「なんだァ?生き残りがいやがったか。」
何故か腹立たしいその声は突如レイン達に降り注いだ。そこには金髪でこちらを見下したような顔の、成金風な装備の男が立っていた。
そしてその直後、シルとラースは後ろに飛ぶ。あの成金みたいな甲冑はなんだ、と思考停止したレインは思った。
「お前が…勇者かッ…!!」
ラースの怒った所は初めて見た。そう思った。美しい顔は誰かを睨んでも美しく見えるんだ、などバカバカしいことも思ったせいか、ラースのその言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
こいつが…敵かたき!!
そう思った途端、成金勇者に飛びかかっていた。
「なッ…?!」
勇者もシルもラースも、それに驚いていた。まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのように。
しかしそれもつかの間。5歳の魔物の子供が街を攻め滅ぼした勇者に適うはずもなくあっさりと蹴り飛ばされる。そしてレインの意識は遠のいていく。
主の子もまた主。そんな相手を蹴り飛ばされて怒れずにいるラースではない。持ち前の素早さで近づき胴を殴ると勇者の装備が吹っ飛ばされる。
「そっ、装備が!!チッ、てめぇ!!」
勇者が細剣で反撃に出る。成金装備だが勇者なだけあってラースをどんどん追い込んでいく。そして自身の有利を確信した勇者は下衆のような顔でラースとシルに語りかける。
「へっ、てめぇら魔物だが顔と体はいいもんだなァ、俺が遊んでから奴隷商人にでも渡してやるから命はとんねぇでおいてやるよ」
当たり前にそんなことお断りの2人だが、その2人はレインをどうにか逃がすことだけを考えていた。
そして勇者はだが、と前置きを置いて立て続けにこう言った。
「このガキは殺す。今ここで。この俺様に歯向かうやつは、許さねぇ。最初から皆殺しの予定だったがこのガキは他よりも惨たらしく殺す。」
そう言って剣を振りかざした。
夕焼けよりも紅く昏い空は、大事なものを攫っていった。そしてまた大事なものを攫おうとしている────。
途切れそうな意識の中で、その剣が肉を切り裂いたのを見た。スパッと真っ二つに切断した。そしてそれに皆驚いた。
ラースも、剣を振った勇者も、そしてレインも。
シルがレインを庇って剣を受けたのだ。
シルはレインに泣きながら笑いかけて、上半分の肉体と下半分の肉体に分かれドサッと地面に振り落ちる。
その血の色がレインの脳に、目に焼き付いて、そして目から涙が溢れ出す。
「あ、ああ…ああああああああぁぁぁっ!!」
声にならないレインの叫びが辺りに響く。そこには絶望しかなかった。目の前の人間が憎くて憎くて仕方がなかった。
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