「こんなことが…! だが君の状況が悪いことに変わりはない。私の《節足竜目ローカスト・ジャバウォック》にも攻撃の権利が残っているんだ」
「するのか? 直接攻撃をよぉ…!」
ここで勝利をもぎ取るには、直接攻撃しかない。しかし思い返してみれば才林は、このバトルで直接攻撃は、序盤に数える程度しかしていない。序盤はエネルギープールに多くのカードがないために、強力なトリガーカードを発動しづらい状況だ。しかし今は違う。お互いに十枚以上あるため、強いカードも使えるのだ。その場合、直接攻撃は相手に反撃の一手を与える結果になりかねない。それほど直接攻撃に反応するトリガーカードを警戒しているのだ。
「……私は《リヴァイムート・ネプチューン》へ攻撃する…」
コストの差は、わずか一。よって受けるダメージは一点のみ。これで残るは三点。
「ターンエンドだ……」
これは賢い選択とは言えない。ここは強く出なければいけないのだ。
言ってしまえば、安全性・安定性を重視するが故に肝心の場面で勝負に出れない。それが、昨年優勝を逃した原因とも言える、才林の致命的な欠点なのだ。
このターンの終わりに、《節足竜目スコーピオン・ヨルムンガンド》と《節足竜目ホーネット・ファフニール》は才林の手札に戻る。
「オレのターン、ドローしてエネルギーチャージ!」
強く宣言した。それもそのはず、この時のリュウシの手札には、直接攻撃を防げるカードがなかったのだ。弱気や緊張を隠すための、大声である。
(才林! お前は強いぜ! マジで負けるかと思ったぐらいだ……! だがオレも諦めない! その心が、勝機を掴んだ! そして掴み取った勝機が、勝利に成長する!)
リュウシが手札に握っているスペルカードは、《テリボー・レイニー》。コストは五で、このターンのみ水のドラゴンのコストを倍にできるカード。ただし、発動するには自分の場が、水のドラゴン一体のみである必要がある。
「まずは、《リヴァイムート・ニライカナイ》を召喚だ! そしてスペルカード、《アクアブースト》を発動! 《リヴァイムート・ニライカナイ》に、《リヴァイムート・パシフィス》のコストを加算する。代わりに《リヴァイムート・パシフィス》は墓地に送られる。それから……《テリボー・レイニー》を発動だ!」
効果でコスト七に、まず九が加算されて十六。それが倍になって三十二。《アクアブースト》の効果を受けたドラゴンはこのターン、ブロックされても相手にダメージを与えられる。
「バトル! オレは《リヴァイムート・ニライカナイ》で、お前に直接攻撃! 琉球のファティリティ・ウェーブ!」
才林はその攻撃を、ブロックしなかった。ただ、目を瞑っていた。
「な、何ということでしょうか! ざ…才林選手が! 何と! 試合終了! 勝者、祭田リュウシ選手! 前年度準優勝者、黒外才林選手、ここで無念の敗退です…!」
司会者はそう叫ぶ。そして会場にもどよめきが。しかし才林は冷静に、
「おめでとう、リュウシ君。君の勝ちだ」
と言って、拍手を送った。
「才林……」
「何も言うことはない。カードゲームは勝負事、勝者がいれば敗者もいる。負けた者への気遣いなど、無駄だ……。君は純粋に勝利を喜ぶべきだ」
本当は誰よりも悔しいはずだ。だが才林はその感情を押し殺した。今は勝ったリュウシの栄誉を称えるべきであって、負け犬が遠吠えをして水を差すのは間違っている。
「でも才林、これだけは言わせてくれ! お前、本当に強かったぜ! 最後のドロー次第では、俺は負けていた…!」
「それは買い被りだ。今の私は敗者に過ぎない。リュウシ君、君には前を行く義務がある。後ろを振り向くな! そして私の代わりに、枝垂に勝つんだ…!」
「わかってるぜ!」
才林は、リュウシが彼に向けた親指を見ると、フフっと笑いながら会場を去った。
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