だが、
「俺は《サラマンフリート・インフェルノ》の効果発動! 場のサラマンフリートを任意の数破壊し、破壊したドラゴンの元々のコストだけ、自身のコストを上昇させる!」
「何だと!」
輝明は《サラマンフリート・ムスプルヘイム》と《サラマンフリート・ブリムストーン》以外のドラゴンを全て破壊するつもりだ。この破壊は発動コストではないので、リュウシの《リヴァイムート・バミューダΔ》がまず無効にするかどうかを決める。だが、残る手札は攻撃反応型のトリガーカード、《グレイシャームーン》。これを捨てるわけにはいかない。
「……通す。それは無効にしない。好きな数破壊しろ…」
破壊したのは四体。よって《サラマンフリート・インフェルノ》はコストを二十一上昇させた。
「《サラマンフリート・スパークス》が残っている?」
それに疑問を感じるリュウシ。
「《サラマンフリート・インフェルノ》のもう一つの効果! 自身以外の炎のドラゴンを破壊して、相手の手札を一枚墓地に送る!」
「ば、馬鹿な!」
ここに来ての、ハンデス効果。
「どうしたリュウシ? 残る手札は一枚で、それを捨てさせられるかどうか……。効果が通っても、《リヴァイムート・バミューダΔ》で無効にしても変わりはないだろう?」
その時、リュウシの指の力が緩み、手札がテーブルに落ちた。
「……《グレイシャームーン》だったのか…。だがもう関係ないな。《サラマンフリート・ムスプルヘイム》は墓地にサラマンフリートが七体いるから、コストは十七。《サラマンフリート・ブリムストーン》もさっき効果を使ったから、コストは十七。俺の場には攻撃できるドラゴンが三体いて、お前の場にはブロックできるドラゴンは二体だけ。攻撃は遮れない。だが! お前の残り体力は十七点。どのサラマンフリートの攻撃が直撃しても、アウトだろ……?」
その言葉が意味すること。それは、リュウシの敗北である。
「お、オレが……。負け、た……」
勝負はついた。
「そこまで! 勝者、小前田輝明選手! 祭田リュウシ選手の妨害効果をかいくぐり、勝利をもぎ取ったあああああ!」
司会は唸る。会場も熱く盛り上がっている。しかしリュウシの耳には、届いていない。
(オレの負けだが、輝明に負けたんじゃない……。プレミだ! 《リヴァイムート・バミューダΔ》の効果で十一枚も手札を捨てなければ、まだ勝負はわからなかったはずだ! でも、その効果が切り札になると思ったのは、オレ自身……。だからオレは、自分自身に負けたんだ…)
非常に悔しい負け方だ。
「そうガッカリするなよ、リュウシ!」
輝明はそんなリュウシに声をかける。
「お前のリヴァイムート…マジで焦ったぜ。縁があればまた、バトルしような?」
落ち込んでいるリュウシは暗いが、勝った輝明は明るい。普通なら癇に障るような口ぶりだが、リュウシもドラゴンテイマー。勝ち負けは避けられないと理解している身。ここは、
「わかってるぜ。でも次はオレが勝つからな!」
そう返すのが常識。そして、
「ああ! その時が今から楽しみだ!」
輝明も決まり文句で返す。
「次は決勝だろ? 枝垂との戦いだ。お前、オレの分まで頑張れよ!」
リュウシの、優勝という目標、そして打倒枝垂という夢は、輝明に託された。
「任せろ! 俺が勝ってみせる!」
輝明の心は、いつだって熱い。その燃え盛る魂をリュウシの水は、消せなかった。
会場を後にする時、リュウシは呟いた。
「オレは、ここまでか……」
そう改めて思うと、悔しさで涙が出そうになる。だが、堪えた。ここで泣いても誰も責めないが、格好悪い。それに自分だけが悔しさを晴らすのは、少なくとも自分と共に頑張ったデッキに失礼だ。勝負の負けは勝負で返す。それが自分のカードに対する愛情であり、カードゲームをする者のマナーでもあるのだ。
結局、準決勝でリュウシも菖蒲も姿を消すことに。二人のテイマーズカーニバルはここにピリオドを打った。
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