カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 25

公開日時: 2020年9月7日(月) 14:00
文字数:1,833

 今新たに出されたドラゴンのコストは九。《チーロン・トライアル》はコストで負けている。こうなると攻撃は中止するしかないが、そうした場合このターン《チーロン・トライアル》には攻撃する権利がなくなる。そうすると、このターンに決着をつけられなくなってしまうのだ。

 しかもそれだけではない。《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》はエネルギープールのカードを墓地に送れば、相手のドラゴンの攻撃を無効にできる効果を持っている。今それは疲労状態ではないので、効果が生きているのだ。


「……攻撃はしないで、ターンエンド…」


 弱い方向に唯は動いた。流れが変わった。そして菖蒲の返しのターン。


(き、来たわ!)


 ここでキーカードを引き当てた菖蒲。どんな状況を築かれようと勝負を諦めない心に、デッキが答えてくれたのだ。


「コスト八! 《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》を召喚! その効果! 召喚時に自分のエネルギープールのカードの枚数が相手よりも多い場合、相手の場のドラゴンの効果は無効になる! 私のエネルギープールは十二枚。でもあなたは十枚!」

「………むぅ」


 これで、《チーロン・パニッシュメント》の効果をすり抜けることができる。


「でも、コストでは負けている。ブロックすれば私のドラゴンが勝つ…」

「残った五コストで、スペルカード、《消化液しょうかえき》を発動! このターン、私の森のドラゴンが相手のドラゴンとバトルする場合、バトルの結果に関わらずその相手のドラゴンをエネルギープールに送る! さらに相手は可能ならブロックしなければいけない!」


 そして菖蒲のアタックステップ。ドラゴンたちの狙いは唯だが、ブロックを強制している。普通なら自爆しかしないが、今は厄介なドラゴンたちをエネルギープールに送れる。


「まずは《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》で攻撃! 場にいる限りこのドラゴンのコストは、自分と相手のエネルギープールの枚数の差分アップする!」

「……………」


 唯は迷った。この攻撃を誰で止めるべきか。


「…《チーロン・イリーガル》でブロック…」


 コストで負けている唯のドラゴンは、《消化液》の効果で墓地ではなくエネルギープールに送られる。


「続いて、《ビオランドラゴラ・メントール》でも攻撃!」


 普通ならこんな攻撃は通しても問題ないが、今は強制的にブロックする。コストでは勝っていてもスペルカードの効果で、《チーロン・ジャッジメント》が場から消えた。

 さらに続く。《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》の攻撃。これも唯は《チーロン・トライアル》でブロックする。


「よし、ターンエンド!」


 このターン、唯は三体のドラゴンを失ってしまった。残されたのは、《チーロン・パニッシュメント》のみ。しかし菖蒲の場は健在、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》と《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》がいる。


「ドロー」


 引いたカードは、トリガーカードである《断罪だんざい》。次の自分のアタックステップをスキップする代わりに、場のチーロンの数まで相手のドラゴンを破壊できるカード。


「…来るのが遅かったか……」


 唯の手札には、展開できるカードはない。今なら《チーロン・パニッシュメント》で二体いるビオランドラゴラの内片方を倒せるが、疲労状態になってしまうと強力な抑制効果が失われてしまう。そうすると、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》の効果でエネルギープールのカードを墓地に送ってこちらの攻撃を無効化されてしまう。


(デッキの声が聞こえる…。それは励ましのエールじゃなくて、悲鳴…)


 唯の瞳から勝負の熱が消えた。そして、


「……負けたわ」

「ええ?」


 彼女は投了した。まだドラゴンも残っており、体力もあるのだが、降参したのだ。


「どうして?」


 菖蒲は聞いた。すると、


「もう私の意思が傾いちゃった。これじゃあもう勝てない。ドローも乱れて…。そうわかったの。だから負け」


 カード・オブ・ドラゴンにおいては、降参は認められている。図らずも菖蒲は勝利することになった。


「…」


 本当に今のは勝負があったのか。そう思った菖蒲はデッキトップをめくった。するとそれは、二枚目の《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》。


「それじゃあ、続けていても私の負けだわ」


 唯は潔く負けを認めた。


「あんたにも自分にも負けちゃった。残念だわ、ここまで来るのに苦労したのに。あんた、私の分まで頑張んなさいよ」



 二回戦、菖蒲は苦戦したが、勝つことができた。遠ざかっていく唯の後ろ姿を見ていて菖蒲は思う。


「次も頑張んないと! 唯の分も!」

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