カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

第八話 強さの証明

CARD 26

公開日時: 2020年9月8日(火) 12:00
文字数:2,312

 三回戦第一試合に枝垂は呼び出された。


「順番は決まっているので、試合を最後の方に回してもいいんですが……。控室の選手をできるだけ不安にさせないためにもチャンピオンの試合は早めにしているのです…」


 係員へ、そういう苦情がどうやらあったらしい。


「われは別に構わん。勝つだけじゃ」


 ここで枝垂は余裕の表情を見せる。


「来たわね、枝垂! ここに来て絶好の対戦カード!」


 対戦相手は、御門みかど紅葉もみじ。枝垂の知り合いではないが、向こうは彼女のことを知っている様子。


「去年は私、海外留学中でこの大会に出れなかったのよ? だからお前が優勝できた…違う?」

「何が言いたいんじゃ?」

「本来なら、私が日本一になっていたはず。でも運が良くて、お前が私の代わりになった。それなのにチャンピオンチャンピオンって一々ビッグな肩書き背負っちゃってさ!」


 紅葉の言い分としては、おそらく自分の方が本来ならば枝垂よりも強いと言いたいのだろう。


「ならば、証明してみせよ! そなたの強さをわれに刻め…さあバトル!」

「いいわ…! 見てなさい。お前のチャンピオンって設定、過去のものにしてやるわ!」



 枝垂は相手が誰であろうと、基本的に手は抜かない。もちろん紅葉に対しても全力でぶつかるのだ。


(自分への言い訳なんぞ、負け犬の遠吠えよりも聞き苦しいだけじゃ…。われと向き合うものは誰であろうと!)


 しかしその意気込みは、紅葉も同じ。寧ろ彼女は戦いたくてしょうがなかった相手とここで当たったのだから、より一層やる気に満ち溢れている。

 それが、ゲームにも表れているのか、先に場にドラゴンを出したのは紅葉の方。


「《女帝眷龍じょていけんりゅうアクアホール》召喚! コストは四!」


 それは自分のターンのスタートステップが終わるとさらにエネルギーチャージを行えるドラゴン。しかし代償としてそのターンには攻撃ができなくなる。


(どうやら良い手札のようじゃな…)


 だが今の枝垂の手札には、《災害竜UVレイ》が。


(《災害竜UVレイ》は疲労状態のドラゴンの効果しか無効にはできぬ。この場合、攻撃できなくなるデメリットが逆にその効果から抜け出すことを可能にしておる…)


 返しの枝垂のターン。


「われはコスト五の、《災害竜プラントペスト》を召喚じゃ。これでそなたがドラゴンを召喚する場合、支払うコストが一多くなるぞ!」


 テンポアドバンテージ重視のカードを出した。まずは様子見という感じだろう。


「危ないわね。《女帝眷龍アクアホール》を出してなかったら終わってたわ! ま、私のターン! ドローした後、二枚エネルギーチャージ!」


 これで紅葉のエネルギープールは六枚。しかし召喚できるドラゴンのコストは最大でも五。


「行くわ! ここは攻める! コストを六支払って召喚、《女帝眷龍ブラインドアイズ》!」

「…厄介じゃな…」


 そのドラゴンが持つ効果は、大きく分けて三つ。一つは光の女帝眷龍共通効果である自分のエンドステップ時に発動できる、自身をデッキに戻してから別の女帝眷龍のリクルート。さらに女帝眷龍が相手のドラゴンとバトルする場合、相手に与えるダメージを倍化できる。ただし三つ目の効果はデメリットで、自身は相手のドラゴンに攻撃できないのだ。


(戦闘ダメージを稼がれる前に除去すべきドラゴン…ならば!)


 枝垂のターンが始まる。引いたのは《災害竜カルデラ》。自身を疲労状態にする代わりに相手のドラゴンを破壊し、コスト分のダメージを撃ち込めるドラゴン。だがコストは九と高い。今の枝垂のエネルギープールは六枚で、場に呼び出すことは不可能。


「…われはコスト五の、《災害竜UVレイ》を出しておく。これでターンエンドじゃ」

「待った! 私はトリガーカードを使うわ! 《女帝じょてい誕生たんじょう》!」

「なぬ?」


 その効果で紅葉はコストを踏み倒して手札から女帝眷龍を場に出せる。


「次のターンに攻撃は行えないけどね、場にいることに意味があるカード! 《女帝眷龍ダークオビディエンス》!」


 コスト八のドラゴンだ。


「やはりか…」

「ほう? お前も知っているようだね、その効果を!」

「確か…。光の女帝眷龍共通効果に加えて、一ターンに一度だけバトル相手のドラゴンのコストを四下げられる。ただし自身はブロックを行えないはずじゃな?」


 コクンと頷く紅葉。相手が知っている場合、新鮮味はないが、プレイはしやすい。相手の注意は最も警戒すべきドラゴンに向けられやすいのだから。


「では私のターン!」


 このターンも紅葉は《女帝眷龍アクアホール》の効果で、追加でエネルギーチャージ。


「盤面の優位性を築くわ! 召喚、《女帝眷龍ミクロコスモス》!」


 コスト七のドラゴンが場に出た。


「それは初めて見るな?」

「あらそう? じゃあたっぷり味あわせてあげるわ! 私のアタックステップ! 《女帝眷龍ブラインドアイズ》で相手に直接攻撃!」


 この攻撃をブロックすることもできるが、そうするとバトルが挿入され、《女帝眷龍ダークオビディエンス》の効果で負けてしまう。返しのターンでもその効果は使えるので、


「ここは、通すとするか…」


 枝垂は防がなかった。五点の体力を奪われ、残りは二十五点。


「ターンエンドよ? どう? 先制したのは私! 先に相手にダメージを与えたのは私!」

「自惚れるのは勝ってからにせよ…。われのターン」


 枝垂のエネルギープールはこのターンで七枚。相手の紅葉は八枚。ついにエネルギープールに差が出始めた。


「われはコスト七、《災害竜オゾンホール》召喚」

「げげっ! 《災害竜オゾンホール》! 手札を捨てて、その捨てたコスト以下のドラゴンの攻撃を無効にできるウザいドラゴン!」

「これならいくらそなたの《女帝眷龍ダークオビディエンス》の効果があっても、われの災害竜には届かんよ?」


 彼女のターンはこれで終わり。

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