【完結】厨二病を患う幼馴染みの自称・魔族の姫君は真実でした

ダーク・ガーディアンとかに任命されたけどこれ厨二病の造語なのか本当にある役職なのか?
和美 一
和美 一

第11話:天下無双(ただし二次元)

公開日時: 2021年5月6日(木) 21:09
文字数:3,147


「随分、遅かったね。お兄ちゃん。千晶さん。何かあったの?」


 案の定。朝比奈家の玄関をまたぐと二階の自室にいたらしい妹の瑞穂が降りて来て、俺と千晶を出迎え、疑問を含んだ言葉をかけて来た。さて、どう答えるべきかダーク・ベリアルの称号を持つ魔界の剣士と千晶を守る資格があるかどうかのテストで剣を交えて来た(俺が一方的に攻撃していただけだが)なんてとても言えやしない。適当な口実を……。


「ただいま、瑞穂ちゃん。秋吾はダーク・ガーディアンとしてダーク・ベリアルの称号を持つ魔界の剣士、クライドに認められるために戦っていたんだよ」

「おい」


 一切の誤魔化しもなく真実をそのまま告げた千晶に思わず俺は呟く。そんな事を言ってどうしろというのだ。さすがに瑞穂までは自分を巡る魔界の騒動に巻き込みたくないと言ったのはお前だろうに。

 ……いや、待てよ。俺は考える。千晶は厨二病少女だ。そして、それを瑞穂も知っている。と、言う事は。


「はいはい。それは凄かったですね。ダーク・ガーディアンにダーク・ベリアルね……どっちも凄そう」

「そういうこった。俺はダーク・ガーディアンとやらになったらしい。魔族の姫君の千晶の護衛役だな」

「お兄ちゃんも大変だね」


 やっぱりだ。瑞穂は千晶が先ほど言った事を欠片程も信じていない。いつもの厨二病が炸裂したとしか思っていないようだ。それに便乗して俺も言葉を発する。瑞穂は呆れた様子で苦笑いをしている。


「ゲーセンで格ゲーでもやってたの?」


 その末に瑞穂は言う。いい感じに誤魔化せたようだ。ならばこれに乗らない手はない。俺は笑みを浮かべて頷いた。


「おう。なかなか熱戦だったぞ」

「へぇ、お兄ちゃんとそれなりに戦える相手がいたんだ」

「まぁな」


 自慢ではないが、俺はゲーム全般はかなり強い。特に対戦格闘ゲームならばそんじょそこいらの奴には負けないだけの自信がある。瑞穂も俺の影響で女の子の割にはゲーム全般をそれなりに嗜み、対戦格闘ゲームでも俺とそこそこやりあえるだけの腕前だ。最近はあまりないが、この家で一緒にゲームで遊ぶ事も多かった。勿論、その時は幼馴染みの千晶も一緒にいたが。


「ゲームか。私も久しぶりにプレイしたくなったな。この家にあるだろう? せっかくだからやってみないか?」

「ん、それもいいかもな」


 ここ数日。衝撃の真実が明らかになり、怒涛の如く過ぎ去って行った。少しは息抜きするのもいいかもしれない。そう思い、リビングにゲーム機を運びテレビに繋ぎ、起動する。


「私も久しぶりに楽しもうかな」


 瑞穂も乗り気でコントローラーを持つ。昔のゲームはコントローラーは有線でゲーム機と繋がれていたようだが、最近は無線が当たり前だ。適当な格ゲーをチョイスして、これで勝負しようという事になった。


「ふっ、ゲーマークィーン・ダーク・ゲーム・マイスターの称号を持つ私の力を見せてやる」

「じゃあ、私はライト・ゲーム・マイスターで」


 千晶の厨二病に合わせて瑞穂がよく分からない名乗りを提案する。千晶の称号も謎だが。まぁ、和気あいあいとした雰囲気だから良しとする。

 まずは瑞穂と千晶が格ゲーで一対一で戦う。千晶も善戦はしていたが、瑞穂は俺ともそこそこ渡り合える程の腕前だ。千晶など敵ではなく、危なげなく瑞穂が勝利し、千晶の操作していたキャラクターが画面の中で倒れ伏す。


「私の勝ちね、千晶さん」

「む、まだだ。ダーク・ゲーム・マイスターの私がこの程度で終わる訳はない」


 しかし、それで懲りる千晶ではなく、再戦を申し込み、再び女子二人の一対一の勝負が展開される。今回も千晶は頑張ったが、瑞穂が難なくコンボを決めて千晶のキャラを圧倒し、倒す。


「むぅ、私が二連敗なんて……」


 千晶は悔し気に顔をしかめる。瑞穂の方は上機嫌だ。まぁ、勝負事だし、勝っていい気分になるのは人間として当然だろう。悔しそうな千晶を見て、俺が千晶からコントローラーを譲り受ける。


「仕方がない。魔族の姫君の仇はダーク・ガーディアンとやらである俺が取ってやろう」

「お願い、秋吾。アルティメット・ゲーム・マイスターの秋吾なら出来る」

「また変な称号を追加するな」

「お兄ちゃんが相手ね。やりがいがあるわ」


 実の所、俺もゲームをやる事自体結構久しぶりなのだが、瑞穂に負けてはいられない。俺は持ちキャラを選ぶと瑞穂と対戦する。お互いにコンボを決める隙を狙って対峙し、牽制・逃げ・攻めを行い、コンボにまで繋げる。このゲームは一見さんお断りの所があるコンボゲーだ。やり慣れてない千晶が瑞穂に勝とうというのは元より無理のある事だったのだが、俺なら勝てる。上手い具合にこちらが流れを掴み、コンボを次々に瑞穂のキャラに叩き込み、倒す。瑞穂も善戦したが、俺には敵わない。


「うーん、相変わらずお兄ちゃん、強いなー」

「お前もなかなかだけどな、瑞穂」


 三回やれば一回くらいは俺が負ける感じだ。ともあれ千晶の仇は取った。


「さっすが、秋吾。強い。アルティメット・ゲーム・マイスター」

「その称号はいらないが……」


 俺は苦笑いする。千晶は首を傾げ、


「この称号じゃ不満? なら、究極絶対王者・アルティメット・ゲーム・キング・オブ・ザ・ジャパン」

「ネーミングは長くすればいいってもんじゃないぞ。後、凄そうな単語を並べてもいいってもんじゃない」


 相変わらずの厨二病に俺と瑞穂は揃って呆れる。千晶はその後、再びコントローラーを手に取り、瑞穂に挑んだり、俺と対戦したりしたが、残念ながら一回も勝ちを拾う事は出来なかった。それをいたく悔しそうにしていたが、勝負の世界は非情なのだ。俺も瑞穂と久しぶりに戦い、なかなか熱い戦いをする事が出来た。見立て通り、三回に一回くらいは瑞穂に敗れたあたり俺もまだまだ未熟。そんな風に三人でゲームに没頭し、時間が過ぎていく。気が付けばそれなりの時間になっていたのでゲーム・タイムは終了とする。


「ちょっと夢中になり過ぎちゃったね……晩ご飯作ってないよ……」


 しまった、という顔で瑞穂が言う。確かにそろそろ夕食時なのだが、台所には具材はあれど料理はない。


「しゃーない。レトルトでいいぞ。俺は」


 この家にはレトルト食品も買い置きされている。最近のレトルト食品の進歩は目覚ましく温めるだけで普通の料理と見栄えの変わらない物が作れたりする。栄養的な問題はあるかもしれないが、一日くらいならいいだろう。


「私もそれで構わない、瑞穂ちゃん」

「仕方がないね……今日はそれで済ませよう」


 瑞穂はそう言うと戸棚をあさり、適当なレトルト食品を手に取り、電子レンジに向かう。温めるだけのご飯も買ってあるが、ご飯は炊飯器で白米が炊けているようであったのでそちらを食べる事にする。レトルト食品郡の味だが、文句なし。本当に便利な時代になったものだ。そうして食事を済ませて自室に戻る。

 思い返すのはあの魔界の剣士クライドとの戦いの事。一応、千晶を守る者として認められはしたが、俺はあの剣士に全く敵わなかった。それを思い返すと悔しくなってくる。


「格ゲーでなら天下無双なんだけどな……究極絶対王者……その先はなんだったっけ?」


 千晶が俺に付けた厨二病称号を思い出そうとして断念する。格ゲーでだけ強いようではダメだ。千晶の護衛として役目を果たすために俺に出来る事は……。


「とりあえず、素振りから始めるか……」


 俺は下に降り、玄関から外に出る。魔気で作った剣、魔炎剣イシュタリを両手で握り締め、それを振るう。効果があるのかはしらないが何もやらないよりはマシだろう。朝晩のランニングなんかも習慣に入れるのがいいかもしれない。

 強敵が襲って来て、千晶を守り切れないのだけはごめんだ。その時、後悔しないように今の内から出来る事はやっておこう。そう思い素振りを続行する俺であった。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート