「私のターン、二枚ドロー」
だがそれが油断を生む。井筒のエネルギープールも十三枚ある。強力なカードが飛んできてもおかしくはないのだ。
「コスト九のドラゴンを召喚しようか。《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》!」
大型のドラゴンの登場に、一瞬焦る菖蒲。しかしコストは《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》の方が上。バトルで破壊される心配はない。
「……と、思っているんだろう? ではさらにコスト三の、《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》を召喚だ」
「軽コストのドラゴン…?」
この場にそぐわない、軽いドラゴン。だが出したのには意味がある。
「バトルと行こう。私は《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》で、君の《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》に攻撃」
「でも、コストは私の…」
「確かに、カードに記載されたコストは君のドラゴンの方が上。だが、《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》の効果がある。相手のドラゴンとバトルする時のみ、私のヌークリアのコストは三上がる」
「しまった!」
この攻撃で、《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》は破壊され、菖蒲に初ダメージが通る。二点受け、残る体力は二十八点。
「すまない、説明がまだだったな? 《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》の効果…。ドラゴンに攻撃した場合、疲労状態から回復できる。そして二度目以降の攻撃が可能で、おまけに疲労状態でないドラゴンにも攻撃が可能だ」
二度目の攻撃宣言。菖蒲の《ビオランドラゴラ・フェランドラル》が破壊され、六点のダメージ。体力は二十二点。わずか一点だが、逆転した。
ただし、《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》は直接攻撃が行えない。今、菖蒲の場は空。だから《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》は再度疲労状態から回復するが、これ以上の追撃はない。
(でも、ドラゴンを出さないでターンを渡すのは危険すぎる! だけど出せば、攻撃されて破壊……)
かなり厳しい状況だ。さっき生まれた余裕はもう、一ミリも心に残っていない。
(……いや、ここで諦めちゃダメ! 気を強く持たないといけない!)
自分のデッキを信じ、カードを引く。
(《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》……! 悪くはないけど、どうする……?)
この時、エネルギープールは菖蒲が十一枚、井筒が十三枚。場にいる限り《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》のコストは自分と相手のエネルギープールの差分上がるので、このスタートステップでエネルギーチャージをしなければ、二上がって十一。わずかだが届かない。だが手札には、コスト三のスペルカード、《枯れ葉》がある。それで《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》を疲労させてしまえば、直接攻撃をくらわせることができる。しかしそうするには、エネルギーチャージをするしかない。が、そうすればエネルギープールの差は縮まる。
(でも、《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》は私のエネルギープールのカードを墓地に送れば、相手のドラゴンの攻撃を無効にできる…)
けれどもその効果を使えば、エネルギープールのカードが減り、《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》のコストは上がるが次のターン以降の展開力に響く。
本来なら冷静に考えられるはず。だが今は状況が特殊。カード・オブ・ドラゴンの未来がかかっているのだ。だから無駄なことでも余計に重要なことのように考えてしまう。
そう。つまるところ、菖蒲の心配は無意味。何故ならエネルギーチャージを行わずに《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》を出してターンを終えればいいだけの話だからだ。そうすれば、返しのターンの攻撃を効果で凌ぎ、かつエネルギープールに差が出るので、次の菖蒲のターンに《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》を相打ちだが打ち取れる。
「私は、エネルギーチャージをして……」
しかし菖蒲は、エネルギーチャージをした。そして《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》を召喚後、《枯れ葉》を使って《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》を疲労させる。
「《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》で直接攻撃!」
「そう来るか…。だがそれは、通じない。私は手札の《ヌークリア・シェルター・ドラゴン》の効果発動。相手ターンに自身を手札から捨てることで、相手のドラゴンの攻撃か効果を無効にする!」
「そ、そんなっ…!」
意を決した攻撃は、届くことがなかった。
「………………。ターン、エンド…」
「私のターン。このターンも《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》の効果で二枚ドローする。そして……!」
さらにドラゴンを繰り出す井筒。
「コスト六、《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》! さらに私は残ったコストでスペルカード、《オンカロ》を発動」
その効果で井筒は二体のヌークリアを選び、片方を墓地に送って、もう一方のコストをこのターンのみ、倍に。《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》を墓地に送り、《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》のコストが倍化した。
「ここで攻撃を止められては興ざめだな。残った一コストで、《スロー・ニュートロン》を発動。私の《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》と君の《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》を選択し、その効果をこのターンのみ、無効にする」
これで、攻撃を止められなくなった。まさに絶体絶命。
「ではバトル! 《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》で、君の《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》へ攻撃!」
この時、十八に膨れ上がった《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》のコストは《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》の効果でさらに三上がる。一方の《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》は、コストは九止まり。差分の十一ダメージが菖蒲を襲い、残る体力は十点。
「追撃だ、《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》、《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》!」
コストの合計は、九。よって菖蒲の残り体力はわずか一点。
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