今新たに出されたドラゴンのコストは九。《チーロン・トライアル》はコストで負けている。こうなると攻撃は中止するしかないが、そうした場合このターン《チーロン・トライアル》には攻撃する権利がなくなる。そうすると、このターンに決着をつけられなくなってしまうのだ。
しかもそれだけではない。《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》はエネルギープールのカードを墓地に送れば、相手のドラゴンの攻撃を無効にできる効果を持っている。今それは疲労状態ではないので、効果が生きているのだ。
「……攻撃はしないで、ターンエンド…」
弱い方向に唯は動いた。流れが変わった。そして菖蒲の返しのターン。
(き、来たわ!)
ここでキーカードを引き当てた菖蒲。どんな状況を築かれようと勝負を諦めない心に、デッキが答えてくれたのだ。
「コスト八! 《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》を召喚! その効果! 召喚時に自分のエネルギープールのカードの枚数が相手よりも多い場合、相手の場のドラゴンの効果は無効になる! 私のエネルギープールは十二枚。でもあなたは十枚!」
「………むぅ」
これで、《チーロン・パニッシュメント》の効果をすり抜けることができる。
「でも、コストでは負けている。ブロックすれば私のドラゴンが勝つ…」
「残った五コストで、スペルカード、《消化液》を発動! このターン、私の森のドラゴンが相手のドラゴンとバトルする場合、バトルの結果に関わらずその相手のドラゴンをエネルギープールに送る! さらに相手は可能ならブロックしなければいけない!」
そして菖蒲のアタックステップ。ドラゴンたちの狙いは唯だが、ブロックを強制している。普通なら自爆しかしないが、今は厄介なドラゴンたちをエネルギープールに送れる。
「まずは《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》で攻撃! 場にいる限りこのドラゴンのコストは、自分と相手のエネルギープールの枚数の差分アップする!」
「……………」
唯は迷った。この攻撃を誰で止めるべきか。
「…《チーロン・イリーガル》でブロック…」
コストで負けている唯のドラゴンは、《消化液》の効果で墓地ではなくエネルギープールに送られる。
「続いて、《ビオランドラゴラ・メントール》でも攻撃!」
普通ならこんな攻撃は通しても問題ないが、今は強制的にブロックする。コストでは勝っていてもスペルカードの効果で、《チーロン・ジャッジメント》が場から消えた。
さらに続く。《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》の攻撃。これも唯は《チーロン・トライアル》でブロックする。
「よし、ターンエンド!」
このターン、唯は三体のドラゴンを失ってしまった。残されたのは、《チーロン・パニッシュメント》のみ。しかし菖蒲の場は健在、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》と《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》がいる。
「ドロー」
引いたカードは、トリガーカードである《断罪》。次の自分のアタックステップをスキップする代わりに、場のチーロンの数まで相手のドラゴンを破壊できるカード。
「…来るのが遅かったか……」
唯の手札には、展開できるカードはない。今なら《チーロン・パニッシュメント》で二体いるビオランドラゴラの内片方を倒せるが、疲労状態になってしまうと強力な抑制効果が失われてしまう。そうすると、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》の効果でエネルギープールのカードを墓地に送ってこちらの攻撃を無効化されてしまう。
(デッキの声が聞こえる…。それは励ましのエールじゃなくて、悲鳴…)
唯の瞳から勝負の熱が消えた。そして、
「……負けたわ」
「ええ?」
彼女は投了した。まだドラゴンも残っており、体力もあるのだが、降参したのだ。
「どうして?」
菖蒲は聞いた。すると、
「もう私の意思が傾いちゃった。これじゃあもう勝てない。ドローも乱れて…。そうわかったの。だから負け」
カード・オブ・ドラゴンにおいては、降参は認められている。図らずも菖蒲は勝利することになった。
「…」
本当に今のは勝負があったのか。そう思った菖蒲はデッキトップをめくった。するとそれは、二枚目の《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》。
「それじゃあ、続けていても私の負けだわ」
唯は潔く負けを認めた。
「あんたにも自分にも負けちゃった。残念だわ、ここまで来るのに苦労したのに。あんた、私の分まで頑張んなさいよ」
二回戦、菖蒲は苦戦したが、勝つことができた。遠ざかっていく唯の後ろ姿を見ていて菖蒲は思う。
「次も頑張んないと! 唯の分も!」
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