さらに酷い場合、負けた原因がデッキにあると言い出す人物も。自分が組んだデッキを信じられないのか、と井筒は言い出しそうになったらしい。
「そういう人たちが得意気になって、カード・オブ・ドラゴンを語るんだ。聞き捨てられるか? そんな戯言を!」
「でも、それはそういう特殊な人の楽しみ方であって……」
「君は何もわかっていないな、リュウシ! 今はまだ、この大会も楽しむことを目的としている。だからそういう輩の出場は認めていないが、いつかはそういう空気になる日が来る。それは早ければ来年かもしれないのだよ? そしてそういう人物が優勝でもしてみろ? それは、カード・オブ・ドラゴンの遊び方がそれで正しいということの証明になってしまう。そんな未来を見たくないのだ、私は」
他にも井筒の中にある煙は多い。確かに勝負事なので、誰もが楽しめる完璧なカードゲームになることはできない。だが、井筒はそれでも勝者は勝利に胸を張り、敗者も最後まで頑張れるようなゲームにしたかった。そんな理想をぶち壊すのが、性能や己の勝利しか見ていない、勝負をすぐに諦めるプレイヤーたち。
そしてそれを見て、惨めな気持ちに沈む井筒。負の悪循環である。
「断ち切るためには、今! 終わらせるしかないのだ。今ならまだ、間に合う! だから君たちのように真に楽しんでいる人たちには悪いのだが…」
話の途中で、リュウシは遮って、
「見捨てるのか? オレたちのような人のことを! ドラゴンテイマーを! 自分の思い描いた理想像とかけ離れるからって、自分で殺すのかよ!」
「悪いことであるとは思っている。だが、仕方がないことなのだ。人々は強いカードしか求めていないし、自分の勝利しか見ていない。おまけに負けをカードパワーのせいにし、自分のプレイングの甘さを全く疑わない。そんな腐った連中が、私の生み出したカードゲームで他人にマウントを取るのだ、それは許せん……」
その時、リュウシはカバンの中からあるものを取り出した。それは、自分のデッキである。
「井筒! お前も創造者なんだから、デッキぐらいは持っているんだろう?」
「何を言い出す?」
「バトルだ。オレが勝ったら、撤回してもらおうか! カード・オブ・ドラゴンの終焉の予定を!」
リュウシは勝負に出た。井筒には井筒なりの言い分もあるし、それを全部否定するのは間違っている。だから話し合っても平行線だろう。ならばカードゲームの問題は、カードゲームで解決する。
「……いいだろう。君が私に勝てると言うなら、勝ってみせろ! カード・オブ・ドラゴンの未来を変えてみせろ! 君の手で!」
リュウシと菖蒲は話し合った。
「こっちは二人いるんだよ。だからまず私が先に、井筒さんとバトルする。もし負けたら、リュウシが代わって」
彼女からすれば、自分よりも強いはずのリュウシに万が一のことを託すのは当たり前。
「……わかった。だが、肝心の井筒が何を言い出すか、が問題だ。アイツからすれば、お前の後にオレが控えてるんだ、二連勝しないといけないわけだぜ? オレらは二人で一度でいいから勝てばいいとなると、不公平……」
「別に構わないさ。順番に戦おうじゃないか? その方がカードも喜ぶだろう。最初に菖蒲君が私と戦い、勝てればそれでいい。負けてリュウシ君に託すのもありだ。君たちの自由にしたまえ」
異議はなし。まず菖蒲が井筒と向き合い、勝負を始める。井筒はケースに入れていたデッキを取り出した。
「先に言っておくが、私は本気でこの、カード・オブ・ドラゴンを終わらせる気でいる。最後に最強のドラゴンを登場させてから、な」
「と言うことは……?」
井筒が使うのは、最強のドラゴンデッキであるということ。ゴクリと二人は唾を飲んだ。
「では、始めようか………未来を決める戦いを。君たちが希望を掴むと言うのなら、私は容赦なくその芽を摘もう」
自信満々の井筒。リュウシは心配になって、
「大丈夫か、菖蒲!」
「平気だよ、平気! 私に任せて。リュウシの出番はないかも、だね」
決勝戦の舞台裏。応援もいなければ認知されることもない場所。この地味な控室で、カード・オブ・ドラゴンの歩む道が決まる戦いが行われる。
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