菖蒲が勝利した光景を、リュウシは控室のモニターで見ていた。絢音の強さも驚異的だったが、それを退けることができた菖蒲もすごかった。
「ハラハラしたぜ! どっちが勝ってもおかしくないバトルだったが……ここは喜んでおくか」
リュウシは菖蒲に、勝ち越せてはいる。だが今の実力の菖蒲と戦ったら、勝利は保証できないと悟る。
「…君が、祭田リュウシ君か?」
そんな彼に声をかけて来る少年が一人。
「すまない、誰だ?」
輝明と枝垂しかマークしていなかったリュウシにとっては、相手は知らぬ人。
「私は黒外才林という。まだ三回戦を戦っていないドラゴンテイマーは、ここには君と私しか残っていない。つまりは……そういうこと。お互いに健闘を祈ろうではないか!」
「いいぜ! でも勝つのはオレだ!」
この時、才林は必要以上に喋らなかった。だからリュウシは相手がどんな人物なのかを全く知らない。その状態で係員に呼ばれ、二人は一緒に試合会場に行く。
「続いて、三回戦最終試合! 黒外才林選手対、祭田リュウシ選手!」
司会は決まり文句を叫ぶ。だがその時、
「才林選手は、前年度の準優勝者であります! 去年の決勝戦、皇枝垂選手との最後の試合! 強烈な内容でした! 唯一あそこまで枝垂選手を追い込めたドラゴンテイマーではないでしょうか? その彼がリベンジを掲げ、この舞台に舞い戻ったあああ!」
「な、何?」
ここで、相手がどんな人物か気づいた。
前年度準優勝者。その肩書きが何を意味するかは、想像に難くない。
(と、言うことは……。相当な実力者…。それも枝垂と並ぶレベルの!)
控室でそのことを才林が言わなかったのは、余計な動揺を与えないためだ。彼はリュウシが、枝垂の試合を見て動揺していたことを知っている。だからさっきは黙っていたのだ。
「……司会者め、余計なことを……。リュウシ君、気にするな。君は自分のプレイに集中してくれ」
「あ、ああ…」
言われなくてもそのつもりだ。
(寧ろ、ちょうどいいぜ! 枝垂と戦ったことのある相手なら、そのレベルは高いはず! このバトル、経験値が膨大だ!)
前向きにとらえることすらできた。
「では! 早速試合を始めてください!」
この才林という男、実は枝垂のライバルを自称している。年齢が彼女と同じだからライバル意識もより一層芽生えるのだろう。そしてそう言うだけあって、実力は確かなものだ。
「オレは《リヴァイムート・キャンサー》を召喚!」
効果でリュウシがドローすると、
「その時! 私は手札の《節足竜目フリー・ドラゴネット》を場に出す」
相手の効果ドローに反応し、コストを踏み倒せるドラゴンである。コストは五と高いものの、自身の効果で場に出た場合は攻撃できないというデメリットがついている。
(ボードアドバンテージで差を付けようにも、先にコストの高いドラゴンを出された…!)
そして返しの才林のターン。
「《デストロイバース》を発動する。選ぶのは私の、《節足竜目フリー・ドラゴネット》だ」
効果によってそのドラゴンは破壊、才林は一枚ドローした。
「今、私のドラゴンがカード効果で破壊された……。よって、《節足竜目アントリオン・コカトリス》を出せる」
「もうコスト六のドラゴンが?」
それだけではない。《節足竜目アントリオン・コカトリス》は墓地の節足竜目をエネルギープールに置ける。《節足竜目フリー・ドラゴネット》がいるのでそれを移動。
「バトルだ。私は《節足竜目アントリオン・コカトリス》で直接攻撃を行う!」
「ブロックだ、《リヴァイムート・キャンサー》!」
リュウシは体力の方が大事と判断し、ドラゴンで攻撃を防いだ。
「オレのターン!」
このターンでエネルギープールはやっと四枚。
(まあいい! 序盤は攻撃を凌げるドラゴンを出して壁にするか…。いや、待てよ…)
コスト四の《リヴァイムート・パイシーズ》を出してターンエンド。一見すると後手後手の対応だが、実はそうではない。この時、リュウシはスタートステップのドローでトリガーカードを引いていた。
(もしもまた攻撃してくるなら! 《インジャーストラグル》を使ってドローとエネルギーチャージだな)
手札とエネルギープールは、多いことに越したことはない。それゆえの発想。だが、
「私のターン。コストを六支払って、《節足竜目ソースタッグ・バハムート》を召喚。これでターンエンドだ」
才林は攻撃を行わない。
「………」
もし攻撃されていれば、リュウシはそれを通してトリガーカードを使用、次のターンにはエネルギープールが六枚になるので《リヴァイムート・レムリア》を出せた。
(何で攻めない? 才林の場にはコスト六のドラゴンが二体。対してオレの場は、コスト五が一体だけ。片方の攻撃が確実に通る盤面なのに、攻撃しないだと?)
考えられる理由は、一つだけ。それは攻撃反応型トリガーカードの警戒である。これが、才林が猛者たる所以。
人間の表情は実に豊か。故に入って来る情報に対し、表情が緩んだり硬くなったりする。それを才林は見逃さなかったのだ。
「リュウシ君! 君は今、攻撃が来れば、って顔をした! やはり持っているんだろう? 攻撃に対して使えるトリガーカードを!」
「な、何だと!」
驚いて声を出してしまった。これでは答え合わせをしているようなもの。
「私は、ターン終了を宣言した。さあ君のターンを始めるのだ……」
「…オレのターン…」
エネルギープールは五枚。
「スペルカード、《オーシャンララバイ》を発動だ。その効果でまず手札を比べる。少ない方が一枚ドローする。その後、場のドラゴンの数、エネルギープールの枚数も比べて、少ない方がドローできる」
手札が多いのはリュウシの方なので、最初の効果では才林がドロー。しかし場、エネルギープールはリュウシの方が少ないので二枚ドローできる。
「よし! カードの効果でドローされた《リヴァイムート・ネプチューン》は場に出せる。オレはこれでターンエンドだ」
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