優勝者が決まった舞台裏では、リュウシと井筒のバトルが始まろうとしていた。
「先に言っておこう、リュウシ君……。降りてもいいのだぞ? 私はそれで何も困らないからね」
彼としては、菖蒲戦で十分な強さを見せつけることができたと思っている。それゆえの発言。だが、
「冗談じゃないぜ! オレは戦う……!」
リュウシは己の意思を貫く姿勢だ。
「そうか。では仕方がない。バトルを始めようか……。これで最後だ、そして今度こそ本当に終わらせよう……カード・オブ・ドラゴンを!」
運命の戦い、その火蓋が切って落とされた。
この勝負、圧倒的な強さを目の当たりにしたはずだが、リュウシの志は曲がっていない。
(切り札は見た…。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》……アレを出させなければいい!)
簡単な話だ。それと、切り札にアクセスできてしまう《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》も危険札。そういう認識が彼の中で生まれている。
先攻はリュウシ。《エネルギー・ギフト》を使いターンエンド。返しの井筒も、同じスペルカードを使用する。
動きがあったのは、リュウシの二ターン目。
「オレは《リヴァイムート・キャンサー》を召喚し、一枚ドロー!」
「………そう言えば君のデッキは【リヴァイムート】だったな。ドローに優れ、手札が潤いやすくデザインした。反面、サーチ系のカードはほとんどない。だから切り札が引けるかどうかは、完全にドロー力に依存している」
しかし井筒は、対峙するデッキの特徴を把握している。
「私のターン」
強力なカードを引かれる前に勝負をつけることができれば、自分の勝ち。でもそれでは面白くない。
「私は《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》を召喚して、ターンを終了」
彼にとって理想の展開とは、お互いに切り札を出しての勝負。相手に何もさせないのは、詰まらないだけなのだ。だからゆっくり展開する。
「オレのターン!」
おまけにリュウシの手札は悪い。
「《井戸汲み》発動、効果で一枚手札を捨てて、二枚ドローだ」
ここで引き当てる、《リヴァイムート・ニヴルヘイム》を。
(《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》の前では、いくらコストが高くても無力! だが、返しのターンに打ち取ることができるカードがコレだ……。ここはコイツの召喚を目指すか…)
井筒にターンが回る。
「私はコスト四のスペルカード、《リーサル・ドーズ》を発動しよう。このターンの間だけ、私の場の最もコストの低いヌークリアのコストが倍になる」
「序盤から来るか!」
コストは二から四へ。微々たる変化ではあるが、リュウシの場の《リヴァイムート・キャンサー》のコストは越えた。
「バトル。もちろん直接攻撃だ」
「させない! オレは《リヴァイムート・キャンサー》でブロック!」
「その場合、《リーサル・ドーズ》の効果……。この効果を付与されたドラゴンがバトルする場合、結果に関わらず破壊され、私は元々のコスト分のダメージを受ける」
「そういうコンボか!」
二点のダメージこそ受けるものの、《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》は破壊されればエネルギープールに送られる。しかもリュウシのドラゴンを除去するおまけつき。
「足りないよ、それだけではない。手札の《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》の効果! 私がダメージを受けた場合、コストを支払わずに場に出せるのさ」
突如手札から繰り出された、コスト八のドラゴン。リュウシの場は、がら空き。一瞬でゾッとするが、
「安心したまえ…。《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》は私のエネルギープールにカードが八枚以上なければ攻撃できないデメリットがある」
しかし井筒のエネルギープールは今、五枚。エネルギーチャージ系のカードを使わなくても、あと三ターンで攻撃が可能に。これには焦りを感じざるを得ない。
ターンはリュウシに移る。このターン中に除去できればベストなのだが、
「お、オレのターン……」
引いたのは、《リヴァイムート・オホーツク》。あって困るカードではないが、現状を打開できるかどうかと言われれば微妙である。だが、場を空っぽにしたままターンを渡すのは危険。次のターンには井筒のエネルギープールは六枚になり、大型のドラゴンが出せるからだ。
「召喚する…。そしてターンエンド」
「私のターン……」
ドローし、手札を確認する井筒。
(まだ、引くな! 《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》さえ来なければ……。ん?)
このスタートステップでエネルギーチャージをした際、井筒のエネルギープールに落ちたカードを改めて見ると、それは《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》。
(………一枚は消えたか! だが二枚、三枚と投入されている場合も十分あり得る! これで安心するのは、まだ早い…)
一方の井筒も、リュウシのその視線に気がついたのか、
「エネルギープールに落ちてしまえば、一先ず安心できる。そう思っているんだろう?」
「…う!」
「そうじゃない。私はこの最強のドラゴンデッキ、そんな凡ミスを回避する術など考えてあるのさ。コスト六、《ヌークリア・フュエル・ドラゴン》を召喚だ!」
そしてその効果を発動。自身をエネルギープールに送り、エネルギープールの枚数以下のコストを持つヌークリアを一体、エネルギープールから場に出す。
「選ぶのはもちろん、《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》!」
恐れていたことが、もう現実に。
「さあリュウシ君、招かれざる冬までのカウントダウンは始まったぞ? 止められるかな?」
挑発的な口調の井筒に対し、
「……たったそれだけなら、逆に安心できるぜ!」
余裕の返事をリュウシはした。
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