斧を一閃させて切り払った。分かってはいたが、簡単に倒せる相手ではなさそうだ。俺はそう思いつつも魔気で身体能力を底上げして踏み出す。道を蹴り、加速し、少年・クザートに一気に肉薄。炎を纏った剣で斬り付ける。袈裟懸けに振り下ろした剣をクザートは斧で受け止めていた。ギリギリと剣と斧を押し合うが、まるで押し込めない。クザートも魔気で身体能力を上げていると見て間違いなかった。そして、それは俺の上を行っている事もこの一合で察する事が出来た。

 俺は体を後ろに飛び退かせる。クザートはそれを見て嗤った。


「ははは、どうした? まだ初撃だぜ? それともそれだけで敵わないと力の差を理解したか?」


 俺は返事をしなかった。だが、沈黙は肯定。この少年は俺より強い。それを察する程度の事は千晶を守る戦いをしてきた中で感覚として培われてきた。俺一人では勝てない。ならば千晶と連携して挑むまで。


「千晶! 援護を頼む!」

「うん! 秋吾!」


 千晶が炎弾を次々に放つ。クザートはそれらを斧を振るい、切り払っていく。そこに俺は再び踏み込む。再度、斬りかかるが、クザートはなんてこともなさげにそれを斧で受け止める。すぐに剣を引き、再度、斬り付ける。防がれる。千晶の炎弾が飛ぶ。クザートは舌打ちすると俺を押し返し、後ろに飛び退き炎弾を切り払う。


「グレイト・ボンバー!」


 千晶の声が響き、光の球がクザートに向かう。これは命中すれば大爆発を巻き起こす魔法だったはずだ。クザートといえど容易には切り払えまい。そう思ったのだが、クザートは空いている左手をかざす。そこから闇色の球が出現し、光の球とぶつかる。そこで大爆発が起こり、道路のアスファルトをえぐる。千晶の魔法はクザートには命中しなかった。迎撃され、途中で爆発した。この少年は魔法も使えるというのか……! 俺は戦慄したものを覚えながらも爆発の噴煙消えぬ中、剣を持ってクザートに突っ込む。クザートも斧を振るい、それを迎撃する。剣と斧がぶつかり合う。一合、二合、三合。それだけで押される。こいつの力量……クライドにも匹敵する! 直感的にそれを悟る。だが、退く訳にもいかない。俺は剣を振るうがクザートは斧を叩き付けて来てこちらを圧倒する。根本的な力の差に押され、後ろに足が下がる。


「逃げ腰になってるぜ!」


 クザートの嗤い声。それと同時に斧が叩き付けられる。俺は思わず後ろに飛び退く。千晶の炎弾が無数に放たれ、クザートを狙うが、それら全てを斧を振るいクザートは切り払う。


「ハッ! あめえんだよ!」


 今度はクザートの方が踏み込んで来た。俺に向って斧を振り下ろす。俺は剣でそれを受け止める。ギリギリと斧と剣が押し合いになる。体中の魔気を総動員して、両腕の筋力を増加させる。それでも斧を押し返せない。凄まじい圧力で押し寄せて来る斧に両足を踏ん張り、耐える。こちらは両手で剣を持っているが、相手は右手一本で斧を振るっている。なのに押し負ける。根本的に力の差があるのは明白であった。


「どうした!? チアキ姫の護衛ってのはこの程度か!」


 悔しいが何も言い返せない。俺がなんとか斧に押し負けないように耐えていると、千晶が炎弾を放ち援護してくれる。それらがクザートに命中する前にクザートは後ろに下がり、炎弾を斧を振るって切り払う。助かった……。そう思いつつもすぐに気分を切り替え、目の前の敵を睨む。こいつの力は明らかに俺より上。それでも退く訳にはいかない。千晶をやらせる訳にはいかない。俺一人で倒すのは無理だ。千晶の魔法と連携していかなければ。剣を構え直す。クザートも斧を右手一本で再び構えてこちらを睨み据える。


「ふん。まだやるか。力の差は分かっただろう?」

「それでも、お前に千晶をやらせはしない……!」

「はっ、その意気込みだけは買ってやるぜ! だが、力量が付いて来ていないんじゃなぁ!」


 千晶が炎弾を連射しクザートに放つ。クザートは斧を振るい、それらを切り払う。その隙を突いて俺は踏み込み、炎を纏った剣を振るう。が、クザートの斧は高速でそれを受け止める。こんなデカい斧を右手一本で軽々と……! 驚愕を覚えるがそれを表には出さない。


「なかなか楽しめたがな……遊びは終わりだ!」


 クザートはそう言い放ち、俺を後ろに吹っ飛ばす。俺が体勢を立て直す暇もなく接近し斧が振り下ろされる。「秋吾!」と千晶の悲鳴。剣で受け止めるのも間に合わず斧の斬撃は俺の体を斬り裂き、制服を引き裂き、肉を斬る。鮮血が舞い、思わず俺は情けなくも悲鳴を上げてしまう。千晶が後ろから炎弾を連射する。それにクザートは後退したが、俺は斧の一撃を喰らった痛みで動けない。うめき声が漏れる。こんな所でやられている場合じゃないってのに……千晶を守らないと……。だが、真っ赤な血は留まる事なく流れ続け、体に力が入らない。


「あばよ、護衛さん」


 クザートは俺に向って斧の一撃をもう一度打ち込もうとしてくる。それを喰らえば今度こそ命はない。俺は死を覚悟したが。


「やめてぇっ!!」


 後ろから放たれた光が俺の降り注ぎ、思わずクザートは後ろに飛び下がった。俺の傷は瞬く間に塞がって行き、服を汚す真っ赤な血と道路のアスファルトにしたたり落ちた血だけが俺がそれまで負傷していた事の証となった。

 俺は驚愕しつつ千晶の方を見る。千晶の体から光が発生し輝いている。それは俺に向って伸びていて、俺の体も光り輝く。

 なんだ、これは。

 驚愕しつつも俺は再び魔炎剣イシュタリを構える。

 体に力が漲っている。

 行ける。

 その思いでクザートを睨み付ける俺であった。


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