カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

第十六話 カードが切り開く未来

CARD 64

公開日時: 2020年9月16日(水) 12:00
文字数:2,272

 優勝者が決まった舞台裏では、リュウシと井筒のバトルが始まろうとしていた。


「先に言っておこう、リュウシ君……。降りてもいいのだぞ? 私はそれで何も困らないからね」


 彼としては、菖蒲戦で十分な強さを見せつけることができたと思っている。それゆえの発言。だが、


「冗談じゃないぜ! オレは戦う……!」


 リュウシは己の意思を貫く姿勢だ。


「そうか。では仕方がない。バトルを始めようか……。これで最後だ、そして今度こそ本当に終わらせよう……カード・オブ・ドラゴンを!」


 運命の戦い、その火蓋が切って落とされた。



 この勝負、圧倒的な強さを目の当たりにしたはずだが、リュウシの志は曲がっていない。


(切り札は見た…。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》……アレを出させなければいい!)


 簡単な話だ。それと、切り札にアクセスできてしまう《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》も危険札。そういう認識が彼の中で生まれている。


 先攻はリュウシ。《エネルギー・ギフト》を使いターンエンド。返しの井筒も、同じスペルカードを使用する。

 動きがあったのは、リュウシの二ターン目。


「オレは《リヴァイムート・キャンサー》を召喚し、一枚ドロー!」

「………そう言えば君のデッキは【リヴァイムート】だったな。ドローに優れ、手札が潤いやすくデザインした。反面、サーチ系のカードはほとんどない。だから切り札が引けるかどうかは、完全にドロー力に依存している」


 しかし井筒は、対峙するデッキの特徴を把握している。


「私のターン」


 強力なカードを引かれる前に勝負をつけることができれば、自分の勝ち。でもそれでは面白くない。


「私は《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》を召喚して、ターンを終了」


 彼にとって理想の展開とは、お互いに切り札を出しての勝負。相手に何もさせないのは、詰まらないだけなのだ。だからゆっくり展開する。


「オレのターン!」


 おまけにリュウシの手札は悪い。


「《井戸汲み》発動、効果で一枚手札を捨てて、二枚ドローだ」


 ここで引き当てる、《リヴァイムート・ニヴルヘイム》を。


(《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》の前では、いくらコストが高くても無力! だが、返しのターンに打ち取ることができるカードがコレだ……。ここはコイツの召喚を目指すか…)


 井筒にターンが回る。


「私はコスト四のスペルカード、《リーサル・ドーズ》を発動しよう。このターンの間だけ、私の場の最もコストの低いヌークリアのコストが倍になる」

「序盤から来るか!」


 コストは二から四へ。微々たる変化ではあるが、リュウシの場の《リヴァイムート・キャンサー》のコストは越えた。


「バトル。もちろん直接攻撃だ」

「させない! オレは《リヴァイムート・キャンサー》でブロック!」

「その場合、《リーサル・ドーズ》の効果……。この効果を付与されたドラゴンがバトルする場合、結果に関わらず破壊され、私は元々のコスト分のダメージを受ける」

「そういうコンボか!」


 二点のダメージこそ受けるものの、《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》は破壊されればエネルギープールに送られる。しかもリュウシのドラゴンを除去するおまけつき。


「足りないよ、それだけではない。手札の《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》の効果! 私がダメージを受けた場合、コストを支払わずに場に出せるのさ」


 突如手札から繰り出された、コスト八のドラゴン。リュウシの場は、がら空き。一瞬でゾッとするが、


「安心したまえ…。《ヌークリア・ウォー・ドラゴン》は私のエネルギープールにカードが八枚以上なければ攻撃できないデメリットがある」


 しかし井筒のエネルギープールは今、五枚。エネルギーチャージ系のカードを使わなくても、あと三ターンで攻撃が可能に。これには焦りを感じざるを得ない。

 ターンはリュウシに移る。このターン中に除去できればベストなのだが、


「お、オレのターン……」


 引いたのは、《リヴァイムート・オホーツク》。あって困るカードではないが、現状を打開できるかどうかと言われれば微妙である。だが、場を空っぽにしたままターンを渡すのは危険。次のターンには井筒のエネルギープールは六枚になり、大型のドラゴンが出せるからだ。


「召喚する…。そしてターンエンド」

「私のターン……」


 ドローし、手札を確認する井筒。


(まだ、引くな! 《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》さえ来なければ……。ん?)


 このスタートステップでエネルギーチャージをした際、井筒のエネルギープールに落ちたカードを改めて見ると、それは《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》。


(………一枚は消えたか! だが二枚、三枚と投入されている場合も十分あり得る! これで安心するのは、まだ早い…)


 一方の井筒も、リュウシのその視線に気がついたのか、


「エネルギープールに落ちてしまえば、一先ず安心できる。そう思っているんだろう?」

「…う!」

「そうじゃない。私はこの最強のドラゴンデッキ、そんな凡ミスを回避する術など考えてあるのさ。コスト六、《ヌークリア・フュエル・ドラゴン》を召喚だ!」


 そしてその効果を発動。自身をエネルギープールに送り、エネルギープールの枚数以下のコストを持つヌークリアを一体、エネルギープールから場に出す。


「選ぶのはもちろん、《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》!」


 恐れていたことが、もう現実に。


「さあリュウシ君、招かれざる冬までのカウントダウンは始まったぞ? 止められるかな?」


 挑発的な口調の井筒に対し、


「……たったそれだけなら、逆に安心できるぜ!」


 余裕の返事をリュウシはした。

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