リュウシと井筒の戦いが繰り広げられているのは、裏舞台。この会場の表では、決勝戦が始まろうとしていた。
「まずは選手の紹介です!」
言われるまでもないのだが。改めて司会は解説を入れる。
「昨年度、突如現れ圧倒的な実力でこの大会を制した最強のドラゴンテイマー、皇枝垂選手! 使用デッキは、数々のカードが規制されているにも関わらずブレない強さを誇る【災害竜】であります! またしても優勝をもぎ取っていくのでしょうかああ!」
その強さは、折り紙付き。現にここまで、誰も止められなかったのだから。果たしてことしも彼女が優勝してしまうのだろうか?
「続きましては、【サラマンフリート】使いの小前田輝明選手! 彼は今年が初出場であります! この決勝に残った数少ない新鋭! トーナメント最終戦では、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!」
しかし、枝垂には最後の壁が立ちふさがる。それは赤々と燃える、炎の壁……輝明。
両者向き合うと、まずは会釈。そして握手を交わす。
「…………」
輝明は緊張している。無理もない。自分が決勝まで上がれるとは当初、思っていなかった。この状況は予想外なのだ。観客席の熱気が、彼の心臓の鼓動を早くさせる。
「緊張する必要はないぞ?」
そんな輝明に枝垂は優しく声をかける。
「他人が何を言おうと、何を望もうと関係ない。そなたはそなたのプレイに集中するべき。それが相手であるわれへの礼儀でもあるし、ここですべきことでもある。そしてそれは何であれ、観客は絶対に受け入れてくれよう」
ここまで来て、誰かのためにカードを切る必要はない。寧ろそれは無礼。結局のところ、勝負は自分と相手の間の出来事。そこに他の誰かが介入すること、誰かのためと思うことが間違っているのだ。
「わかった。じゃあ、始めようぜ? 今日、最後の戦いを!」
「うむ! 良かろう……われも手は抜かん。そなたも全力で来るのじゃ」
デッキのシャッフルが終わると、先攻後攻を決める。ジャンケンは輝明が勝利。
「先攻をもらう!」
初手五枚を先に輝明が、その後枝垂が確認し、勝負開始。
「では二〇一一年度チャンピオンを決める戦い! みなさん………決勝戦が始まりまあああああす!」
輝明が先攻を選んだのには、わけがある。
(【災害竜】相手に長期戦は厳しい。エネルギープールが肥えれば肥えるほど、より強力なドラゴンが出されてしまうからだ…。ここは短期決戦に持ち込む!)
《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンド。対する枝垂も一ターン目は、同じカードを使う。
「俺のターン!」
これでエネルギープールは三枚。上手い具合に輝明の手札には、コスト三の《サラマンフリート・ファイア》がある。これを召喚し、ターンを終了。
「われのターンじゃな?」
一方の枝垂は、まだ動かない。コスト二のスペルカード、《エネルギー・シェア》を発動。お互いにエネルギーチャージをするカードである。これでターンは終了。
「俺はコスト五の、《サラマンフリート・プロミネンス》を召喚する! そして、バトル! 《サラマンフリート・ファイア》で直接攻撃だ!」
速攻戦術の良いところは、相手が展開する前に勝負を決められる点。相手のデッキが、コストの重いカードばかりで構成されている場合、一方的な展開を序盤にできるのだ。
しかし、そんなデッキの欠点を枝垂が放っておくわけもない。
「そなたのドラゴンの攻撃宣言時、《災害竜ゲリラレイン》を場に出し、それをブロック!」
「しまったか……!」
その点は既に対策済みなのだ。いきなりコスト八のドラゴンを場に呼び出した枝垂。この効果で出した《災害竜ゲリラレイン》には、攻撃できないというデメリットが付く。しかし相手に睨みを効かせるのには、十分。
「われのターン、ドロー! そしてエネルギーチャージ!」
枝垂もエネルギープールは五枚。
「《災害竜ウルトラプリニー》を召喚して、ターンエンドじゃ!」
それは、相手ターンのみ自分の災害竜のコストを二上げられるドラゴン。鉄壁の構えだ。
「ならば俺のターン! この時、疲労状態でない《サラマンフリート・プロミネンス》はコストが一上がる! さらに俺は、コスト六の《サラマンフリート・フレイム》を召喚だ!」
そして効果を発動。《サラマンフリート・プロミネンス》を疲労状態にすることで、そのコストを自身に加算する。
「これで十二! 《災害竜ウルトラプリニー》の効果でコストが上がっても、《災害竜ゲリラレイン》のコストは十止まり!」
アタックステップに移ると、輝明は直接攻撃を行う。
「………確かに、今 《災害竜ゲリラレイン》でブロックすれば、破壊は必死。じゃが……?」
「……何だ、一体?」
枝垂が使ったのは、《退化》。これで《サラマンフリート・プロミネンス》のコストは三下げられ、《災害竜ゲリラレイン》にブロックされて破壊された。
「く、くそ……!」
「われのターン!」
枝垂は容赦なく攻める気でいる。
「《オーメン・ディザスター》を発動じゃ。その効果によってわれはデッキから、災害竜を一体、手札に加える」
選んだのは、《災害竜パンデミック》。それを輝明に確認させてから手札に加えた。
「そら、どうした? そなたのターンじゃぞ?」
「……わかっている!」
否。彼はわかっていない。自分でもわからないぐらい、焦っていることに。盤面を見れば、速攻で勝負を決めようとしたのは輝明だったのに、ボードアドバンテージは枝垂が上回っている、あべこべな状況。
(落ち着けよ、俺……。そんなんじゃ、枝垂には勝てない……)
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