枝垂は察する。そしてその予想が的中したかのように、
「私はコスト十の、ドラゴンを召喚! 我が意志に従う勝利に飢えし眷属の龍よ、立ちふさがる全てを貪り尽くせ! 《女帝眷龍スターヴグロブリン》!」
紅葉は切り札を場に出した。
「勝ったわ、これで!」
自信満々の紅葉。それは効果に隠されている。まず、《女帝眷龍スターヴグロブリン》は光の女帝眷龍共通効果を搭載している。それに加えて固有効果もあるのだが、今までの三体とは明確に違う点が。それは、デメリット効果を持たないことだ。
「効果発動! 私のデッキから女帝眷龍を墓地に送って、それが持つ効果を適用できる! 私が墓地に送るのは《女帝眷龍アズールキャノン》!」
デッキを裏返した時、それがすぐに目に飛び込んできたので、そのまま墓地に送る。
「そして、効果を適用! この時、発動条件やコストは一切無視できる!」
「な、何?」
ここで初めて枝垂が驚いた。
(《女帝眷龍アズールキャノン》は、自身を疲労状態にしなければ確か効果を発動できない…。それを無視するということか!)
そして、その効果が発動。枝垂の場の疲労状態のドラゴンを一体選んで破壊する。その後、今破壊したドラゴン以下のコストの相手の場のドラゴンも全て破壊。しかし今、彼女の場には《災害竜アース・クエイク》一体のみなので、後半の破壊は不発である。
「……!」
あっさりと盤面をひっくり返された。
「終わりだ、枝垂! 私は《女帝眷龍スターヴグロブリン》で、直接攻撃!」
この攻撃が通れば、枝垂は敗北。
「だが、その時! われは手札の《災害竜ゲリラレイン》の効果発動! このドラゴンをコストを支払わずに場に出し、その攻撃をブロックする!」
間一髪、それを防いだ枝垂。
「く、まあいいわ…。私はこれでターンエンド」
《女帝眷龍スターヴグロブリン》をデッキには戻さない。同名のドラゴンはリクルートできず、《女帝眷龍スターヴグロブリン》以外の女帝眷龍はコストが低い。そのため、枝垂にコストが大きいドラゴンを出されると戦闘で負けるからだ。残り体力一点の紅葉にとって、それは一番避けたいこと。
「われのターン」
枝垂の表情は硬い。でもそれは、良いカードを引けなかったからではなく、ここまでのバトルを振り返って感動しているのだ。
「そなたの技量は、このわれが認めようぞ。【女帝眷龍】を使いこなしてここまでわれを追い詰めるとは、言葉以上の実力の持ち主! 女帝を語るに相応しい器! もし去年のわれだったら、負けていた……間違いなくな」
対戦相手に対する、礼儀のこもった声が会場に響く。
「枝垂ぇえええええ!」
「だが! われも勝利は譲れぬ! 召喚、《災害竜ライトニング・ストライク》!」
その効果で、デッキから災害竜を呼び出す。リクルートするのはもちろん、《災害竜ボルケーノ・エラプション》だ。残り体力一点の紅葉にはこれで十分な引導火力になる。
「私は、トリガーカードの《リベンジチャンス》を発動! これで一点の体力を得る!」
バーンからの即死は免れたものの、枝垂にはアタックステップが残っている。
「終わりじゃ、《災害竜ライトニング・ストライク》で直接攻撃。瞬きのジャッジメント・ボルト…」
それを受けた紅葉は、その場に崩れた。
「き、決まったようです! 勝者、皇枝垂選手! しかし、御門紅葉選手もよく頑張った! 二転三転する熱い熱い試合でした!」
司会のこの発言を皮切りに、観客も二人にエールを送った。
「負けた…かぁ。はあ、悔しくて仕方ないわ……。絶対に勝てると思ってたのに」
「気を落とすでないぞ、紅葉! そなたの実力はわれがこの身をもって理解した! そなたのようなドラゴンテイマー……二度と忘れはしない!」
枝垂は嬉しそうな表情。しかしそれは勝利の余韻がもたらしているのではない。強いプレイヤーと戦えたことに満足しているのだ。
「来年! もう一回この場に来るわ。その時は私が勝つ。枝垂! それまで負けんじゃないわよ!」
紅葉はそう言い、会場を後にした。
この戦いで、枝垂は自分の強さを証明した。それは、デッキを信じる思いの強さである。いくらカードパワーの高いカードをデッキに入れても、自分のデッキを信じられなければ無意味。
「御門紅葉……。そなたの思いも強かった。だがな、われと災害竜の絆も強いのじゃ」
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