目が醒めた。と同時に理解した。
なるほど、どうやら失敗しなかったようだ。
さっきまで目を開けていた僕は一瞬前の僕。
即ち数百か数千年前の僕。
初めてにしては、上出来。
“それ”は、息をするように能力を使った。
能力により展開された闇は、目覚めた狂気を閉じ込めた。
顕現したのは悪。
そしてそれは“何か”の存在そのもの。
為らざる者の正体。
無限に等しい、この世に2つだけの闇。
その変わらない力に、“何か”は闇で顔を綻ばす。
「はは ははは ははははは!」
抑えられなくなった悦びと歪みが“何か”の笑いを加速させる。
「ははははははは ははははははははははは!」
闇の中で1人、反響なき笑いをあげる。
そしてしばらく続いたそれは、突如“何か”の意思で止められた。
「おかしくてたまらない…生き返るってこういう気分なのか!ははははは!」
狂気、とさえ言えよう。
何か、もとい彼は、狂気から生み出された闇なのだ。
ああ、素晴らしい。
ようやく止まった笑いは、闇をとても静かな空間へと塗り替え、まるで嵐の前のような不気味さを演出していた。
彼の中に、感動の次に訪れたのは憎しみだった。
憎い、憎い。自分を殺した奴らが憎い。
あいつらは、あいつらだけは僕が…
「憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ!」
絶対に、殺してやる。
赤と黒の、あいつら。
「うん、そうだそうしよう。それじゃあ手始めに…」
狂気的に思考が定まらない彼は、しかし唯一解とも言える絶対の理を1つ持った。
必ず奴らを殺す。
目が醒め、笑い、憎み、そしてまた笑う。
彼は今、自分の力で憎い相手を殺す姿を想像し、その光景に笑いが止められなかった。
楽しみだ…とても楽しみ。
そして感じた高揚を育てるように、まるで土に種をまくように右手を構える。
ニヤける顔の歪みを必死に堪え、変わらぬ詠唱で研ぎ澄ました。
「──さあ始めよう。僕の楽しい狂喜劇。
はは…ははは!狂え狂え全ての生命!絶望の朝日が顔を出す!
権能!『黒き豊穣へ捧ぐ死歌』!」
その日、世界に放たれた。
混沌と絶望の、最悪の種が。
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