ここまで勝ち残っている出場者は四人。リュウシ、菖蒲、輝明、そして枝垂である。この中から優勝者が現れることは間違いない。問題はそれが、誰になるのか。そのことで観客席はざわついている。
「やっぱり枝垂じゃないかな? だって才林が消えたんだし、誰にも止められないでしょう?」
「でもそう考えるなら、リュウシも十分勝てるポテンシャルあるってことだよな…?」
「輝明に一票入れるぜ! アイツこそ勝つだろう?」
「菖蒲はどう? 結構善戦するんじゃないかな?」
そしてまず会場に現れたのは、菖蒲。
(相手は誰だろう……?)
対戦相手の姿が見えないことには、全く安心できない。そして菖蒲はリュウシに負け越しているため、彼とはできれば戦いたくない。だが残る輝明と枝垂も、相当の実力者である。
誰が相手でも勝つのは難しい。
(なら、もう好きなようにするしか!)
しかし、それが逆に吹っ切れるキッカケ。緊張は一気に引いていく。
そして、相手が姿を現す。
「そなたか…。【ビオランドラゴラ】使いの、菖蒲!」
「皇……枝垂!」
瞬間、菖蒲の心臓の鼓動が高まる。だがこれは、絶望的な相手と対峙したからではない。
(まさか、前年度チャンピオンと戦えるなんて! こんな機会は滅多にないよ! 自分の実力を知るためにこの大会に出たけど、優勝者のプレイングをここで間近で見ることができる…!)
逆に、興奮するのだ。菖蒲の目には枝垂が、警戒すべき敵とは映っていない。自分が強者相手にどこまで通用するのか、それを知りたいのだ。
「では、始めようぞ」
「わかってる。行くよ、枝垂……!」
握手を交わした後、お互いにデッキを交換してシャッフル。それを受け取ってから、ジャンケンをする。勝ったのは枝垂だったが、
「そなた、どっちで行きたい?」
と、決定権を菖蒲に渡してきた。
(災害竜相手にリードするには……)
先攻しかない。先に菖蒲が初手五枚を引き、見る。それを確認してから枝垂も最初の手札を引く。
「では! 準決勝第一試合、開始です!」
先攻をもらったことは、菖蒲にとって良いことであった。最初のターンは《エネルギー・ギフト》を使い、そして次のターンには、
「《ビオランドラゴラ・メントール》を召喚! その効果で一枚、エネルギーチャージ!」
菖蒲が狙うは、枝垂が展開する前に盤面を完成させること。
(災害竜の無限ループでは確か、盤面には干渉できていなかったはず! 《災害竜ロー・プレッシャー》の効果を考えれば、出される前に手札を使い切ってしまうこと! さらに《災害竜ボルケーノ・エラプション》の効果に対しては、無駄に体力を消耗しなければ!)
ちょうど、菖蒲の考えていることと【ビオランドラゴラ】の相性は抜群。エネルギーチャージに長けるデッキであるためだ。
「われのターン。われはコスト三のスペルカード、《オーメン・ディザスター》を発動。これでデッキから災害竜を一体選び、手札に加える」
しかし、当然枝垂も菖蒲の思惑を既に把握している。ここで手札に加えるのは、《災害竜ダウンバースト》。知ったうえであえて泳がせるつもりなのだ。
返しの菖蒲のターン。既にエネルギープールにはカードが五枚。
「《ビオランドラゴラ・スクアレン》を召喚!」
着々とボードアドバンテージを得ていく菖蒲。攻撃はまだ行わない。
「ではわれのターン。われはコスト四の、《災害竜オーロラ》を召喚じゃ。その効果! 相手プレイヤーは手札を公開しなければならぬ」
「……いいよ、別に」
情報アドバンテージに対して、菖蒲は敏感に反応する。
(マズい…? 手札をずっと見られていたら、トリガーカードを温存する意味が消える! ここは早めにあのドラゴンを除去しないと!)
次のターン、菖蒲はコスト六のドラゴンを召喚できるが、それはしない。
「スペルカード、《枯れ葉》を発動! 選んだ相手のドラゴンを疲労状態に!」
枝垂の場には、一体しかドラゴンはいない。それを疲労させてから、
「バトル! 《ビオランドラゴラ・スクアレン》で《災害竜オーロラ》に攻撃!」
防ぐ手段は特にない。よって枝垂はドラゴンを一体失い、さらに一点のダメージ。だが、《ビオランドラゴラ・スクアレン》が戦闘で破壊した相手のドラゴンは、墓地ではなくエネルギープールに送られてしまう。
(墓地に送らなければ、《災害竜アース・クエイク》で復活できない! ここはこれでいい!)
無理矢理自分にそう言い聞かせた。
「では、われのターン。ドロー! そしてエネルギーチャージ!」
これでエネルギープールには六枚のカードが。
「召喚、《災害竜メテオフォール》!」
「あ、あれは…!」
攻撃の代わりに手札の災害竜を捨てれば、そのコスト分ダメージを与えられるドラゴンである。
「効果を発動。自身を疲労状態にし、手札の《災害竜フォレストファイア》を捨てる。よってそなたに、八点のダメージじゃ!」
「し、しまったわ…!」
まだ警戒が足りてなかったのか、大きなダメージを受けてしまった。
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