カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

第十五話 トーナメントの頂

CARD 59

公開日時: 2020年9月15日(火) 12:00
文字数:2,227

 リュウシと井筒の戦いが繰り広げられているのは、裏舞台。この会場の表では、決勝戦が始まろうとしていた。


「まずは選手の紹介です!」


 言われるまでもないのだが。改めて司会は解説を入れる。


「昨年度、突如現れ圧倒的な実力でこの大会を制した最強のドラゴンテイマー、皇枝垂選手! 使用デッキは、数々のカードが規制されているにも関わらずブレない強さを誇る【災害竜】であります! またしても優勝をもぎ取っていくのでしょうかああ!」


 その強さは、折り紙付き。現にここまで、誰も止められなかったのだから。果たしてことしも彼女が優勝してしまうのだろうか?


「続きましては、【サラマンフリート】使いの小前田輝明選手! 彼は今年が初出場であります! この決勝に残った数少ない新鋭! トーナメント最終戦では、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!」


 しかし、枝垂には最後の壁が立ちふさがる。それは赤々と燃える、炎の壁……輝明。

 両者向き合うと、まずは会釈。そして握手を交わす。


「…………」


 輝明は緊張している。無理もない。自分が決勝まで上がれるとは当初、思っていなかった。この状況は予想外なのだ。観客席の熱気が、彼の心臓の鼓動を早くさせる。


「緊張する必要はないぞ?」


 そんな輝明に枝垂は優しく声をかける。


「他人が何を言おうと、何を望もうと関係ない。そなたはそなたのプレイに集中するべき。それが相手であるわれへの礼儀でもあるし、ここですべきことでもある。そしてそれは何であれ、観客は絶対に受け入れてくれよう」


 ここまで来て、誰かのためにカードを切る必要はない。寧ろそれは無礼。結局のところ、勝負は自分と相手の間の出来事。そこに他の誰かが介入すること、誰かのためと思うことが間違っているのだ。


「わかった。じゃあ、始めようぜ? 今日、最後の戦いを!」

「うむ! 良かろう……われも手は抜かん。そなたも全力で来るのじゃ」


 デッキのシャッフルが終わると、先攻後攻を決める。ジャンケンは輝明が勝利。


「先攻をもらう!」


 初手五枚を先に輝明が、その後枝垂が確認し、勝負開始。


「では二〇一一年度チャンピオンを決める戦い! みなさん………決勝戦が始まりまあああああす!」



 輝明が先攻を選んだのには、わけがある。


(【災害竜】相手に長期戦は厳しい。エネルギープールが肥えれば肥えるほど、より強力なドラゴンが出されてしまうからだ…。ここは短期決戦に持ち込む!)


《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンド。対する枝垂も一ターン目は、同じカードを使う。


「俺のターン!」


 これでエネルギープールは三枚。上手い具合に輝明の手札には、コスト三の《サラマンフリート・ファイア》がある。これを召喚し、ターンを終了。


「われのターンじゃな?」


 一方の枝垂は、まだ動かない。コスト二のスペルカード、《エネルギー・シェア》を発動。お互いにエネルギーチャージをするカードである。これでターンは終了。


「俺はコスト五の、《サラマンフリート・プロミネンス》を召喚する! そして、バトル! 《サラマンフリート・ファイア》で直接攻撃だ!」


 速攻戦術の良いところは、相手が展開する前に勝負を決められる点。相手のデッキが、コストの重いカードばかりで構成されている場合、一方的な展開を序盤にできるのだ。

 しかし、そんなデッキの欠点を枝垂が放っておくわけもない。


「そなたのドラゴンの攻撃宣言時、《災害竜ゲリラレイン》を場に出し、それをブロック!」

「しまったか……!」


 その点は既に対策済みなのだ。いきなりコスト八のドラゴンを場に呼び出した枝垂。この効果で出した《災害竜ゲリラレイン》には、攻撃できないというデメリットが付く。しかし相手に睨みを効かせるのには、十分。


「われのターン、ドロー! そしてエネルギーチャージ!」


 枝垂もエネルギープールは五枚。


「《災害竜ウルトラプリニー》を召喚して、ターンエンドじゃ!」


 それは、相手ターンのみ自分の災害竜のコストを二上げられるドラゴン。鉄壁の構えだ。


「ならば俺のターン! この時、疲労状態でない《サラマンフリート・プロミネンス》はコストが一上がる! さらに俺は、コスト六の《サラマンフリート・フレイム》を召喚だ!」


 そして効果を発動。《サラマンフリート・プロミネンス》を疲労状態にすることで、そのコストを自身に加算する。


「これで十二! 《災害竜ウルトラプリニー》の効果でコストが上がっても、《災害竜ゲリラレイン》のコストは十止まり!」


 アタックステップに移ると、輝明は直接攻撃を行う。


「………確かに、今 《災害竜ゲリラレイン》でブロックすれば、破壊は必死。じゃが……?」

「……何だ、一体?」


 枝垂が使ったのは、《退化》。これで《サラマンフリート・プロミネンス》のコストは三下げられ、《災害竜ゲリラレイン》にブロックされて破壊された。


「く、くそ……!」

「われのターン!」


 枝垂は容赦なく攻める気でいる。


「《オーメン・ディザスター》を発動じゃ。その効果によってわれはデッキから、災害竜を一体、手札に加える」


 選んだのは、《災害竜パンデミック》。それを輝明に確認させてから手札に加えた。


「そら、どうした? そなたのターンじゃぞ?」

「……わかっている!」


 否。彼はわかっていない。自分でもわからないぐらい、焦っていることに。盤面を見れば、速攻で勝負を決めようとしたのは輝明だったのに、ボードアドバンテージは枝垂が上回っている、あべこべな状況。


(落ち着けよ、俺……。そんなんじゃ、枝垂には勝てない……)

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