カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 68

公開日時: 2020年9月16日(水) 16:00
文字数:2,506

「私の、負け、か……」


 投了とも思える発言。

 だが、


「何を言っているんだ、井筒! お前の体力はまだ八点も残っているじゃないか! なのに何で、諦める?」

「君にだってわかるだろう? 切り札を失った私には、これ以上戦う力など残されていない……」

「もしオレがこのゲームの創造者だったら、違うセリフを吐くぜ? まだカードはある、負けが決まったわけじゃない、ってな」


 これは挑発ではない。リュウシは井筒に、ゲームを続けてもらいたいのだ。そしてゲームだけでなく、カード・オブ・ドラゴンも。そのためにあえて言う。


「井筒! まだカードも体力も残っているんだ……。最後まで諦めるな! それがお前が望む、プレイヤーのあるべき姿だろう! お前が真っ先に降りてどうするんだ!」

「………」


 井筒は無言。しかし心の中では葛藤が渦巻く。彼はカード・オブ・ドラゴンを終わらせるつもり……自分の作ったゲームに面白さを見い出せなくなったからだ。だが目の前にいるリュウシは、絶望的な状況にも関わらず、勝負を捨てなかった。


「……………勝ちたい」


 そう漏らした。


「だったらどうすればいいのか、カードを握っているお前にならわかるはずだぜ?」


 答えは簡単だ。ゲームを続ける以外にはない。


「……もう、カード・オブ・ドラゴンの終焉などどうでもいい。私は君に勝ちたい! 今、私の心の中にある感情はそれだけだ!」

「じゃあ、続けようぜ? このゲームも、カード・オブ・ドラゴンも!」


 リュウシのその一言で、井筒の瞳に炎が戻る。だがそれは今までの悲しみに満ち溢れた火ではない。勝負の熱、勝つことへの執念……。冷めきっていた彼の中の魂に、灯がついたのだ。


「まだ君のアタックステップだ。私がダメージを受けた場合、《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》を場に出せる」


 今、リュウシの場には疲労状態のドラゴンしかいない。その攻撃が通れば、井筒の勝利。


「そして君のターンが終わる前に、《間引き》を発動させてもらおう!」


 使用者…つまりは井筒の手札の枚数と同じになるように、リュウシにハンデスを撃ち込む。リュウシの手札は十二枚なので、八枚を選んで捨てる。


「……ターンエンドだ」

「私のターン!」


 創造者としてではなく、一人のプレイヤーとして井筒は今、初めて自分のデッキと会話をする。


「まずは《デストロイバース》を発動! 君の《リヴァイムート・ニヴルヘイム》を破壊し、一枚ドローさせる」


 さらに井筒、コスト九のドラゴンを場に出す。


「来い! 《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》!」


 今のリュウシの手札には、発動ターンのみ水のドラゴンのコストを四上げられるトリガーカードの《水酸化すいさんか》がある。だが《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》の登場により、《リヴァイムート・ニライカナイ》が攻撃先に選ばれても使うことができなくなった。


「バトルだ。《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》で君に直接攻撃!」

「トリガーカード、《グレイシャームーン》発動!」


 井筒のドラゴンを全て疲労状態へ。だが発動時にリュウシの場にドラゴンがいるので、次の井筒のスタートステップで回復が可能。


「オレのターン!」


 残り体力一点のリュウシがここから勝つには、《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》の効果を発動させないで井筒の体力を削り切るしかない。


(だが、今オレの手札には、コスト八以上のドラゴンはない。《リヴァイムート・ニライカナイ》のドロー効果に頼ろうにも、まずコストが足りないし、スペルカードでコストを上げても井筒が一点のダメージを受けようものなら、《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》の効果でオレの負け…)


 しかし、怯えていては勝利は掴めない。ここは強く行くしかないのだ。


「オレは《リヴァイムート・パイシーズ》を召喚し、ターンを終了するぜ」

「私のターンだ! ドローしてエネルギーチャージ! さらにスペルカード、《ブラック・レイン》を発動!」


 直接攻撃ができなくなる代わりに、疲労状態ではない相手のドラゴンに攻撃可能になり、与えるダメージも倍化するカード。


「そして! 《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》で君の《リヴァイムート・ニライカナイ》へ攻撃!」


 この攻撃が通れば、リュウシの体力はゼロになる。


「そうはさせない! トリガーカード、《スクリュースプラッシュ》発動! 《リヴァイムート・ニライカナイ》を墓地に送り、別のドラゴンを場に出してバトルを続行させる! オレが呼び出すのは……《リヴァイムート・アトランティス》!」


 これで相打ち。ダメージは生じない。


「だが、私の《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》の攻撃がまだ残っている!」

「そうかな? オレはもう一枚のトリガーカードを発動させている! 《メガスターフュージョン》! 今のバトルが終わった時、お前のアタックステップも終わる!」

「凌がれたか! ターンエンド!」

「ドロー!」


 今のドローで残りデッキの枚数が二桁を切ったリュウシは、エネルギーチャージを行わない。


「それでも十分! 良いカードを引いたぜ!」


 召喚するのは、《リヴァイムート・サルガッソー》。ここに来てコスト十のドラゴンである。それに加え、今リュウシの場にはリヴァイムートが一体いるのでコストも一上がる。


「ブロックされても、疲労状態から一度だけ回復できる! 行け!」

「私は《退化》を使う!」


 これで《リヴァイムート・サルガッソー》のコストは三下がり、八に。そしてコストで上回っている《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》がその攻撃をブロックした。


「だが《リヴァイムート・パイシーズ》の効果! オレのリヴァイムートが疲労状態になったから一枚ドローだ」


 これでターンエンド。そしてターンは井筒に移る。


「私は……」

「先にトリガーカード発動! 《デススキップ》!」


 よってこのターン、井筒はアタックステップを行えない。


「……ならば、スペルカードを使うまで! 《フラッシュ・バーン》! 私の場のヌークリアを一体選んで破壊し、コスト分のダメージを君に与える!」


 効果ダメージでトドメを刺しに来た。が、


「トリガーカード発動! 《ウォーターシールド》! このターンオレはカード効果でダメージを受けない!」

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