「決まりました! 勝者、皇枝垂選手! 昨年の大会を思い出させる、圧倒的な試合運びであります!」
他にも司会は何かを言っているが、リュウシの耳には入っていない。
「相場が、負けただと? あの相場が?」
一か月前の、駅近くのショップでのバトルを思い出した。彼の実力は、この場にいる誰よりもリュウシが一番よく知っている。一回戦で負けるような人物ではないのだ。
しかし、そんな彼を軽く蹂躙したのが、皇枝垂。前年度のチャンピオンだ。
この大会に出場している以上、目指すは優勝だが、化け物じみた実力者も参加している。
(ここは一つ、あの枝垂とかいう人の戦術を見てみよう)
それが、敵を知る最も早い方法。
そしてその機会が訪れる。一回戦が終了し、三十分の休憩をはさんで二回戦が始まったのだが、最初に枝垂が呼ばれたのである。
「菖蒲! 一緒に見てみようぜ。前回の優勝者のプレイングを」
相場とは、会おうとはしなかった。既に敗退した相場はこの控室には入れないし、彼も無様な負け方をしたので、リュウシと会いたくないだろう。残されたリュウシと菖蒲にできることは、負けた相場の分まで奮闘することだけだ。
「さて……。枝垂のバトルが始まる……」
相場の時は、最後の方しか見ていなかった。だが今回は最初から最後まで見届けるつもりだ。
「あったよリュウシ! 去年の記事だけど、ホラ!」
菖蒲はスマートフォンで昨年の大会の情報を探しており、そして見つけ出すことができた。画面には、枝垂のことが少しだけ書いてある。
「去年、高二だったのか? じゃあオレらと同じ年齢の時に日本一になってるってわけか…」
境遇は、自分たちと同じである。一昨年の大会の出場記録はなし。去年現れた災害彗星とかなんとやら。
「……今年の受験勉強はどうなってるんだろうね…?」
「それは置いておいて。さ、枝垂のゲームが始まるぜ…!」
枝垂の対戦相手は、本村孝斗。一回戦を突破しているので、彼も結構な実力者であるに違いない。
「私から先に行かせてもらおう!」
孝斗は枝垂よりも速く動いた。
「私はコスト三の《龍聖軍アルファ・エリダヌス》を召喚する!」
彼のデッキは【龍聖軍】だ。光と炎のドラゴンで構成されており、リクルートとバーンに優れている。
「われのターン。もう一度、《エネルギーギフト》を使ってターンエンドじゃ」
初動は遅めの様子。しかしそれ=弱点とは限らない。軽いウィニーを並べる【ドラゴニュート】使いの相場が負けているからだ。
「私はスペルカード、《デストロイバース》を発動し、私の場にある《龍聖軍アルファ・エリダヌス》を破壊! 効果で一枚ドローする!」
それだけではない。《龍聖軍アルファ・エリダヌス》は破壊された場合、デッキから龍聖軍をサーチできる。ボードアドバンテージこそ失うが、スペルカードの効果でドローしさらにドラゴン効果で同時にサーチも行える、簡単で強力なコンボである。
「これでターンエンド」
「ほほう、では行くぞ?」
枝垂はエネルギープールにある五枚のカードを疲労させた。
「われは《災害竜ブリザード》を召喚。その効果! お互いのプレイヤーは手札全てデッキに戻し、シャッフルした後、戻した枚数分引き直す」
「何だと…?」
既にキーカードを手札に引き込んでいた孝斗にとって、これは痛手。逆に序盤に使えるカードが少なめだった…つまりはやや事故っていた枝垂にとっては、やり直せる良いチャンス。
「ではこれでターンは終わりじゃ」
重要なカードを失った孝斗は、
「だが! ここで引ければ…!」
と、希望を抱いてターンを始める。しかし実らない。
「くう! だがドラゴンは出せる! コスト五の《龍聖軍デルタ・コンパス》を場に! 効果で相手プレイヤーに、一点のダメージだ!」
だが、先に相手の体力を削ることはできた。
「今、ダメージを受けたこの時! 手札のトリガーカードを発動! 《フォーキャスト・ディザスター》!」
その効果で枝垂は、デッキから災害竜を一体選んで手札に加えた。
「気になるか? だが安心せい、コストが足りておらぬ…」
一瞬、孝斗がホッとする。が、
「使わぬとは言っておらんがな! コストを六支払い、《災害竜メテオフォール》を召喚!」
今、孝斗の場にはコスト五のドラゴン一体のみ。だが枝垂は、
「われは《災害竜メテオフォール》の効果! 攻撃する代わりに疲労状態にすることで、手札のドラゴンを一体、墓地に送る!」
捨てたのはコスト十の、《災害竜ボルケーノ・エラプション》。さっきトリガーカードでサーチしたドラゴンだ。
「そして、送ったドラゴンのコスト分のダメージを相手に与える!」
「チッ! ダメージを十倍にして返してきたか!」
孝斗の体力は残り二十点。危機感を覚えるにはまだ早いが、
「どうやらそのドラゴンには、早期に退場してもらうしかないな…!」
すぐに反撃を企む。まずはその準備として、枝垂のターン中にトリガーカードである《リベンジチャンス》を使う。
「そして私のターンだ! まずは私、コスト一のスペルカード、《アタックスルー》を発動!」
これは、次に召喚するドラゴンのコストを一下げ、そのドラゴンがこのターン中ブロックされなくなるカード。
「そして私は! 本来ならばコスト七! だが今は六で召喚できる! 《龍聖軍シグマ・カシオペア》を!」
そしてすぐさま、《災害竜メテオフォール》に攻撃。《災害竜ブリザード》でブロックは行えないので、それを破壊。コストの差、一点分の体力を削る。これで枝垂の体力は二十八点。
この瞬間、《龍聖軍シグマ・カシオペア》の効果が発動する。戦闘で破壊した相手のドラゴンのコスト以下の龍聖軍を一体、デッキから繰り出せる。
「この効果で私は、コスト六の《龍聖軍プサイ・ケフェウス》を出す! どうだ! ターンエン…」
「トリガーカード発動! 《プリベント・ディザスター》!」
「な、何?」
ここでトリガーカードが飛んできた。その効果で枝垂は、デッキから今破壊された《災害竜メテオフォール》以下、つまりは六コスト以下の災害竜を場にリクルートできる。
「われが選ぶのは、これじゃ! 《災害竜フォトンベルト》!」
「しまった!」
その効果は、孝斗も知っている。
「場に出た時、自身を疲労させることで…コスト六以下で光以外の災害竜を場に! これで呼び出すは…《災害竜ダウンバースト》! 今、そなたの方がエネルギープールカードが多いな? その差の分だけわれはエネルギーチャージを行える!」
枝垂はデッキの上から一枚をエネルギープールに置いた。そして彼女のターンのスタートステップでもエネルギーチャージをするので、これで八枚。
「ここはまあ、防御を固めておくとするか…。コスト八の《災害竜ランドスライド》を召喚する」
《災害竜ランドスライド》は、攻撃はできないが、疲労状態でもブロックできるドラゴン。今、枝垂の場には他に三体のドラゴンがいる。そのコストの合計は、十七。仮に総攻撃が全て通った場合、相手に致命傷を負わせるには十分な戦力だ。
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