カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 56

公開日時: 2020年9月14日(月) 15:00
文字数:2,524

 が、


「……その攻撃宣言時、私は手札のドラゴンの効果を使う」


 そう言って井筒が出したのは、コスト九の《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》。


「どうして?」

「相手のドラゴンの攻撃時、コストを支払わずに場に出せるのさ。しかもこのドラゴンは疲労状態でもブロックが行える…」


 ただ、デメリットとして攻撃宣言はできない。故にブロック専門のドラゴン。


「攻撃はしないで、ターンエンド…」


 これに突っ込んでも、無駄にドラゴンを失うのみ。ここは引くしかない。


「では、私のターンだな? スタートステップで二枚ドローする」


 井筒のエネルギープールは六枚だが、《ヌークリア・エネルギー・ドラゴン》の効果で実質コスト八まで出すことが可能。


「コストを軽減し、召喚! コスト七の《ヌークリア・リアクター・ドラゴン》…!」


 さらに井筒は、残った一コストでスペルカードである《リ・サイクル》を使う。これによって、お互いのプレイヤーは墓地にあるカードを一枚、エネルギープールに置く。

 状況は、井筒の場にドラゴンは四体、対する菖蒲は三体。悪くはないが、井筒の二体のドラゴンは攻撃ができない。残る二体もシステムクリーチャーであるために、攻めるのは悪手。


「ここは、まあ、ターンエンドだろう」


(何とかして井筒さんよりもリードしないと!)


 本来ならば井筒は、《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》のデメリットでエネルギープールのカードを増やせないはずである。だが、他のカードの効果を使うことで、それを可能にしている。それが菖蒲の心に焦りを生ませた。


 こういう時、ドローは乱れる。だが菖蒲はここで引いて来る。


「コスト八! 《ビオランドラゴラ・ビサボレン》!」


 コストを見ると、《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》に負けている。だが実は菖蒲のエネルギープールには、既に《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》が落ちている。


(これで次のターンにエネルギープールから召喚すれば、あのヌークリアを除去できる! 安全になったところで攻めれば…!)


 このターンは、戦力を温存。


「私のターン」


 このターンも井筒は《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》の効果で二枚ドローする。


「私はコスト四の、《スピリット・ギフト》を発動。このターン攻撃できない代わりに、自分の場のドラゴンの数だけ、エネルギーチャージを行う」


 場には四体。よって一挙に四枚ものカードがエネルギープールに送られた。《スピリット・ギフト》のコストも四なので、実質タダで使えたのと同じこと。エネルギープールには、未使用のカードが七枚。


「そろそろ、邪魔なドラゴンには退場してもらおうか…。コスト七、《デーモン・コア》発動…!」


 まずその効果で、井筒は、自分の《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》を、菖蒲の場の《ビオランドラゴラ・ビサボレン》を選んだ。


「私が選んだ二体のドラゴンのコストを比べ、低い方は破壊される!」

「そ、そんな……効果が…!」


 だがデメリットとして、このターンはアタックステップを行えない。だが元々井筒は、《スピリット・ギフト》の制約で攻撃できないために、この欠点は意味を成していない。


「破壊される前に、トリガーカード発動! 《分解ぶんかい活動かつどう》! このターンにドラゴンが破壊される場合、墓地へは行かずエネルギープールに送られる!」

「ほう、上手いなあ…。破壊を逆手に取るとは…」


《ビオランドラゴラ・ビサボレン》はエネルギープールへ。


「だがな、《デーモン・コア》の効果は、私の場のヌークリアの数まで同じ処理を繰り返す! 一度選んだドラゴンを再度選択することは不可能だが、この処理あと、三回…」

「そ、それじゃあ……?」


 菖蒲の場、全滅。それは避けられないが、


「では、次に選ぶのは…《ヌークリア・エネルギー・ドラゴン》と《ビオランドラゴラ・フェランドラル》だ」

「待って、それじゃああなたのドラゴンが破壊されるんじゃ…?」

「君が発動したのだぞ、《分解活動》をな。それは自分相手の場を問わずに効果が適用される。私の《ヌークリア・エネルギー・ドラゴン》は破壊されるが、エネルギープールに行く」


 井筒のプレイングは、菖蒲の上を行った。使われたトリガーカードをさらに逆手に取ったのだ。エネルギープールはもう十分貯まったので、コスト軽減効果を持つ《ヌークリア・エネルギー・ドラゴン》はいらないと判断した結果である。

 そして次は、《ヌークリア・リアクター・ドラゴン》と《ビオランドラゴラ・スクアレン》、最後に《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》と《ビオランドラゴラ・メントール》をそれぞれ選択。コストは菖蒲のドラゴンが負けているので、二体のドラゴンがエネルギープールに消えた。


「再三言うが、私は攻撃を行えないのでね。これでターン終了だよ」

「私の、ターン…!」


 場のドラゴンこそ減ったが、エネルギープールのカードは増え、このスタートステップで十二枚。


「手札からスペルカード発動! 《緑化りょっか》! その効果で私はエネルギープールから、ドラゴンを一体選んで場に出す!」

「む…?」


 井筒は《ビオランドラゴラ・ビサボレン》を除去した時、エネルギープールからのドラゴンの展開はないと思っていた。だが、《緑化》の存在を忘れていた。


「もちろん場に出すのは……コスト十、《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》!」


 場に出た時の効果で選ぶのは、《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》。井筒はそれをエネルギープールに置いた。


「これで邪魔者はいなくなった! バトル!」


 ここは攻める時。まずは《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》で攻撃。これを井筒は《ヌークリア・リアクター・ドラゴン》でブロック。続く《ビオランドラゴラ・フェランドラル》の攻撃は、通す。


「くう? 結構削られてしまったな……」


 六点のダメージが入り、井筒の残り体力は二十三点。


「やったあ!」


 菖蒲は小さくガッツポーズをした。攻撃が通ったから、ダメージを与えられたからではない。この時井筒がトリガーカードを使わなかったからである。


(今、井筒さんの手札は二枚。それらはトリガーカードじゃない可能雄性が高い!)


 もちろん、いざという時のために温存している可能性も低くはない。だが、菖蒲の心境に余裕が生まれる。

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