【アメリカ合衆国 ノースダコダ州北部 ダンシーズ北60キロの湖畔地帯 1945年3月11日 夕】
『アーサーより、全車へ。敵大型ドラゴンを捕捉。距離2500。横隊へ展開開始。トリスタンは、右翼へ展開。地形障害を利用し車体を隠蔽せよ。バロミデスは左翼を迂回、背後を取れ。オーヴァー』
『アーサーへ、こちらトリスタン1-1了解。トリスタン1-2より1-4は、1-1とともに移動後に攻撃準備。命令あり次第、射撃を開始する』
『アーサーへ、こちらバロミデス1-1了解。これより迂回挟撃のため移動を開始する』
『ケイより、アーサーへ。ブラヴォー・デルタに変化を認む。敵獣はこちらに気づいたらしい。進路を変針……なんだ? アーサー、ヤツは……』
『ケイ、どうした? ケイ、応答せよ。応答せよ。畜生。全車、警戒。ヤツは何か隠し玉を持っているらしい』
『トリスタン1-1よりアーサーへ。小隊全車、布陣完了』
『こちらバロミデス1-1、移動中。たった今、ブラヴォー・デルタとすれ違った。ゴツいヤツだ』
『アーサー、了解。距離1500で射撃を開始する。バロミデスは攻撃開始と同時に反転、後を突け』
『アーサーへ、こちらバロミデス1-1了解。ケツを思い切り蹴り飛ばしてやる』
『アーサーへ、こちらトリスタン1-1。ブラヴォー・デルタとの距離1500』
『アーサーより、トリスタン全車へ、攻撃を開始せよ。以降、トリスタン1-1が小隊の指揮を執れ』
『トリスタン1-1、了解。全車、ファイア!』
『アーサーより、バロミデスへ反転せよ。敵のケツを押せ』
『バロミデス1-1より、アーサーへ了解。ファッキンデルタに鉄の鞭をくれてやります』
『トリスタン1-2より、外れました。修正射行きます。ファイア』
『トリスタン1-3、命中……ジーザス、嘘だろ』
『トリスタン1-4より、1-1へ。あのトカゲ野郎、弾をはじきました』
『トリスタン1-1より、アーサーへ。攻撃に効果無し。ブラヴォー・デルタが徹甲弾を弾きました。ブラヴォー・デルタ、増速。突っ込んで来ます』
『……アーサー、了解。トリスタンは射撃続行。距離500を切ったら後退せよ』
『アーサーへ、トリスタン1-1了解。畜生、距離1000でも弾きます』
『こちらバロミデス1-1、敵の尻尾にぶち込みましたが、効果無し。クソ、ガードが固えやつだ』
『アーサーより、バロミデス。可能な限り肉薄してヤツの足を狙え』
『バロミデス1-1、了解。肉薄します』
『トリスタンは敵の頭部へ射撃を集中。弾種を榴弾へ変更。目を潰せ』
『トリスタン1-1、了解。ファイア!』
『バロミデス1-1,ブラヴォー・デルタの右脚部に命中。ヤツの足が止まった。ざまあみろ』
『トリスタン1-2、頭部へ命中。効果あり。あの野郎、動きを止めました』
『トリスタン1-3、命中。ビビらせやがって』
『アーサーより全車へ、いいぞ。このままここに足止め――』
『トリスタン1-1より、アーサー。敵獣がおかしな動きを……こいつはヤバイ、後退を!』
『トリスタン1-1、どうした? こちらアーサー、トリスタン1-1応答せよ。先ほどの爆発音はなんだ?』
『こちらトリスタン1-3、1-1と1-2は撃破されました。距離を一気につめられ……クソッ、こっちに来やがった。後退、後退!』
『こちらバロミデス1-1、あの野郎、トーマスの車両を……仇を取ってやる』
『こちらアーサー、トリスタン各車へ。目視で状況を確認した。後退しつつ、可能な限り射撃を続行。バロミデスは距離を保て。ヤツの足を止めるんだ』
『バロミデス1-1、了解。対戦車榴弾を試してみる。クソッ、駄目だ。まるで刃が立たない。おい、トッド後退しろ! ヤツはお前を……ああ、畜生!』
『アーサーより……バロミデス小隊、君らは後退しろ』
『アーサー、どういうことです?』
『トリスタンは全て神へ召された。私はここで義務を果たす。君らは退避して、HQへヤツの脅威を知らせろ。可能な限り、子細にだ。これは命令だ』
『こちらバロミデス……了解。後退し――』
『バロミデス……!? 応答しろ! バロミ――』
ネスビット大尉がM4のキューポラのハッチに手をかけた瞬間、凄まじい衝撃が襲ってきた。車両が横倒しになったのを認識する間もなく、彼はしたたかに延髄を天蓋の枠にぶつけ、脳と身体を結ぶ神経の束が寸断された。おかげで痛覚は感じなくなったが、彼は一切の命令を下せなくなった。
装填手がネスビットの身体を起こし、何事かを叫んでいるが、彼の声帯は機能しなくなっている。
ネスビットは心の中で叫んだ。
何をしている早く逃げるんだ! オレはもう役に立たない!
彼の叫びをかき消すように、地響きが近づいてきた。
ネスビット大尉の機甲中隊が全滅した事実は、近くの日本軍の中隊から合衆国軍の司令部へ知らされた。ホンゴーと名乗る少佐はネスビットの部隊の救援に駆けつけていた。しかし、ホンゴーが現地に到着したときには全てが終わり、暗闇の中に十数両のM4の残骸が残されるのみだった。彼が救うべき味方も、撃滅すべき敵も居なくなっていた。
ホンゴーの報せを受けて、合衆国軍第六軍司令部は大型ドラゴンの迎撃計画を立て直し、大幅な後退を決断した。
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